東プレといえば、高級キーボード「REALFORCE」を製造する国内メーカーとして有名。ですが、同社の「プレ」は“プレ”ス加工に由来しており、旧社名は「東京プレス工業」。現在も、自動車部品などのBtoB事業をメインとしています。
REALFORCEは「高級キーボード」という概念がなかった時代に、同社としては珍しいコンシューマー向け製品として誕生。現在はワイヤレス化などに向けた開発を行っているといいます。
なぜ自動車製造に関わるメーカーが、キーボードの世界に挑戦するに至ったのか、そして、REALFORCEは今後、どのように進化していくのか。同社に取材しました。

電子機器部門がある相模原事業所
自動車の会社が、高級キーボードを作るまで
―― 「東プレ=REALFORCEの会社」という認識の方も多いと思うのですが、キーボードの開発、製造は主な事業ではないそうですね。Webサイト上の業績情報を見ても、「その他の事業」にまとめられていて。

電子機器部門は黄緑色の「その他の事業」(Webサイトより)


REALFORCEがよく知られていますが、あくまでもキーボード“も”手掛けるメーカー(会社紹介動画より)
そうですね、事業全体で見ると「REALFORCE」の売上は、ごく一部に過ぎません。
弊社の歴史から説明しますと、創業は1935年(昭和10年)。もともとはプレス加工を行う町工場のような感じで、やかんのフタなどを作っていたのですが、昭和30年代から自動車部品を手掛けるようになりました。
ですが、弊社は大手自動車メーカーの系列に属しておらず、独立系として安定した経営地盤を目指そうと、これまでに培ってきた技術を応用して他の分野にも手を広げ、冷蔵・冷凍車、空調機器などを手掛けるようになりました。
さらに「大きいものを作ってきたが、今度は小さいものにも挑戦しよう」と、約30年前に発足したのが電子機器部門。静電容量方式のスイッチを扱っているんですが、その内部のバネに金属加工の技術が活用できたんですね。
―― 静電容量方式はREALFORCEで採用している仕組みですよね。
ええ。でも、まだREALFORCEの話には移りません。最初はコンシューマー向けではなく、業務用のキーボード製造を行っていましたから。
静電容量方式には、スイッチのオン/オフ切替にパーツ同士の接触がなく、摩耗しません。これにより高い耐久性が実現できるので、需要の大きい金融業界などに売り込みました。
その後、金融機関が統合したり、OEM市場が下火になってきたりといった動きがあり、次の一手としてコンシューマー向けのキーボードを2001年に発売しました。これがREALFORCEです。

―― 創業から約70年、電子機器部門の発足から約20年、ようやく来ましたか! REALFORCE発売にあたって勝算はあったんですか?
チャレンジ的な要素が強く、不安はありましたよ。ちょうど低価格帯のキーボードが普及し始めた時期で、それに対してREALFORCEは1万6000〜7000円くらい。最初は、キーボードを専門的に扱う秋葉原の小さなお店に置いてもらったのですが、「こんなに高くて売れるのか?」と。
しかも、当時は「高級キーボード」という考え方自体がなかったんですよ。今思えば、Microsoftさんの人間工学に基づいた設計のキーボードがそれっぽかったかなあ、くらいの感じです。
しかし、われわれの心配とは裏腹に、使い心地の良さなどが口コミで広まってくれて、想定を超える売れ行きになりました。
REALFORCEユーザーの“通”なアイデアから生まれた新機能
―― 発売から15年以上たちましたが、REALFORCEはどう進化していますか?
キーの基本的な構造は変わっていませんが、第2世代モデルから一部機種でAPC機能(Actuation Point Changer)を搭載しました。
入力に必要となるキーを押し込む深さを3段階に調整できるというもので、例えば、素早く入力したいキーの場合は浅く設定。さらに「KEY SPACER(キーの下に挟み込むオプションパーツ)」でキーストロークの長さを物理的に調整し、触るようにタイピングできるように。反対に、深く設定すれば、特定のキーの誤入力防止になります。

スイッチがオンになる位置を調整できるAPC機能(Webサイトより)


東プレがスポンサーを務めるゲーミングチーム「Green Leaves」によるAPC機能の設定例。青色は1.5、緑色は2.2、赤色は3.0ミリ。同じゲームという目的を持っていても、設定の好みにはかなり個性が出るようです(Webサイトより)
静電容量方式としては初の機能なのですが、同時に、静電容量方式ならではとも思っています。
―― というのは?
REALFORCEの各キー内部にはバネが入っていて、その伸び縮みによって起こる静電容量の変化からスイッチのオン/オフを行っています。要は、キーの押し具合によって段階的に変わるアナログ信号を、入力検知に使っているんです。


キーの模型

キーの動きに合わせて、バネが動くようになっています
キーボードには、2枚のシートを接触させることでスイッチの切り替えを行うメンブレン方式もよく使われていますが、これはキーを底打ち(最後まで押し込むこと)しないと入力できないため、APC機能のように自由にカスタマイズできる仕組みは難しいと思います。
―― APC機能のアイデアはどこから出てきたんですか?
あるお客さまから「キーの入力位置(押し込む深さ)を変えられたら面白いのでは?」という声があり、そこからアイデアを広げました。開発には、約1年間かけています。
―― すごいことを考える人がいるものですね。そこは変わらないのが当たり前だと思ってました……。
REALFORCEユーザーは“通”な方が多いですから。
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