ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。サイトトップのITちゃんも「梅雨か……………」とつぶやいていますが、まもなく7月。そろそろ暑くなってきた昨今、いかがお過ごしでしょうか。

前回取り上げた缶乃先生の百合マンガ「あの娘にキスと白百合を」で、初めて公に社主の百合好きを熱く語ったところ、予想外に大きな反響をいただいて驚きました。中には「がっちり握手したい」という百合同志からのコメントまであって、「言ってみるものだなあ」としみじみしてしまった次第です。前回をもって本連載での百合マンガ紹介を解禁したので、これからも折を見て百合を取り上げていきます。同志は楽しみにお待ちください。
さて、今回はそんな百合とは針を全く逆に振り切ったマンガをご紹介。「月刊COMICリュウ」にて連載中、ninikumi先生の「シュガーウォール」(〜1巻、以下続刊/徳間書店)です。同誌からの作品紹介は第17回の「きのこいぬ」以来2度目ですね。まずは公式のストーリー紹介から。
ストーリー
両親も姉も失って、ひとりぼっちになってしまった高校生の柚原(ゆはら)くん。久しぶりに再会した幼なじみの黄路(こうろ)はお弁当を作ってくれたり家事をしてくれたり妙に積極的で……。甘〜い青春ものかと思いきや意外や危険な匂いもプンプン漂う新感覚ラブストーリー(はぁと)。
うん、まあ何と言いますか、読む限り「これはラブコメかな?」と思いそうな紹介文ではないですか。表紙もやさしい色使いですし。
というわけで社主もなじみの少女マンガを読むかのような穏やかな気持ちで手に取ったわけなのですが、その第1話からひきつけられるようにして読み、なおもそのまま無言で読み続け、最後は何とも言えない脱力感(理由は後述)とともに、「これはやられた……」と一言つぶやくしかありませんでした。読む前に抱いていた予想を完全に裏切る展開の作品だったのです。
確かに上の紹介文はウソではありません。けれど、本作の本質部分をあえて外して書いてあるとしか思えません。「魔法少女の萌えアニメと思って見ていたら、いきなり黄色の人の頭がもげた」に近いショックだと言えばいくらか共感してもらえるでしょうか。
おいおい、不穏すぎるぜ……
書きながら、一読目のショックがフラッシュバックしてちょっと感情的になってしまったので、落ち着いて話を戻すと、物語はメガネがトレードマークの主人公・柚原が幼なじみの短髪少女・黄路と偶然街で再会するところから始まります。自分に「ゆんちゃん」と呼びかけるただ1人の相手だったことから、それまで全く覚えていなかった黄路の存在を思い出す柚原。
「柚原の亡くなった姉に線香をあげたい」と言って、そのまま柚原の家までやってきた黄路ですが、家族のいない室内はゴミや洗っていない食器が散乱するありさま。それを見た黄路は食器の片づけや部屋の掃除をし、さらに翌朝からは毎朝手作りのお弁当を届けに来てくれるようになりました。「顔も覚えていなかった幼なじみが突然自宅にやってきて、その上家事まで手伝ってくれる」という話を聞いた同級生の武内が「エロゲ?」と尋ねるのもやむなしです。社主だってきっとそう尋ねます。
……と、こうして文章としてつづっていくと何とも普通のラブストーリーっぽいのですが、実際に作品を読むと、どうにもこうにも冒頭から黄路がちらほらと不穏なのですよ。手作り弁当を持ってきてくれたシーンでは「毒なんかはいってないよ?」、その帰り道に出会った黄路にお礼のジュースをおごろうとしたら「………ほんとにたべたんだ」。

