ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
前回ご紹介した西UKO先生の百合マンガ「となりのロボット」(秋田書店)は、百合好きだけでなくSF好きにも楽しめる間口の広い作品なのですが、同じく百合カテゴリの中でもう1作、社主がどうしても「これはもっと広く読まれてほしい!」と願っているマンガがあります。
それは芳文社のウェブサイト「つぼみWebコミック」にて2013年まで連載されていた、あらた伊里先生の学園百合コメディ「総合タワーリシチ」(全3巻)です。詳しくは後述しますが、この作品に出会ったことがきっかけで社主の百合好きに拍車がかかったと言っても過言ではないほど素晴らしいマンガで、連載中から「これ、絶対アニメ化するわ、いやすべき!」と、日々念じ続けていました。
まあ結果から言うと、アニメ化されないままに完結してしまったわけですが、その独特のハイテンションとスピード感、「もはや顔芸」と言われるほどころころ変わる豊かな表情、そして個性的でかわいらしい登場人物たちに「この作者、ただ者ではない……!」と、「リシチ」完結後もその動向をずっと注目していました。
そんなあらた伊里先生の新作ラブコメ「壊れていてもかまいません」(〜1巻、以下続刊/少年画報社)が先日ついに発売。社主は発売当日に買いに走り、読んでさっそく「これは紹介せねば!」と、今回筆を執った次第です。

「壊れていてもかまいません」(〜1巻、以下続刊/少年画報社) → 立ち読みページ
食べたくなるほど大好き!(食恋欲的な意味で)
本作の主人公・岡八重蔵(おか・やえぞう)は高校2年生。太眉と料理が得意なこと以外はこれと言って目立つところのない彼が今とりこになっているのは、今年転校してきたフィンランド出身の超美少女留学生サキ・ウルニカ・キルヴェスニエミ。
とは言え、残念なことに彼はまだ「おかっぱちくん(※名前を岡八/重蔵で切られた)」と呼ばれる程度にしか認識されていないわけですが、そんなある日、彼女と日直が一緒になったことをきっかけに2人の関係が急展開を見せます。
日直の仕事で昼休みにサキと2人っきりになった八重蔵。持ってきた自作のおにぎりを彼女に分けてあげたところ、それを口にしたサキはいきなり涙をこぼします。涙のわけは、幼い彼女がかつて日本にいた頃、誰か男の子に分けてもらったおにぎりと同じ味だったこと。そしてまた八重蔵も幼い頃、同い年くらいの女の子におにぎりをあげた記憶が……。
「そっ!! それ! 多分! おれっっ!!!」
と、即フラグ回収にあたる八重蔵。そしてサキもまた幼い記憶の中の「やえぞうくん」が目の前のおかっぱちくんだということを確信します。
「八重蔵くんはわたしの初恋のひとだもん」
彼女はそう告白し、あれよあれよという間に2人は付き合うことに……。

あれ、なんか展開早くない?
「なるほど。めでたし、めでたし……って、ラブコメなのに展開速いな! まだ14ページしかめくってないのに! もげろ!」と、思わずつっこみそうになりましたが、そんなことはお構いなく次のページではすでに週末デートです。遊園地などひとしきり楽しんだ後、夕暮れの公園のベンチで並んで座る2人。
「八重蔵くん……」
どちらかと言うと受け身な八重蔵に迫るサキの唇。先が読めるにもほどがある、まるでマンガのようなテンプレ展開ですが……
ガブリッ
いきなり八重蔵のほっぺたにかじりつくサキ。それも甘噛みとかでなく本気で。その予想外の行動に困惑する八重蔵。
「そっか 気がつかなくてごめんね…… 八重蔵くん 食べたい派だった?」
サキ・ウルニカ・キルヴェスニエミ――実は彼女、フィンランド出身ではなく、恋した相手を食べたくなる第4の欲望「食恋欲」を持つ宇宙人だったのです。なるほど、「食べたくなるほど大好き!」とはよく言ったものです(←違う)。
中盤以降はドタバタ感がさらに加速

そりゃ食べられるのは困る
さて、マンガをたくさん読んでいる人からすると「『彼女が宇宙人』とか、そんなに奇抜ではないのでは……」と思われるかもしれません。確かにその通り。
が! 社主が本作最大の見どころだと思っているのは、「実は彼女が宇宙人だった」というラブでコメな冒頭ではなく、八重蔵の恋のライバル(?)・後輩の昴(注:女です)、そしてサキの姉で同じく宇宙人のアイノが登場する中盤以降。
登場人物が増えてから、あらた先生の真骨頂とも言えるハイテンション&アニメを見ているような躍動感ある場面が増えてきて、物語が俄然(がぜん)おもしろくなっていきます。1コマ1コマにぎやかに表情が変わる掛け合いと、気の利いた効果音表現は本当に秀逸なので、マンガ好きならぜひ一度読んでみてほしいです。そしてきっと2巻以降はもっとにぎやかになっていくはず!
個人的に気に入ったのはサキの姉・アイノ。いつも何かしらバイトに励んでいる神出鬼没の彼女は「リシチ」の主人公・神奈を彷彿とさせる顔芸キャラで、なおかつ「地球人の女の子はかわいいから好・き・よ☆」とか言い出す百合具合が最高! 八重蔵とサキそっちのけで、社主は彼女を応援することにしました! もっとはっちゃけてくれていいよ!
……と、ハイテンションなマンガを読むと、書いているこちらの文章までついついハイテンションになってしまうのですが、そんなところからも本作の持つオーラが伝わればいいなと思います。あらた先生の描くマンガの世界もまた読んでいて気持ちがスッとする、元気になれる明るい作風が特徴です。
ここ最近何とも暗いニュースばかり聞こえてきますが、以前本連載でお話を聞いたコメディマンガの名手・金田一蓮十郎先生がおっしゃっていた「辛いことなんかは現実にいっぱいあるんだから、マンガという娯楽の中はやっぱり気持ちのいい世界であってほしいな、逃げられる世界であってほしいなって思って描いている」という言葉にあらためて賛同しつつ、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
(C)少年画報社/あらた伊里
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