「諸悪の根源は製作委員会」ってホント? アニメ制作における委員会の役割を制作会社と日本動画協会に聞いた(1/3 ページ)

製作委員会ってそもそも何をする組織なの。

» 2017年06月18日 11時00分 公開
[Kikkaねとらぼ]

 「アニメがヒットしても製作委員会がもうかるだけでアニメーターには還元されない」「製作委員会の利益搾取」「広告代理店の中抜き」などアニメ制作の現場からしばしば聞こえてくるこれらの意見。アニメ制作において製作委員会の役割とはなんなのか、製作委員会は本当に悪なのか、中堅制作会社の役員と日本動画協会を取材しました。

 6月7日に放送されたクローズアップ現代+「2兆円↑アニメ産業 加速する“ブラック労働”」でも、製作委員会の構造についてパネルで説明するくだりがありましたが、視聴者からは「問題点、このパネルで一目瞭然なのに」「やりがい搾取の典型」「製作委員会のシステムが一番の問題なんじゃないの?」といった疑問の声があがっていました。


製作委員会 物議を醸したクローズアップ現代+のパネル(番組内でのパネルを再現したイラスト)

制作会社が語る、製作委員会の役割

製作委員会とは何なのか

 批判的な意見が相次ぐ中、なぜアニメも実写も製作委員会方式を採用するのか。中堅アニメ制作会社の役員A氏が取材に応じてくれました。

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――アニメ作品における製作委員会とはどういった組織なのでしょうか

制作会社A氏アニメを作る際のリスクヘッジ組織であり、委員会に参加した各社の営業力によって委員会全体の収益を最大化するための組織です。ビデオメーカー(DVDやBlu-rayの販売元)、広告代理店、出版社、玩具メーカー、配信会社、アニメ制作会社、放送局など作品によってさまざまな企業が製作委員会に入り、作品に出資します。

広告代理店の中抜き疑惑

――ネット上で「アニメの製作費を広告代理店が中抜きをしている」という話が話題になっていますが、これは本当なのでしょうか

制作会社A氏それはウソです。代理店が製作委員会に入る場合には、きちんと出資してリスクも負担しており、そのお金が制作費に回されます。アニメの製作費は後述する“主幹事会社”に集められ。100%アニメ制作会社に支払われます。

――ではなぜ「広告代理店とテレビ局が中抜きしている」というウワサが広まったのでしょうか

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制作会社A氏この誤った情報の元を調べると平成15年(2003年)6月に経済産業省が「アニメーション産業の現状と課題」という調査資料を出しており、この4ページに“中抜き”と勘違いされてしまうような模式図があるのを見つけました。


製作委員会 経済産業省が2003年に公開した「アニメーション産業の現状と課題」の資料(アニメーション産業と現状の課題より)

 この模式図が表しているのは、ゴールデンタイムや日曜日の朝に放送されている子ども向けアニメのモデルです。なおかつスポンサーが広告代理店に支払っているのは“アニメの制作費”ではなく“広告宣伝費”(CMを流す費用)なのです。テレビ局はあくまで「番組を企画してアニメ番組を作り、代理店を通じてスポンサーにCM放送枠を販売する(視聴率が高ければ高いほど高い値段で売れる)」というビジネスを行っているのです。代理店は代理店で「営業をしてスポンサーを探していく」というビジネスを行っています。つまり、この模式図のモデルの中でも広告代理店は“中抜き”しているわけではないのです。このときの調査対象が主に子ども向けのアニメーション作品のビジネスモデルだったことからこの図が掲載されたようなのですが、現在のアニメビジネスにはほとんど当てはまらないモデルです。

――具体的な例でいうとどういうことでしょうか

制作会社A氏例えば「サザエさん」は東芝がメインスポンサーとなっています。「サザエさん」は全国ネットのゴールデンタイムの番組ですので、東芝は広告代理店を通じてかなりの広告宣伝費を払っているはずです。しかし、これはあくまでも“CMを流すためのお金”であって“アニメの制作費”ではないことはご理解いただけると思います。

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――そういうことだったんですね

制作会社A氏この調査資料を作成した人はあくまで“お金の流れ”としてこの模式図を作ったのでしょうが、スポンサーが支払ったお金の名目の記載がないので「制作費の中抜きという」誤解を産む原因になっているかと思います。先ほどの模式図のビジネスモデルの場合、「視聴率を取れる」「スポンサーのグッズが売れる」ことが最優先されますので、スポンサーはおもちゃを売るため内容にまで細かく口を出してきます。それがアニメを作る上での制約となっていたときに、「制作費もCM放送費用も全額を負担するので、作り手側が作りたいものを放送できる」という形で生まれてきたのが“製作委員会”方式なのです。つまり現在のアニメ産業の多様性は製作委員会があるからといっても過言ではありません。すなわちわれわれのような子ども向けアニメではなくコア向けアニメを作っている制作会社は製作委員会がなくなると仕事自体がなくなってしまうのです。

