英語の表記に使われる文字といえば? もちろんアルファベット。英語のアルファベットには大文字と小文字の2種類がある、というのも誰でも知っていますよね。

英語で文章を書くとき、私たちは「文頭は大文字で始める」「固有名詞は大文字」というように、無意識/意識的に2つの文字を使い分けています。
そこで浮かんでくる疑問が、「なぜ2通りの表記方法が生まれたのか」。どちらか片方だけでも意味は通じるはずですし、倍の量の字を覚えるのは面倒です。
大文字と小文字、最初に登場したのはどちらなのでしょうか? あるいは同時期に発生したものなのか……?
そもそも、アルファベットって?
本題に入る前に、そもそも「アルファベット」とは何ぞや? というところを軽く説明しておきます。
大学でフランス語やドイツ語を習った方ならご存じかと思いますが、アルファベットを使う言語は英語のほかにも数多く存在します。ヨーロッパのメジャーな諸言語は言わずもがな。ロシア語やブルガリア語の表記に用いるキリル文字も、33のアルファベットから構成されています。意外なところでは、ベトナム語の表記法であるクオック・グーもアルファベットを利用したものです。
そもそも「アルファベット」という名称はα(アルファ)とβ(ベータ)、すなわちギリシャ語の最初の2文字に由来するものです。では、アルファベットはギリシャで生まれたものなのか? というとそういうわけでもなく、フェニキア文字が起源だとされています。
※フェニキア人は紀元前1500年頃から現在のシリア周辺で活動した民族
ギリシャ人がフェニキア文字を借用し、それがローマをはじめ各地に伝わったことで今日のアルファベットが生まれた、という経緯があったのです。
先に大文字、その後に小文字が生まれた
最初に答えを言うと、先に生まれたのは大文字。古代ローマの碑文を見れば分かるように、当初アルファベットには大文字しかありませんでした。
小文字が登場するのは8世紀後半のこと。カール大帝(シャルルマーニュ)統治下のカロリング朝が西ヨーロッパ全土をほぼ支配し、カロリング=ルネサンスと呼ばれる文芸復興の時代が現出されていました。
文芸運動が盛り上がるということは、本が多く出回ることを意味します。本を作るには、当然書くものが要ります。なら紙をたくさん刷れば解決では? と思ってしまいますが、それは現代人の感覚。当時のヨーロッパには、まだ製紙法が伝えられていません
※751年のタラス河畔の戦いを機に中国からイスラム世界に伝わったが、ヨーロッパで普及するのは12世紀以降。
当時紙の代わりに利用されていたのが、動物の皮をなめした羊皮紙でした。羊皮紙は高価であり、節約のために文字を詰めて書く必要が出てきました。そこで、文字を縮めて書くために考案されたのが小文字というわけです。
文芸の担い手の中核は、聖書や古典を書き写す修道僧たち。一口に「小文字」といっても、その様式は修道院ごとにまちまちであり、字体の統一が急務になりました。
活躍したのはイギリス生まれの神学者・アルクイン。カール大帝に招かれた彼は小文字の統一事業に尽力し、「カロリング小字体」と呼ばれる字体を確立しました。これが基礎となり、現在知られているアルファベットの小文字表記へと発展していくことになります。

おわりに
簡略化されて新たな文字が生まれたのは、何もアルファベットに限ったことではありません。ひらがなやカタカナも、元はといえば中国から伝わった漢字をくずして生まれたものです。
文字が時代に合わせて使いやすいように変容していくのも、ある意味必然なのかもしれませんね。数百年後の日本人は今と全く違う文字を使っていて、この文章を読んでも何と書いてあるのかさっぱり分からない……十分、あり得そうな話だと思いませんか?
制作協力
参考文献
若林俊輔(2018)『英語の素朴な疑問に答える36章』研究社
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