映画「童貞。をプロデュース」の出演俳優・加賀賢三氏が「性行為を強要された」と被害を訴えている問題で、監督の松江哲明さんと配給会社・スポッテッドプロダクションズの直井卓俊代表が1月21日、それぞれ声明文を公開。その中で松江氏は、撮影時に加賀氏との意思疎通が不十分だったことなどを謝罪した上で、最終的な判断を司法にゆだねる意向であることを明かしました。
- 松江哲明氏の声明:『童貞。をプロデュース』監督・松江哲明より
- 直井卓俊氏の声明:映画『童貞。をプロデュース』について(配給より経緯報告とお詫び)
松江監督は2万8000字弱の長文声明
松江氏は2019年12月13日、「簡潔すぎる」謝罪文を公表したことで物議を醸しましたが(関連記事)、今回は2万8000字弱にも及ぶ声明を自身のnote上に掲載。「童貞。をプロデュース」の製作が始まった2000年代半ばの、松江氏が講師、加賀さんが生徒という関係性だったころから述懐する内容で、松江氏視点での事件の全容がつづられています。
この中で松江氏は、撮影時に加賀氏と意思疎通が取れていたと感じていたものの、後にそれが自らの思い込みだったことを知ったと明かし、「私にとっては良い思い出として記憶されていたことまでもが、加賀さんには【いいなりの時期】だったのです。私はまるで『いじめている自覚のないいじめっ子』だったのか、と気づかされました」と、振り返っています。
そして、もはや当事者間では解決が不可能となったことから、加賀さんの名誉回復のためにも司法を活用し、司法による判断をあおぎたい意向を示しました。
「加賀さんに対して強要があったのか、加賀さんの名誉が棄損されたのか。私自身が『司法』のもと裁かれることで、加賀さんの求める『現にあった事実』が明らかになる最善の策として、私は努力を惜しまずこの問題に取り組むことを誓います」
一方で、近年の加賀氏の言動や、同件の取材対応を行ったメディアの記者に対する不満もにじませています。同件が約2年の沈黙期間の後、2019年に再度世間の注目を集めたきっかけとして「ガジェット通信」が掲載した加賀氏へのインタビュー記事がありました。
松江氏は声明の中で、2019年12月31日に同記事を執筆した映画ライターの藤本洋輔氏をはじめとする編集者3人と加賀氏を交えた撮影取材受けたことを明かしていますが、その際に編集者たちが加賀氏と結託していたと主張。否定的な意見を次々に投げかけられて、加賀氏が「童貞。をプロデュース」撮影時に受けたのと同様の「圧力」を自身も感じたと、取材陣を批判しています。
さらに、加賀氏を「結果的に傷つけてしまった」事実を矮小化するつもりはないとしつつも、映画を見た観客以外がネット上で臆測や伝聞情報を元にした批判を展開する状況に「暴力的な恐ろしさを感じました」と明かしています。
また、表現の自由を脅かす出版社への直接的な抗議や、「作品を笑って観た人も沈黙する人も同罪」といったネット上の加熱を、加賀氏をはじめとする作り手側が喚起したとして、「『あってはいけない映画』『あってはいけないドキュメンタリー』を作り手側たちが合議的に決めて制限することはとても危険なこと」と、強く批判。声明文の最後はアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」第1話のセリフ「世の中に不満があるなら自分を変えろ。それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐうで孤独に暮らせ。それも嫌なら……」という一節の引用で締めくくられています。

声明には、加賀氏や取材陣が松江氏に対し侮辱的な発言をしたと告発する内容も含まれています。これに対し、加賀氏はTwitter上で「証拠となる(2019年12月31日の撮影取材の)映像があるのでどれだけ嘘を書こうが墓穴掘ることにしかならんと思うのだけど、問題は『文章を読むだけの人』が存在するんだろうってとこ」と投稿。取材を担当した藤本氏も「全部映像に撮ってあるのですが、大丈夫ですかね」と松江氏の声明の信ぴょう性に苦言を呈しています。
配給会社代表も声明を公開
「童貞。をプロデュース」の配給を手掛けたスポッテッドプロダクションズの代表の直井氏も、作品公開当時から現在に至るまでを振り返る形式の声明を公開しました。
今回の声明では、あらためて2017年に発表した声明について「強要などない」「事実無根」と断定していたことに対して謝罪。直井氏は撮影時はスタッフとして参加しておらず、「撮影及び制作現場で行われた事を知る由もない状態で、連名で出すべき内容ではなかったと反省しております」としました。

また、加賀氏から撮影時の苦痛について過去に相談を受けていたのにそれを見過ごしていた点、そして加賀氏が単に「出演者」としてではなく「共同制作者」として作品に携わっていたにもかかわらず、その立場をないがしろにした点についても謝罪しました。
「童貞。をプロデュース」はフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)の手法を用いた作品。加賀氏ら出演者たちのリアルな生活と、ある程度の筋書きを組み合わせた虚構と現実が入り交じる構成が特色となっています。筋書きは松江監督と加賀氏が相談の下で作成したもので、加賀氏が映像作家志望だったこともあり、加賀氏自身が撮影した映像も作中では多く使用されていました。
直井氏は「撮影当時から加賀くんがずっと苦しんでいていた事、言い出しにくい中で後から関わってきた僕に対しても、問題となっている撮影時のこと、共同制作者であると言う主張も伝えてくれていたという事。今回会って話すまで、忘れていたことや記憶違い、認識違い、様々なすれ違い、当時の僕の未熟さゆえの理解不足もあり、本当に申し訳ない限りです」と重ねて謝罪しています。
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