発想が変われば世界も変わる――スプツニ子!さんが語る、“デザイン+物語”の力

見た人に強い印象を残す作品を発表し続けるアーティスト、スプツニ子!さん。その作品づくりの背景には、彼女が信じる、とある「デザイン」の考え方があった。

» 2014年11月21日 06時45分 公開
[宮本裕人,ITmedia]

 女の子になりたくて、生理を体験できる「生理マシーン」を作ってしまった男の子、月にハイヒールの足跡を残すべく「ムーンウォークマシーン」を作った女の子、カラスとの会話を試みるために「カラスボット」を開発した理系女子……そんなちょっぴり変わったキャラクターたちを独特の映像と音楽で描くのは、アーティストのスプツニ子!さんだ。

 これらの創作の背景には、一体どのようなビジョンがあるのだろう。早稲田大学で行われた第18回metaPhorestセミナー「<デザイン+物語>で考える未来のかたち」で、彼女の講演を聞いてきた。

スプツニ子!さんプロフィール

1985年東京生まれ。アーティスト/マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教。ロンドン大学数学科および情報工学科を卒業後、英国王立芸術学院(RCA)デザイン・インタラクションズ専攻修士課程を修了。2013年より現職。主な展覧会に、「東京アートミーティングうさぎスマッシュ」(東京都現代美術館、2013)、「Talk to Me」(ニューヨーク近代美術館、2011)など。http://sputniko.com/


問題を提起するデザイン

 一見奇抜に見える彼女の作品には、ある共通点がある。それは、起こり得る未来の可能性を提示している点だという。彼女はこれを、「問題を提起するデザイン」と呼ぶ。一般的にデザインというのは問題解決をするためのものだと考えられているが、彼女のデザインは、その問題自体を提案するものなのだ。

 「『こんな問題があるんだけど、あなたはどう考えますか?』と提案する。そうすることで人々が、『あ、僕はどうなんだろう』『私の友達や家族はどうなんだろう』と考えて議論が生まれ、いろんなことがわかってくるんじゃないかというデザインなんです」

 これは、彼女がロンドンの英国王立芸術学院(RCA)で学んでいた「Speculative Design」の考え方であり、古くからあったものだという。

 たとえば1965年、イギリスの建築家セドリック・プライスは、ロンドンやマンチェスターといった都市でしか高等教育を受けられなかった当時の状況に疑問を投げかけるために、移動式の大学を提案している。いまでこそiTunes UやMOOCといったオンライン教育が、世界のどこからでも知恵にアクセスできる環境を可能にしているが、彼は50年前からその未来を提案していたのだ。

 もちろん未来には、さまざまな可能性がある。そこで覚えておかなければいけないのは、「望ましい未来」は人によって異なることだとスプツニ子!さんは話す。

 「いろんな未来があるなかで、『こんな未来がありますよ』『こんな未来が起こり得ますよ』というのを鮮やかに描いて、コミュニケーションをする、物語る力がデザインにはあるんです。そうやって未来を提示することで、もっともっと考えが促進されて、『自分にとっての望ましい未来はなんなのか』というのをちゃんと理解することができると思うんですね。それがもっと議論されれば、もっといい未来を作ることができるんじゃないか。それがSpeculative Designの考え方です」

ポップをハッキングする

 こうして作られた彼女の作品は、ここ数年で広く世に知られるようになっている。その背景には、YouTubeやTwitterといった新たなメディアの普及があるという。

 「誰でもメディアにアクセスできる時代で、YouTube やTwitterを使って、お金をかけずにコンテンツを作って発信することができる。これまで絶対にポピュラーにならなかったようなとんでもないものを、ポピュラーにすることができる。ポップをハッキングすることができる時代なんです」

 スプツニ子!さんはそんないまの状況を、「New Pop」の時代だと表現する。つまり、かつてはテレビや雑誌といったメディアでしか生み出せなかったポップカルチャーを、いまや誰もが作ることができるのだ。

 たとえばRCAの卒業制作で作った「生理マシーン、タカシの場合。」も、Twitterがなければ制作できなかったという。アイデアを思いついたものの、お金も時間もなかった彼女はTwitterで協力者を呼びかけた。そうして映像制作やヘアメイクができる人を15人ほど集め、制作費約10万円でこの作品を作ったのだ。

生理マシーン、タカシの場合。

 「15年前に活動していたらこんなことは起こらなかった」と、彼女は振り返る。そしてこれからもNew Popを作っていくべきだと話した。

 「未来を提示するデザインを、大学や美術館といったインテリコミュニティの中でやるだけじゃもったいないと思っていて。本当に多くの人に見てもらって考えてもらって、本当に世界を動かして変えていきたかったら、こういう新しいポップの可能性をガンガン模索するべきだと私は思っています」

発想が変われば世界も変わる

 スプツニ子!さんの作る“デザイン+物語”は、世界をどのように変えていくのだろう。彼女は最後に、 Speculative Designの可能性をこう語った。

 「政治家になりますとか、学校を建てますとか、ジャーナリストになりますとか、いろんな世界の変え方があると思うんですけど、世界って必ず、人の頭の中から生まれているものなんですね。だからこういったアートやデザインを通して人の発想を変えることができたら、その頭から生まれてくる世界も変わりますよね。人の発想を揺さぶったり刺激したり変えることができたら、そこから生まれる世界も変わる――そう信じて私はいま、スプツニ子!の活動を続けています」

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