そして「実は昔のことをあまり覚えていない」と話す柚原と別れた帰り道での彼女のモノローグ。
▼▽「ほんとにおぼえてないんだね ゆんちゃん」
▼▽「わたしのおとうさんを殺したこと」
……ひぃ!!!!
ヒヤヒヤして読んでる皆さん、決定的場面はここからですよ……
さて、このまま展開は黄路による凄惨な復讐劇になるのかと思いきや、そうでないところがまた面白い。その後は弁当のお礼として2人で街を散歩しながら思い出話をしたり、風邪の看病をしてもらったり、やはりイベントだけを見れば、ベタなくらいにラブストーリーなんです。
けれど、いつの間か黄路が柚原の家の合鍵を勝手に作って自由に出入りできる状態になっているなど、いったい黄路は柚原をどうしたいのか、彼女の真意は読み取れません。いや、そんなことになっているのにほとんど感情を動かすことなく、そのまま受け入れている柚原もまた何を考えているのか……。
そういう不穏さが作中ずっと底流しているので、「冬の寒い日に幼なじみが背中にくっついて風よけになってくれる」という、何ともうらやましいシチュエーションでさえ素直に受け取れず、社主は終始ヒヤヒヤしながらページをめくっておりました。
そして今回社主が「これはいずれ本連載で取り上げねば!」と確信に至った決定的場面がこちら――。夜、帰宅した柚原が夕食の準備をしていた黄路に、もう食べてきたと告げたのに対して、黄路が笑顔で語るこのシーン。
▼▽「じゃ 吐こっか」

このページが目に入った瞬間、「うわっ」とちょっと声が出ました。それまではあくまで不穏な雰囲気のみ漂わせていた本作ですが、ここでついに行動に移るのです。柚原をトイレに連れ込み、便器の前にしゃがませ、ためらいなくその口に指を突っ込む黄路。吐かせ終わった後、無言で柚原を見つめながら、自分の指をなめる黄路。
すでに第1話の段階で「うわー、何か面白いマンガに当たったなー」と思いながら読んでいましたが、この倒錯シチュエーションでもう完全にノックアウト。じわじわと緊張感だけを漂わせておいて、それを一気に爆発させたこのカタルシス的展開は実に素晴らしいです。そしてこの勢いのまま最後まで一気に読み終え、それまで張りつめていた緊張感が解けたとき、冒頭で触れた脱力感に襲われたのです。
けれど、この展開にして読了後、嫌な感じが全く残らないのも不思議なものです。社主自身その理由を考えて何度も読み返しているのですが、ここはひとまず「黄路がかわいいから」ということにしておきましょう。
ヤンデレとも一味違うんです
さて本作、しばしば黄路を指して「ヤンデレヒロイン」と紹介されることもあるようですが、社主は少し違和感を覚えます。「ツンデレ」から派生したと言われる「ヤンデレ」は、相手を愛しすぎたあまり思考や行動が病的な域にまで達する状態を言うようですが、ここまで紹介してきたとおり黄路が柚原にくっつく動機が愛なのかどうかはっきりしない以上、ヤンデレとまで言ってしまっていいのかまだちょっと分かりません。
ただ、病んでいるかどうかはともかくとして、本作全体が「いびつな感じ」で覆われていることだけは確かです。フラットで空白感の多い絵柄に合わせるかのように、ストーリーの核心部分も今の段階では空白ばかり。それゆえ、いったい2人の過去に何があったのかなど、想像の余地も多く、軽く妄想癖の社主にとっては、この空白を補うためにあれこれ考えを巡らせるのが楽しくて仕方ありません。(もちろん毎月連載を読んでもいいのですが、本作に限っては単行本で一気に読む感覚が楽しかったので、あえて続きを読んでいません)。
キッチリ描いてキッチリ読ませる作品とは異なり、いわゆる「行間を読む」タイプの本作。ラブストーリー(?)なのに、終始「次に何が起こるか分からない」という綱渡り的緊張感が漂っているので、ひとたび読み出せば、時間も忘れてそのまま一気に最後まで読み切ってしまうこと請け合いです。またそれだけの引力を備えた良作だと社主は思います。
連載を我慢して待ち続けている「シュガーウォール」第2巻は8月に発売予定とのこと。梅雨も明けきった真夏に読むには最適の1冊ではないでしょうか。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました(はぁと)。
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