製作委員会に入ればもうかるのか

――製作委員会に入ると大きな利益が得られるのでしょうか

制作会社A氏そんなことはありません。基本的にアニメ作品10本に出資したとしても大体9本は外れます。そのうちの1本がヒットして9本分の赤字が埋まるかどうかという感じなのです。ただ各社が権利の窓口(※)を持っているので、その権利運用がうまくいけば、例えば製作委員会への出資自体が赤字でも、窓口での利益(パッケージの販売利益、グッズの販売利益、出版の利益、映画配給の利益など)で回収できる可能性もあります。具体的な例を挙げてみるとするとビデオメーカーが製作委員会に1000万円出資したところ、委員会からの戻しは800万円だった。ところがDVDはたくさん売れて、その販売利益が1500万円上がったなどの場合です。制作会社の場合は制作費が入ってくるだけなので、その利益は小さく、制作費は定額なので利益は上振れしません。つまり獲得窓口の権利運用ができない規模の制作会社が製作委員会に出資して利益を出すのは厳しいと思います。

※ビデオメーカーであればパッケージを作る権利、グッズメーカーであればグッズを作る権利など。

――製作委員会方式が増えてきたのはどうしてでしょうか

制作会社A氏アニメ作品を大人が見るようになってきて、パッケージ(VHS)を売るというビジネスモデルが1980年代後半から1990年代初頭にできてからでしょうか。それ以前はテレビ局側が望む作品=視聴率を取れる作品か、ナショナルクライアント的なスポンサーが望む作品しか作れませんでしたが、OVA(オジリナル・ビデオ・アニメーション)などのパッケージで制作費が回収できるという方式が確立されてからは、作り手側が作りたい作品を制作できるようになりました。この場合、製作費は作り手で用意する必要がありますから、製作委員会方式が増えてきました。

――先ほどのお話にあったリスクヘッジというのは

制作会社A氏先ほどお話した通り、アニメ作品の9割ははずれますので、そうなってしまった場合のリスクを複数社で負担して分散するということです。一般的な深夜アニメの制作費は1話あたり1500万円といわれており、13話で1億9500万円。これに宣伝費(1000万円程度)を加えた、約2億500万円が1クールで必要なお金になります。もしこれを1社で抱えて、さらにヒットしないとなると大変な損失になりますよね。さらに製作委員会方式で作品を放送するためには「番組提供費」というものも必要になるので、4社から5社、多い時は10社程度でリスクを分散する形が主流になっています。

――番組提供費というのは

制作会社A氏アニメを放送するための放送枠を買うお金です。よく勘違いされるのですが、ナショナルクライアントの広告宣伝費に頼らず、アニメ作品をテレビ放送する場合には、テレビ局がお金を出してくれるのではなくて、製作委員会で放送枠をテレビ局から買うのが主流なんです。この場合放送枠を売ったテレビ局は、放送枠を販売した段階で売上が確定しますのでメリットが大きいです。製作委員会はこの購入した放送枠を委員会に出資した各社でどう負担するか、またどうやって外部からスポンサーを集めてくるかなど協議して決めていきます。つまり製作委員会システムでアニメを製作して放送するときには「アニメの制作費」と「番組提供費」という二重のリスク負担したところからビジネスがスタートするのです。つまり製作委員会に出資しないアニメ制作会社は、理屈上は受注下請けだけなので“ノーリスク”なのです。ただしこれはあくまで“理屈上の話”です。

――番組提供費の具体的な金額はどの程度なのでしょうか

制作会社A氏放送枠や局ネットの数によっても違いますが、基本的には非公開です。ただし放送局の数が増えれば増えるほど番組提供費がかかっていると考えてよいと思います。

製作委員会の成り立ち

――製作委員会にはいろいろな企業が入るということですが、そもそもどうやって委員会が作られていくのですか

制作会社A氏まずはビデオメーカーや制作会社などのプロデューサーが企画を練り、周辺の会社に声掛けをするところから始まります。賛同する会社が増えていくと、主幹事会社というものができて、「うちが責任をもってお金を集めます」ということになります。この“責任”というのは、「もし目標とする出資金を集められなければ自社で負担します」という意味です。

――資金調達に失敗して主幹事会社が多めに払うということはありえるのでしょうか

制作会社A氏そういうパターンはありますね。ただそうなったとしても、作品がヒットすれば出資額が増えた主幹事会社には多めにはリターンが発生することになりますので、作品が当たれば利益は増加することになります。

――この作品はこの会社が主幹事、というようなことはオープンになっているのでしょうか

制作会社A氏基本的には明かされませんが、パッケージメーカーや映画会社が主幹事になることが多いです。主幹事には、全体を調整する能力と資金力が求められますので、主幹事をできる会社は限られます。

――ネット上では「製作委員会に入りたくても入れない会社も多い」という情報が流れていますが、これは本当でしょうか

制作会社A氏本当だと思います。製作委員会にとって最も重要なのは「収益を最大化できるか」、つまりその会社が獲得する権利運用窓口にどれだけの営業力や実績があるかです。出資を希望する会社の営業力が低かったりすると、最終的に製作委員会全体の収益が下がってしまいますからお断りする場合も多いと思います。また、アニメ制作会社が出資だけしても回収ができない確率が高いわけですから、ある種の親切心で「入らないほうが良いのでは」というお話が出るかもしれません。

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