好きになった相手がロボットだったら――? 決して年をとらないロボットと少女の百合マンガ「となりのロボット」が切ない:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第38回
今年は百合が熱い……! そんな中、今いちばん紹介したい百合マンガが「となりのロボット」です。
ねとらぼ読者のみなさん、ごきげんよう。虚構新聞の社主UKです。
前回掲載の総集編「『このマンガがすごい!』にランクインしなかったけどすごい! 2015」、各方面から多くの反響をいただき、本当にありがとうございました! 昨年発売作品の1位として、樫木祐人先生の「ハクメイとミコチ」(KADOKAWA)と、つくしあきひと先生の「メイドインアビス」(竹書房)の2作を挙げたのですが、掲載後の「社主、分かってるじゃないか!」という声に大変励まされました。今年もこの調子でおもしろいマンガをたくさん紹介していければと思います。
さて、この年末年始は社主含む百合クラスタにとって何かと盛り上がる話題がてんこ盛りでした。
11月発売の文芸・思想誌「ユリイカ」が「百合文化の現在」として百合特集を組み、今月からはアニメ「ユリ熊嵐」の放送が開始。マンガ方面ではこの「ユリ熊嵐」のコミカライズ版を連載している「月刊コミックバーズ」(幻冬舎)から、豪華執筆陣による百合アンソロジー「ユリボン」が発売され、本連載でも紹介した(関連記事)缶乃先生の「あの娘にキスと白百合を」(KARDOKAWA)第2巻も発売されました。
昨年、社主の百合アンテナの感度が急激に高まったこともあるかもしれませんが、客観的に見ても今年は久々に百合が盛り上がるのではないか――、そんな予感が漂う2015年。そして、そのためにはやはり素敵な百合作品が広く知られなければ!
ということで、今回は今年最初を飾るにふさわしい素晴らしい百合マンガをご紹介。西UKO先生の「となりのロボット」(全1巻/秋田書店)です。
ヒロちゃん 私のこと 忘れないでね
女子高生の「チカちゃん」こと央子(ちかこ)が、近所に住む「ヒロちゃん」に初めて出会ったのは4歳のある雨の日。その日、17歳のヒロちゃんは傘をさして公園のベンチに座っていました。この日以来2人は「チカちゃんとヒロちゃん」として友達になります。
またある日、小学生になった央子はいつものように17歳のヒロちゃんと公園で出会います。それは央子が中学生になっても、そして高校生になった現在も――。そう、彼女が4歳の頃に出会った友達のヒロちゃんは決して歳を取ることのない女性型ロボット「プラハ」なのです。
人間社会に自然に溶け込むことを目標に開発中のヒロちゃん(=プラハ)は、央子との長いコミュニケーションを通じて、見た目はそのままに、その学習機能を大きく成長させていきました。最初の頃は不自然だった彼女の言葉づかいも、央子との「友達しゃべり」が導入されたことでより自然なものに進化します。
「チカちゃんはちょっとずつ大人になる / わたしもちょっとずつ人になれている と 思う」
もちろん成長したのは央子も同じ。自身も女子高生になり、ついにヒロちゃんの身長を追い抜いたその日、彼女はこれまでずっと抱いてきた想いを口づけとともに伝えます。
「ヒロちゃん 私のこと 忘れないでね」
……と、まさに百合好きには直球ど真ん中、キュンキュンくるシチュエーションですが、その央子の告白に対するヒロちゃんの答えがこうなのです。
「データの保護は最優先事項だから大丈夫」
「忘れないでね」と言われたロボットが、こう答えるのは「正しい」。けれど、その「正しい答え」が相手の求めている答えであるかどうかはまた別の話。
百合マンガの王道「好きになった相手が同性だという困惑、そして受容」に加え、央子が想うヒロちゃんは「プラハ」というコードネームを持った機械なわけですよ。マンガであれ小説であれ、叶わぬ恋の切なさというのは永遠のテーマですが、同性の人形(ひとがた)に恋してしまうというのは、もはや切なさと言うより絶望に近いものがあります。「正しい答え」を返したヒロちゃんと、それを聞いた央子の表情の残酷な対比に、社主は本当に心苦しくなりました。そしてまた「これは単なる百合ではない……」と確信した瞬間でもありました。
こんなに哀しい冒頭から始まる本作ですが、この後、物語は「わたしはロボットです」の独白から始まるヒロちゃん視点と、「私の幼なじみはロボットです」の独白から始まる央子視点の両方から語られていきます。
どう考えても成し遂げられるとは思えない央子の想い、そしてヒロちゃんは央子から寄せられる「愛」という感情を理解できるのか。素晴らしいクライマックスを含む物語の結末はぜひ手に取って読んでみてください。
「好き」という感情とは何なのか
それにしてもここまで来ると本作のテーマは「百合」という枠を超え、「愛や好意とはいったい何なのか」という根源的な問いにまで広がっていきそうな気がします。
もし好きだという感情が「相手のことを少しでも多く知りたい気持ち」と置き換えられるなら、特定の相手に関するデータを大量に蓄え続けるロボットは「好き」を知ったことになるのか。
作中ヒロちゃんが研究室で尋ねる「何ミリセックからキスだと認めていいですか?」、「人間は愛している相手にキスをしますね/ではキスをされたら愛されていると判定していいですか?」という問いに答える術を、人間なのに社主は持ちません(もちろん「場合による」と答えることはできますが、その「場合」を厳密に定義できなければ、ヒロちゃんは満足してくれないでしょう)。
本作「となりのロボット」では、ヒロちゃんとチカちゃんのやさしく切ないドラマが展開される一方、認識論的に「好き」を理詰めで追究する視点をも含んだ、百合好きだけでなくSF好きにも受け入れられる広い射程を備えた、本当に素晴らしい作品です。
「性や種に関係なく『好き』という気持ちは尊いな……」と、ニフラムを浴びたバブルスライムのような気持ちのまま、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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ところで席が隣っていうシチュエーションいいですよね。
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