
近頃、ライブカメラで鳥の姿を映してくれる動画をよく流しています。他にも、遠く離れた異国の草原や、南の海なども。いまや現地に行かなくても世界各地のすてきな風景、珍しいものを詳細に見ることができますが、100年前はどうだったのでしょう?
今回紹介する同人誌
『明治時代の浅草にゴリラがいた?〜資料から読み解くニッポン・ゴリラ奇談〜』A5 26ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:穂積昭雪

花やしきに謎の生き物ゴニラがやってくる
この同人誌では「明治時代の日本にゴリラはいたのではないか?」という仮説を立てた作者さんが、さまざまな資料をひもとき、その謎に迫っていきます。なぜ明治時代のゴリラを? それは1911年(明治44年)に載った花やしきの新聞広告を知ったのがきっかけだそうです。
いまも浅草にある遊園地花やしき(当時の記載は花屋敷)。1911年11月の広告には「菊花満開」といった風雅を感じる告知の横に「新着生物ゴニラ」の文字が大きく掲載されています。あれ? ゴリラじゃなくて、ゴニラ? なんだかかわいい怪獣の名前のような……。この謎の文字をきっかけに、ゴニラはゴリラか? ゴリラだとしたら本当に明治時代に花やしきに来たのか? と作者さんはひとつひとつ当時の痕跡をたどっていきます。

ゴリラ来日の歴史が変わる!?
日本に初めてゴリラがやってきたのは1954年(昭和29年)とされており、動物園で誰もがゴリラを見ることができるようになったのは1957年(昭和32年)とのこと。もしこの広告のゴニラがゴリラだとしたら、今までの説に比べ40年ほどの差があります。これはゴリラ来日の歴史が変わるかも……! と冒頭から期待が高まってきました。
作者さんは当時の新聞や花やしきの案内図などの資料をもとに、こつこつと形跡をたどっていきます。書籍はもちろん、絵葉書やラジオで知ったこと、時にはSNSでやりとりを、と気になる引っ掛かりを見つけるサーチ力の幅広さに驚きます。
この様子はおおむね文章でつづられていますが、明治〜昭和初期の動物事情も踏まえながら説明されるので、当時の人々がどんな風に珍しい生き物に接してきたかを興味深く読み進めることができました。

小さな足跡を拾い上げ歴史の隙間に橋をかける
明治時代には異国の生き物がただただ珍しく、面白がっていたころ。そこから生き物への接し方はこの100年でずいぶん変わりました。ご本を読んでいるうちにゴリラの初来日時期ばかりでなく、人々の動物へのイメージや接し方、思い出と記録の差など、その違いにも興味をひかれました。残された跡をたどり見えてきたのは、ゴリラだけでなく、当時の人々の姿でもあるのかもしれません。小さなきっかけを丁寧に集め、散らばった記録を組み合わせて、歴史の隙間に橋をかけてくれるような、そんな気がするご本でした。

サークル情報
サークル名:古今怪奇刊行会
Twitter:@hodumiakiyuki
入手できる場所:BOOTH
次回イベント参加予定
11月20日 文学フリマ東京35 W-21(古今怪奇刊行会)
11月27日 COMITIA142 の16b
12月31日 コミックマーケット101 土曜日東ペ26b
Webサイト:https://aomogura.wixsite.com/hodumiakiyuki
今週の余談
100年以上前も、気候のいい11月の初旬にわくわくとおでかけ……なんてお楽しみがあったのでしょうね。記録からそんな様子が伺えるのはとっても面白いです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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