ねとらぼ
2025/07/22 20:00(公開)

「また絵を描きたいけど、もう遅いよなぁ……そう思っている社会人を勇気づけたい!」 イラスト描き始めて1年半で書籍化も実現! 湊川あいさんのイラスト成長物語【画力ビフォーアフター】

 ゲームやアニメ、漫画や書籍、企業の広報物や商品パッケージなど、イラストは実にさまざまなところで活躍しています。皆さんも好きなイラストレーターさんの作品に癒やされたり、力を貰ったりすることもあるのではないでしょうか?

 ですが、イラストはいまだに、驚くほど安値で依頼されたり、「ちゃちゃっと書いてよ。上手だから簡単でしょ?」などと悲しい言葉を投げかけられたりした、という声を聞くことも少なくありません。そんなことが少しでも減ればとの思いから、イラストに関わる皆さんが積み上げてきた努力やイラストに込めている思いについて、エピソードを紹介できればと思います。

 今回は、イラストを描き始めてからわずか1年半で書籍化も実現した、IT専門の解説漫画家・湊川あいさんのイラスト成長物語をご紹介。「社会人になってから全然絵を描かなくなったな……また描きたいけど、今更遅いよな……という人を勇気づけたい!」という熱い思いをお持ちの湊川さん。そんなご自身のイラストは、一体どのように成長してきたのでしょうか?

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湊川あいさんプロフィール

お名前:湊川あい(みなとがわ・あい)

 大学で情報工学について学んだあと、IT系のベンチャー企業に就職。会社員として働きながら、noteに「マンガでわかるWebデザイン」と題した解説マンガを投稿していたところ出版社から声がかかる。現在は、IT専門の解説漫画家として活動中。著書に『わかばちゃんと学ぶ Webサイト制作の基本』『わかばちゃんと学ぶ Git使い方入門』『わかばちゃんと学ぶ サーバー監視』『わかばちゃんとつくって、壊して、直して学ぶ NewSQL入門』などがある。1児の母。

  • イラスト執筆歴:11年
  • 好きなイラストレーター:駒都えーじ先生(キャラクター造形が素晴らしいだけでなく、一枚の絵の中にキャラクターの性格やストーリーが込められている点が特に勉強になります)
  • 使用機材:CLIPSTUDIO、Wacom Cintiq 13HD(液晶タブレットの大きさについて:私は手首で描くタイプなので、画面サイズが小さいほうが描きやすいです。昔から、ノートの端にちょこっと落書きを描くのが好きでした。小さいほうが落ち着きます)
  • イラストアカウント:https://note.com/llminatoll / https://x.com/llminatoll
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ネットやスマホゲームばかりやっている自分を変えたくて、25歳からイラストを描き始める

Q:本日はご協力ありがとうございます。早速ですが、イラストを描きはじめたきっかけをお伺いしてもよいですか?

 幼少期から絵を描くことは好きでしたが、本格的にデジタルで描き始めたのは25歳からです。会社の仕事が休みの日、ネットサーフィンとスマホゲームばかりやっている自分を変えたくて、noteというSNSにWeb技術の解説漫画を投稿し始めました。コンテンツをただ消費するだけでなく、いつか作り手になりたいという漠然とした思いがありました。

2014年5月。noteに『マンガでわかるWebデザイン』と題して、解説漫画を投稿しはじめました。子どもの頃はよく絵を描いていましたが、社会人になってからはほとんど描いていませんでした。

Q:社会人からのスタートですと、なかなか時間が取れなくて大変なことも多い印象ですが、イラストが上達するまでに感じた苦労や悩みはありますか?

 最初の1年は「自分の描いた絵が、遠く離れた人に見てもらえるのが嬉しい」という、ただその一心で描いていました。私がメインで投稿していたnoteというサービスは「ユーザ全員がクリエイター」というコンセプトで始まりました。そのためか、面と向かって私の絵を否定してくる人はほとんどいませんでした。会社員と並行して、限りある時間の中で、その時描けるものをひたすらアップするという毎日だったので、悩みはあまりなかった気がします。それよりも、ネット上でできた友達と一緒にコラボイラストを描いたり、note上の企画で盛り上がったりと、楽しかった思い出の方が多いですね。

Q:努力する上で意識していたことはありますか?

 いつも意識しているのは「誰に届けたいのか?」ということです。イラストや漫画が多くの人の目に触れるようになると、時には批判的な意見も耳にします。でも、そんな時こそ「本来のターゲットはどんな人だっけ?」と自問自答することで、周りの声に惑わされることなく、落ち着いて制作を続けられます。

1年半でここまで変わる! 2015年11月。毎日絵を投稿することで、デジタルに慣れてきました。
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「わかばちゃんのマンガのおかげで、難しい技術が理解できた」「会社の本棚にも置いてます!」 読者の声が何よりも嬉しい

Q:私も「Webサイト制作の基本」や「Googleアナリティクス」などに大変お世話になったのですが、とても分かりやすくて面白かったです。ただ、解説漫画は「漫画」としての面白さと「解説書」としての真面目さを両立するのが難しそうなのですが、意識していることはありますか?

