「全文を一行で読める本」がコンセプトの小説サイト「一行文庫」の試みが興味深いです。縦長に表示される文章を延々スクロールして読む一風変わった形式ながら、一度に表示される情報量が絞られている分、ひとつひとつの文に集中しやすいかも?





アートディレクター兼デザイナーの岩下智(@i_Shuttle)さんが立ち上げたサイト。太宰治や芥川龍之介らの作品を青空文庫から流用し、縦一行のレイアウトで表示したものです。通常の本とは異なり、視線を大きく動かさずスクロールするだけで読み進められます。
編集部が詳細を聞いたところ、制作のきっかけは「リーディングトラッカー」。これは、読みたい行の左右を隠すことで文章に集中できる読書補助具で、視野狭窄(きょうさく)などの視覚障害や、ディスレクシアを持つ人に効果が高いといわれています。
※ディスレクシア:知的に問題はないが、読み書きの能力に著しい困難がある症状

岩下さんが入手したリーディング・トラッカー。「今読んでいる行」をハイライトし、集中できる(岩下さんのnoteより)
リーディング・トラッカーの存在は岩下さんにとって大きな気付きとなり、「限られた紙面の中に文字が大量に並ぶ“本”の形式は、“読みやすさ”という観点で本当にベストなのだろうか」「本が読みにくいと感じるのは、まわりの文字情報がじゃまになっているからではないか」と、思考を発展させました。そうして、ならばいっそ全文を一行で表示してしまえば読みやすくなるのではと、実践したのが一行文庫だということです。
デザインに際しては、文章以外の情報を可能な限りそぎ落としつつ、文庫本の本文に近い形を目指したとのこと。明朝体よりもやや崩れたやわらかく流麗な書体を選び、字間にも少しゆとりを持たせたことで、文章が詩的に感じられるようになったといいます。
こうして出来上がった一行文庫には、「一文一文がテンポよく頭に入ってくる」「普段は斜め読みしてしまうが、初めてしっかり一文ずつ読めた」「文章のフレーズが朗読のように聞こえてくる感覚がする」などと好意的な意見が寄せられました。
その一方で、「むしろ読みづらい」「縦に流れていく文字列を目で追うのが苦手」「前の文章が視界に入らないせいで、短期記憶が苦手な自分には内容が頭に入ってこなかった」といった声も。通常の本を読み慣れている人にとっては、かえって読みづらく感じる傾向があるようです。
岩下さんは反響について、「読みやすいと言う人が多くいる一方で、まあまあの割合で読みづらいと言う人がいることに、たいへん勉強になっています」とコメント。「ルビが括弧書きだと同じ言葉を繰り返し読まされているように感じるので、漢字の脇に振ってほしい」「段落や章の切れ目をもっと分かりやすく」といった要望については今後の課題としつつ、作品の追加やこの形式に合った「一行小説」コンテストなどを検討しているとのことです。
協力:岩下智(@i_Shuttle)さん
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