ねとらぼ

シンカンセンスゴイ。東海道新幹線がなぜこんな過密ダイヤを達成できるのかを解説します。【追記】2020年8月7日、「のぞみ12本ダイヤ」初設定。

達成の秘密は「車種統一」と「並行ダイヤ」

 東海道新幹線は、なぜこんな過密ダイヤを達成できたのでしょうか。実は、その理由も山手線と同じです。「全ての列車の加速、減速性能を同一にした」からです。

 グラフで説明しますね。まずは基礎知識から。折れ線グラフのように、縦軸と横軸を描きます。縦軸は時刻を示します。横軸は駅の位置です。つまり、縦軸は1時間、あるいは分単位で等間隔にそろえます。横軸の一番上は起点です。仮にA駅とします。その下はB駅、続いてC駅……と続きます。横軸同士の間隔は均等になりません。駅の間隔です。つまり、このグラフでは、A駅とB駅は近く、B駅とC駅は遠い、という距離感を示します。

新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
列車の運行計画を示す列車ダイヤグラム。縦軸は時間、横軸は駅を示す(図:筆者、以下同)

 このグラフで列車を描いてみましょう。A駅からC駅へ向かう列車は、時間の経過ともに右下がりの線になります。逆に、C駅からA駅へ向かう列車は右上がりの線になります。列車の線が交わるところがあったら、そこではすれ違いが起きています。

 このように、列車の動きを表した図を「ダイヤグラム」(diagram)といいます。語源は、情報を幾何学的に示すダイアグラム(diagram)から。英単語は同じですが、日本では列車の運行図をダイ“ヤ”グラムと呼びます。なぜでしょうね。列車の線をたくさん描くと、トランプのダイヤのマークがたくさん出てくるから、という説があります。ホントかな(笑)。

 それはともかく、もうお気付きですね? 「ダイヤ改正」のダイヤとは、このダイヤグラムのことです。

新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
列車の運行計画を示す列車ダイヤグラムの例:ナナメの線が列車を表す

 実際の列車ダイヤは下り列車と上り列車を一緒に描きます。しかし、ここからは説明のため下り列車だけ描きます。列車の線と駅の線が交差するところが停車時刻・発車時刻です。最高速度が遅い列車は線の傾きがなだらかになります。となりの駅までの所要時間が長くなるためですね。逆に、速度の速い列車は傾きが急傾斜になります。

新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
列車の運行計画を示す列車ダイヤグラムの例:速い列車と遅い列車は線の傾きが異なる

 この区間にたくさんの列車を走らせるとしたら……? 最善の方法は「列車の速度をそろえること」です。違う速度の列車があると、走行中に前方の遅い列車に追い付いたり、後方から早い列車に追い付かれてしまいます。いずれにしても、運行本数は最大になりません。列車の速度を揃えれば、列車同士は「等間隔」で走れます。運行間隔を詰められるわけです。これを鉄道用語で「平行ダイヤ」といいます。

新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
列車の運行計画を示す列車ダイヤグラムの例:速度の違う列車が混じると、列車の本数を最大化できない
新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
列車の運行計画を示す列車ダイヤグラムの例:平行ダイヤにすると列車の本数を最大化できる
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スピードアップは新幹線の使命、2020年7月には新型車両「N700S」も登場

 今回の東海道新幹線ダイヤ改正の「のぞみ12本ダイヤ」に当てはめると、全ての列車がN700Aの性能に統一されたため、列車の運行間隔をギリギリまで詰められたというわけです。

 先日、惜しまれつつも700系新幹線、通称「カモノハシ」が東海道新幹線から引退しました(関連記事)。700系の最高速度は時速285キロです。しかし、車体傾斜システムがないなどの理由で、東海道新幹線区間の最高速度は時速270キロに抑えられていました。

 一方のN700Aは最高速度が時速300キロ、東海道新幹線区間の最高速度は時速285キロです。N700Aには定速走行装置が搭載されており、最高速度を維持しやすくなっています。また、加速性能も700系よりN700Aが優れています。従って、東海道新幹線内では「700系は遅い」「N700Aは速い」でした。東海道新幹線はN700Aに統一したことで「平行ダイヤ」となり、列車の運行間隔を詰めて、1時間あたり2本の増発が可能になったのです。

 平行ダイヤにするだけならば、逆に700系電車に合わせてN700Aを遅く走らせてもいいですね。でも、N700系は登場時から、大勢を占める700系電車に合わせて、本来の性能を発揮していなかったとも考えられます。スピードアップは新幹線の使命です。N700Aを増やしつつ、可能な限り列車の速度を上げてきたのです。

 2020年7月には新型車両「N700S」が投入されます(関連記事)。将来、N700Sが増備されてN700Aが引退するころ、もしかしたら東海道新幹線はもっと増発することに……。あ、その頃にはリニア中央新幹線(関連記事)が開業しているので、東海道新幹線のダイヤは少しゆったりしているのかもしれませんね。

新幹線 のぞみ ダイヤ改正 12本ダイヤ N700A Schedule revision in the spring of 2020
2020年7月にデビューする新型車両「N700S」
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杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。ITmedia ビジネスオンラインで「週刊鉄道経済」連載。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。JR路線の完乗率は100%、日本鉄道全路線の完乗率は99.35%(2020年2月時点)



【追記 2020年8月7日】8月7日、初の「のぞみ12本ダイヤ」が設定。

 これまでの“のぞみ10本ダイヤ”では東京〜新大阪間を2時間33分〜2時間37分で運転していたのぞみが7本ありました。のぞみ12本ダイヤの設定で、すべてののぞみが同間を「2時間30分以内」で運転できるようになりました。



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