 解説漫画って、ついつい真面目なトーンになり、淡々と進みがちですよね。まるで教科書を読んでいるような気分になっちゃうことも……。

 でも、読んでいる人に「続き読みたい!」って思ってもらいたい! そんなときに私が意識しているのは、情報の正確性はそのままに「これでもか!」と感情の色を乗せていくことです。

 たとえば、一生懸命作ったWebサービスの画面が突然真っ白になったとします。冷静に「あれ、うまくいかないね」なんて言ってる場合じゃありません! 「うぎゃぁぁぁ!! なんで!?!?!?」と絶叫するくらいオーバーリアクションにするんです(色で表すと、ドス黒い紫)。

 そうすることで、読者さんも「やばい! 何があったの!?」って前のめりになってくれますし、何より漫画自体を楽しんで読んでもらえます。解説漫画は、感情を鮮やかな絵の具のように使うことで、もっと面白くなります!

Q:湊川さんはご自身で解説漫画を描かれていますが、ご自身のイラストの上達に役立った書籍やサイトはありますか?

 私の漫画制作に欠かせない、2冊のバイブルをご紹介します!

(1)『ポーズが描ければ動きも描ける たてなか流クイックスケッチ』:この本は、ベテランアニメーター立中順平さんのスケッチの秘訣がギュッと詰まった指南書です。一番のポイントは、人物の動きを曲線で捉えるという考え方! 「人物スケッチって、もっと自由に、のびのび描いていいんだ!」と、まるで目からウロコが落ちるような感覚でした。もし、あなたが「人体の構造にとらわれすぎて、なんだか煮詰まってきたな……」と感じているなら、ぜひこの本を手に取ってみてください。きっと新しい発見がありますよ!

(2)『「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール』:世の中にあふれる分かりにくい看板や説明書をバシバシ改善していく、読んでいてスカッとする本です。この本で学んだ「分かりやすい表現」のルールは、解説漫画を描く上で、私の揺るぎない土台になっています。どうすれば読者に意図が正確に伝わるか、常にこの本の教えを胸に刻んでいます!


Q:イラストの上達にオススメの取り組みなどはいかがでしょう?

 好きな絵を、紙と鉛筆で模写することです。デジタルだと「完成まで描き切らなきゃ」というプレッシャーを感じますが、紙と鉛筆だと気軽に描けて、そこそこのところで止めて次の絵に移れるのが良い点だと思います。あとは、自分より絵が上手い人に「絵に違和感を覚える場所はないか? どうしたらもっと良くなるか?」と聞いてみて、そのあとすぐ修正して見てもらう……という繰り返しも効果がありました(最初の1年は特にこれをやっていました)

2015年と2014年の比較。一番変化が大きかった時期かもしれません。

Q:そうした書籍や取り組みのおかげもあって、今では多くの解説漫画をリリースされるなど、幅広く活躍されていらっしゃいますが、イラストを描き続けて良かったことはなんですか?

 「わかばちゃんのマンガのおかげで、理解が難しかった技術が使えるようになりました」「会社の本棚にも置いてます!」といった声をいただくことです。Gitメンテナ(世界的に使われているシステムの開発・管理・保守をしている人)からいただいた言葉も、定期的に読み返して生きる糧にしています。

Q:では、これからイラストでやりたいことがありましたら教えてください。

 今までに『マンガでわかるDocker』というシリーズを第4弾まで描いてきたのですが、それらをブラッシュアップして総集編を作りたいと思っています。Kindleで英語版も配信し、より多くの人に読んでもらいたいです。

2019年に技術書典というイベントに合わせて描いた『マンガでわかるDocker ③ AWS編』の表紙

Q:ありがとうございます! 最後にこれからイラストをもっと上手くなりたい人達へ、ぜひメッセージを!

 自分の脳内の中にしかなかったイメージが、絵にすることで遠く離れた相手に伝わる。それってすごく不思議で、ワクワクしませんか? 正直、私より絵が上手い人はごまんといますし、最近は画像生成AIの進化も目覚ましいものがあります。それでも、自分の頭の中にあるイメージを形にできるのは、世界中で自分だけなんです。そして、あなたの頭の中のイメージを描けるのも、もちろんあなただけ。

 だから、「上手い」「下手」といった基準にとらわれずに「ちょっとだけ自分の内側を誰かに見せてみようかな」という気軽な気持ちで描いてみませんか? 描き続けていれば、技術はあとから必ずついてきます。

 「社会人になってから全然絵を描かなくなったな……また描きたいけど、今さら遅いよな」という方、ぜひまたチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

湊川あいさんの著書『わかばちゃんとつくって、壊して、直して学ぶ NewSQL入門』の紹介

 2025年7月16日に湊川あいさんの著書『わかばちゃんとつくって、壊して、直して学ぶ NewSQL入門』が発売されました。分散データベースについてマンガでわかりやすく解説しています! 全国の書店やAmazonにて発売中です。

マンガのあらすじ

 大学生わかばちゃんのもとに、妖精「NewSQLさん」が現れた。「NewSQLは障害に強いって言うけど、どこまで壊せば動かなくなるんだろう?」。さぁ、TiDBクラスターを壊しまくれ! もちろんリカバリも忘れずに。

 物語後半では、内部構造の探検に出発! 分散型なのにRDBのように使える秘密とは? クラスターの中の働き者たちとの出会いを通して、わかばちゃんが得たものは……?

(画像提供:湊川あいさん)

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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