戦うために変身しなかった「わんだふるぷりきゅあ!」の成功は、この先の「プリキュアの変身」の可能性を大きく広げました。
INDEX
世界は「あなたと私」から始まる
スバルとの最終決戦に向かう前、「人間のいろは」と「犬のこむぎ」は会話を交わします。
こむぎは言います。
「こむぎはいろはと一緒にいたくて、だからプリキュアになったんだよ」
いろはは返します。
「私もワンダフルと一緒に走るために、プリキュアになったんだから」
彼女たちがプリキュアになったのは、何かを守るためでもなく、自己実現のためでもなく、ましてや世界を救うためでもなく、ただ「あなたと一緒にいたい」からなのです。
そこにあるのは「あなたと私」という小さくて大きな関係性。

プリキュアは世界を救う使命を与えられず、ただ「大切なあなたと一緒にいたい」そのために変身の能力を与えられました。
こむぎは言います。「いっしょにいると、楽しくて、大切だから、守りたい」。
同作のプリキュアが守っていたのは「大切なあなた」なのです。
昨今のSNSで見られる「世界は」「男は」「女は」「子どもは」「大人は」「母親は」といった大きな主語を使わず、あくまで「あなたと私」という個のつながり、社会の最小単位の「2人」の関係性こそが、世界をワンダフルにしていくのだということが描かれました。
世界を「ふたりぼっち」にしないこと
ただ、同作では「あなたと私」の世界に閉じこもることも良しとはしませんでした。
同作のシリーズ構成である成田良美さんは、アニメ誌のインタビューで「世界でふたりぼっちではダメなのか?」という問いに対し「ふたりでも楽しく過ごせるかもしれないが、いろいろな人や動物たちと仲良くなればもっとワンダフルになる」と答えています。
――「世界で二人ぼっち」ではダメなのだと。
成田 二人でも楽しく過ごせるかもしれないけど、いろいろな人や動物たちと仲良くなればもっとワンダフルになるかもしれない。だからユキもまゆも、猫集会の猫たちやクラスメイトたち、アニマルタウンの人たちとの交流をシリーズの随所で描き、友達の輪を広げてもらいました。
徳間書店『アニメージュ』2025年2月号 P76

だから、「わんだふるぷりきゅあ!」では蟹江さん、大熊さんをはじめとした「魅力的なクラスメイト」や老齢マダム3人組など個性的なサブキャラクターも数多く登場させ「あなたと私」から始まる世界を広げていきました。
そして「いろはとこむぎ」に加えて、「いろはと悟」の恋愛の関係性を描くことにより「世界でふたりぼっち」の閉じた世界ではなく、そこから広がっていく世界こそが「みんな笑顔でワンダフル」な世界だという風に描かれたのではないでしょうか。

動物の声は想像の域を越えない、だからこそ
かつてプリキュアシリーズは「地球を救う」どころか「宇宙を救う」にまでスケールが広がりました。昨今のシリーズではその反動からか「なりたい自分になる」といった「個」に焦点が当てられる傾向も見られます。
そんな中、同作「わんだふるぷりきゅあ!」では、その「個」から一歩進み、社会の最小単位である「あなたと私」に焦点が当てられました。
舞台はアニマルタウンという小さな町に限定され、その中で「こむぎといろは」「ユキとまゆ」「悟と大福」「スバルとガオウ」といった「あなたと私」の関係性の広がりで「わんだふるぷりきゅあ!」の世界は構成されました。

「わんだふるぷりきゅあ!」のプロデューサー・多田香奈子さんは番組開始時のコメントで、「動物たちの声は想像の域を越えない」と語っています。
しかし、現実世界では、動物と人間は言葉を交わし合うことはできません。本作で語られるこむぎのセリフは、どこまでいっても想像の域を超えません。「犬はきっとこんなことを考えている」 これは人間のエゴなのかもと不安になることもあります。
でも、言葉を交わせないからこそ、私達は動物の気持ちをとことんまで考える必要があるのではないでしょうか。大事なのは、相手のことを知ろうと努力すること。その先に、相手の幸せを願う「思いやり」が生まれるのだと思います。そして何より大事なのは、気持ちを押し付けず、理解し合うことです。
プロデューサー(ABCアニメーション)多田香奈子
動物の思いは想像することしかできない、だからこそ相手のことを思いやり、気持ちを押し付けずに理解し合うこと。その積み重ねで「世界がワンダフル」になっていくとしたのです。
同作のプリキュアたちは世界を救いません。戦うこともしません。
でも、苦しんでいる動物を抱きしめることができます。動物の気持ちに寄り添うことができます。友達に「大好き」という言葉を伝えることができます。
同作でのプリキュアの役割は「相手を倒すこと」ではなく「動物と人間の心をつなぐこと」。ラスボスであるスバルをプリキュアたち全員で「抱きしめて」物語に幕を下ろすのは、まさに「わんだふるぷりきゅあ!」でしか描けない最高のラストだったと思うのです。

大切な人をぎゅっと抱きしめること
動物にも心があって、人と動物は「ともだち」になれること。
動物の気持ちは分からないかもだけど、だからこそ相手のことを考え続けること。
それは動物に限らず人間同士でも同じであること。
子どももSNSを使う時代だからこそ、見えない相手の気持ちを思いやること、言葉が分からない相手を思いやること、主語を大きくしないこと、勝手に相手の気持ちを推測しないこと、見えない誰かと戦うのではなく、あくまで「あなたと私」という個の関係性から始めること。そしてあなたの大切な人をギュっと抱きしめること。
「わんだふるぷりきゅあ!」は、4人のプリキュア(と悟君と大福くん)を通して、そんなことを子どもたちに伝えていたのではないのかな、と僕は思うのです。

(C)ABC-A・東映アニメーション