ねとらぼ

「実写では勝ち目がなさそう」にどう向き合ったか。

いちばん避けたいのは「届かない」こと

―― キャラクタービジュアルの発表時の、 赤坂さんの「(原作は)漫画作品の実写化についても触れています。良い事ばかりを言っていません。批判的な事も言っています」「キャストの皆様にも制作陣の皆様にも『本当に大丈夫ですか?」と聞きたくなる気持ちでした」といったコメントもすごいなと思いました。いい意味で忖度は一切なく、ファンも厳しい目をしていたものの、だからこそ本編での評価がガラリと変わったところもあったと思います。

井元 僕らがいちばん避けたいのは「届かない」ことでした。制作の事情で、ライブシーンで何千人というエキストラさんに参加してもらうには、「【推しの子】の撮影をやります」と言わないと、なかなか来ていただけなかったので、実写化の情報解禁は早めに設定しました。

でも、撮影中だったこともあり、映像は出せないですし、ビジュアルだけで伝えられることってなんなんだろうと、いろいろと試行錯誤した結果でした。伝わることと伝わらないことは出てくるだろうなと思っていましたし、実際に批判的な声もいただきましたが、「たくさんの人に知ってもらえた」ことは大きかったと振り返ります。その後に映像を含め、さまざまな情報を伝えていけば分かっていただける、と考えていました。

B小町「我ら完全無敵のアイドル!!」ライブパフォーマンス映像

―― 実写化への賛否両論は想定されてたということですね。「【推しの子】」の原作にもドラマにも「人気漫画の実写化で炎上は免れない。宿命だよ」といったセリフがありましたものね。

寺嶋 私自身も最初に井元から話を聞いた時に「マジで『【推しの子】』を実写化するの?」って思ったんです。なので、当然のように実写化に対して賛否があるだろうとは思ってました。

その一方で、撮影前の制作の打ち合わせや衣小合わせ、撮影現場まで同席させていただいて、キャストやスタッフの皆さんがどのように本作を作り上げてるのか、目で見て、肌で感じながら知ることができていました。そういうこともあって最初にどのような反応が生まれるのかというのは怖くもあったのですが、この後の宣伝展開の中で批判的な声を覆せるイメージは持っていましたし、実写化を納得してもらって、さらに魅力を感じて頂けるのではないかと思っていました。

井元 劇中のセリフもそうですが、これほど世界的な人気作ですから、厳しい声は一定数はある、どっちみち避けられないと覚悟していました。

advertisement

「音楽」も宣伝の要素だった

―― 実際に、特報や予告編が解禁されると徐々に好意的な反応が増えていった印象でしたし、劇中のアイドルグループ「B小町」のミュージックビデオや、ミュージックステーションの出演も話題になりました。

B小町「トワイライト」Official Music Video

寺嶋 今回は「音楽」が宣伝の1つの大きな柱でもありました。原作でB小町がアイドルとして成長していく姿やYouTubeに挑戦する姿が描かれていますが、それを宣伝の中で実際に表現できたら面白いんじゃないか、B小町として実際の歌番組に出演できたら最高だよねと最初から井元と話していました。ただ、「やるなら本気でやらないと意味がない」と思って、それぞれのプロたちにも力を借りてひとつずつ丁寧に具体的に落とし込んでいきました。おかげさまでひとつひとつが盛り上がって、それがつながって本当にミュージックステーション「SUPER LIVE 2024」に出演できました。まさにこれは本作だからこそできたことだったのではないかと思います。

―― 「【推しの子】」の劇中でも、アイドルグループをバズらせるための試みがあったので、現実とリンクしているようにも感じますね。そして、Prime Videoのドラマ本編のクオリティーに納得された方が、劇場に足を運ぶ導線はできていたとは思います。

寺嶋 クオリティーの高い本編映像が出来上がっていたので、それを丁寧かつ誠実に届ければ、ネガティブな声を覆したり、納得してもらえることができて実写化ならではの魅力が伝えられると確信していたので本当にたくさんのプロモーション映像を作りました。たくさんの映像を作るのは本当に大変でしたが、映像を出すたびにポジティブな反応を頂けたのでやりがいがありましたね。

advertisement

二宮和也と共有したカミキヒカル役のハードル

――本編で実際に俳優たちに髪を染めてもらった工夫がありましたね。

井元 皆さんが髪を染めてくれたのは本当にありがたかったです。自然光が当たった時の雰囲気を、スミス監督と相談しながら大切にしました。髪を実際に染めていただいたからこそ、現実にいそうなキャラクターの髪色を突き詰めることができたんです。

――カミキヒカル役の二宮和也さんも金髪に染めて、黒髪に戻したという投稿をされていたりして、 あれも「伏線」だったんだと話題になっていましたね。

井元 そうですね。都内の美容院にも付き添ったのですが、情報解禁はまだまだ先だったので、漏えいしてしまわないかドキドキしていたんですよ。

――二宮さんの解禁のタイミングは宣伝の最終盤、ドラマの7話&8話が配信された時でしたよね。

寺嶋 だからこそ、ほぼ1年に渡って情報が漏れないようにしなければならなかったんです。撮影現場でも二宮さんの名前は出さないようにしていましたし、撮影後から解禁までの情報管理も徹底的にやっていました。東映社内でも、知らない人が多かったはずです。

井元 二宮さんのご出演は本当に大きかったです。最後まで妥協せずに皆でやってきて、最後の最後に加わったものづくりの仲間だったので。「ようやくこれで完成まで行けそうだな」と思いました。二宮さんは最初にお会いした時に、カミキヒカルという役のハードルに対して、共通認識がすでにありました。「分かっていただいてる」と安心しながら、一緒に走ることができました。

寺嶋 二宮さんのお名前を聞いた瞬間からそれを宣伝としてどう活かしていくことができるかをすごく考えました。解禁するタイミングややり方によっては、作品が持つイメージが一変してしまう、間違えると全てがぐちゃぐちゃになってしまうのではないかという危機感もありました。いつ、どのように解禁するのがベストなんだろうと考え続け、結果的に理想的な解禁ができたと思いますし、宣伝全体の中での終盤の大きな勢いをつけることができました

――実際に映画本編での二宮さんのカミキヒカルのサイコパス性、それ以外の複雑な印象をも持たせた演技は素晴らしかったです。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

関連タグ

Copyright © ITmedia Inc. All Rights Reserved.