うつ病をゲーム「Ingress」で克服 ポケモンGO生みの親も祝福(2/3 ページ)
半年間、部屋から1歩もでられない
会社を休職することになったMさんですが、その後の生活は「ツライこと専門のアンテナが開きっぱなしになって、ほかが全部閉じてしまったような感じだった」といいます。
「自分の部屋から1歩も外にでない日が、最初の半年くらい続きました。もう何もする気が起きないんです。ベッドの中からでられない。汚い話ですけど、1週間お風呂に入らなくても何も感じないんです。動かないし、外にでないから、部屋の中にまったく変化がなかった。でも実家暮らしだったのは幸いでした。食事は部屋の前まで持ってきてくれたので、それを食べて戻すような。ドラマにあるけど、本当にあんな感じ」
寝ても30分ほどで目が覚めてしまうというほど重度の睡眠障害にも陥っていたため、大量の睡眠剤と精神安定剤、強い抗うつ剤を処方されており、1度に飲む薬の量は5〜6種類はあったといいます。それでも状況は改善せず。自室で過ごす日々が続きました。
「2週間の薬代が保険を適用しても1万円くらいはかかっていて大変でした。なかなか自分に合う薬が見つからなくて、見つけるまでに1年くらいはかかりました。でも合う薬が見つかってからは、徐々にテレビが見られるようになり、家族とも会話できるようになりました」
うつと戦いはじめて1年、ようやく薬の効果が出はじめ、自宅から半径100mくらいまでなら外出できるようになったというMさん。「当時は考えている余裕がまったくなかった」といいますが、主治医との相性がとくに悪くなかったこともよかったよう。
その主治医からは「薬をちゃんと飲むこと、決まった時間に起きること、この2つができるといいね」とアドバイスされたそうです。
2015年の早春、Ingressと出会う
症状の揺り戻しを繰り返しつつも、主治医のアドバイスに従って朝6時ごろ起床し、家の周りを散歩できるようになっていました。しかしここで1つの問題が発生。休職できる期限が迫っていたのです。
「接客業ともいえる業務内容でしたし、自分にはまだとてもできると思えなかったこともあって、そのときはさすがに会社を辞める覚悟をしました」
期限までに治るかどうかは分からない――そんな悩みを抱えていたMさんに、知り合いが1つのゲームを教えてくれました。それが位置情報ゲーム「Ingress」でした。
「知人が、海外のブログでIngressがうつに効果があると知って勧めてくれたんです。ゲームのルールはまったく分からなかったんですけど、自宅近くの神社に3ポータル、半径100m以内に合計5ポータルあるので、そこを毎日回ってハックしなさいって教えられました」
取りあえず近くのポータルまで出掛けて、ハックボタンを押す。これを日課にしたそうです。
Ingressを通じて行動範囲が広がり、復職を果たす
アドバイスに従って、毎日5ポータルを巡ってハックをしていたMさん。Ingressをプレイしていることを主治医に話したところ「軽い運動はいいことです」といわれたそうです。ジョギングやジムは肉体に負荷がかかるため勧められないけれど、散歩や街歩きはいいことだと。
ゲームのやり方を少しずつ教えてもらっているうちに、もう少し遠くのポータルに行ってみよう、今度はCF(コントロールフィールド。ポータル3つをリンクで結んで三角形に塗りつぶし、陣地のようにすること)を作ってみよう。もっと長いリンクを張ろうという興味が湧いてきたといいます。
「Ingressをしながら、近所の神社から始まって隣街へ、さらにその隣へと行動範囲を広げることができました。出掛けることが苦痛でなくなっていって、休職期限内の2015年4月に、無事復職できました」
復職したといっても2年のブランクはありますし、まだ治ったわけではないので、昔のようにバリバリ働けるわけでもありません。会社と相談し、まずは会社に行って帰ってくるというところから徐々に慣らし、週3日、1日4時間勤務で事務作業をすることになったそうです。
「業務内容の変更に伴って職場も変わって、以前よりもかなり通勤に時間がかかる場所になりました。最初は4時間も持たなかったですね。会社に到着したところで限界になったこともありました。でも今はフルタイムで週4日勤務できるようになりました」
現在でも完全に治っているわけではないといいます。症状は治まっているけれど、何がきっかけで悪くなるか分からないので、薬の服用は続けているそうです。それでも薬が軽くなったことでお酒も飲めるようになり、いろんな集まりに顔を出せるほどになっています。
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