ねとらぼ

V8エンジンを積んだ大型船外機、それは水上のスーパーカーなのです。

船外機は「シンプルでパワフルでタフ」なマシンなのだ

こちらがマリン事業部部長の福田さん。ホンダ製船外機のプロです

──マリン事業部というのは、基本的には船外機を作っている事業部ということなんですよね?

 主に船外機を作って販売している事業部です。ビジネスとして扱っているのは「船外機とそれに付随する周辺機器」ですね。船外機操作のためのデジタルスクリーンや、リモートでのコントローラーやエンジンとコントローラーを接続するケーブルなども扱っています。

──ということは、福田さんは船外機のプロということに。

 そうなりますね。照れますが(笑)。

──そんなプロの目から見て、船外機というメカの最大の特徴はどういった点にあると思いますか?

 とにかく「エンジンそのものである」という点ですね。言ってしまえば船を走らせるという機能しかない機械なんですが、しかしその使われ方はとんでもなく過酷です。そんな用途に耐えられるエンジンを積んでいて、しかしトランスミッションも何も積んでいない、本当にほとんど「エンジンだけ」がカバーの中に入っているという、あまり似たもののないメカだと思います。

──マジで中にはエンジンしか入ってないんですか。

 完全にエンジンだけということはないですが、構造的に言えば、船外機っていうのは「エンジンから回転軸が出てて、それがギアを介してスクリューを回転させてるだけ」ですね。世界初の船外機が発売された時から、基本的にこの構造は変わっていません。

工場にあった船外機のスクリュー付近の内部模型。上の棒はエンジンにつながっており、それがスクリューにつながる横軸を回しているだけ、ということが分かります

──機構的にはほとんどミニ四駆と同じくらい単純なものなんですね……。では、過酷な使われ方というのは、どういうことなんでしょうか?

 具体的にいうと、船外機は「5000回転でず〜っと回転し続ける」ことを要求されるんです。自動車だったら、高回転になったところでギアを変更して、回転数が下がります。で、さらに速度が上がって高回転になったところで高い速度用のギアに変更して、回転数がまた下がる……というプロセスを繰り返しながら走行しますよね。でも、さっき言ったように船外機にはトランスミッションがないんです。本当にエンジンが常に高回転で回り続けているだけ。車で言えば「ローギアのままアクセルをベタ踏みしている」という状態で、ずっと回り続けることが求められます。

──そうか……変速がないとそうなりますよね……。他に船外機ならではのハードさってありますか?

 自動車のエンジンの使われ方と大きく異なるのが、エンジンを縦に置いているところです。普通、エンジンって横に置いて使うものなので、縦にしたら動かないんですよ。それに、エンジンの軸を下向きにして立てると、エンジンの重さが軸受にかかるので、この軸受もタフじゃないと保ちません。大型船外機だとエンジンの重量だけで300kgくらいの重さになる上、そこに回転運動から来る振動や荷重がかかるので、とにかく「縦に置いたエンジンをすごい回転で回しても壊れない」という状態に持っていくこと自体が、それなりに大変です。

縦向きになってマウントに搭載されるエンジン。自動車では絶対やらない搭載方法です

──聞くだに大変そうですね……。

 だから結局、求められるものがシンプルになってくるんです。壊れないことと、燃費がいいこと、あとはパワーがちゃんと出ること。以上終わり、みたいな。シンプルで分かりやすくて単純、それが船外機というメカなんです。

──確かに、自動車と違って海の真ん中で壊れたら大変ですもんね。船外機は「タフでハイパワーで頑丈なエンジン」を積んでいることがとにかく大事なわけか……。

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