【更新】本記事は、初出時より更新した箇所があります。

 営業資料、会議資料、議事録など、仕事にはたくさんの資料がつきもの。最近は生成AIの力を借りて効率化できるようになったものの、まだまだ悪戦苦闘している人も多いのでは?

 今回はそんな資料を何日もかけて作った結果、上司から「こんな凝った資料はいらない」といわれてしまったKさんのエピソードを紹介。こちらを元に、人と組織、労働市場に関する調査・研究やサービス提供を手がけているパーソル総合研究所で研修講師として活躍している渡邉規和さんに、マネジメント上のポイントをコメントいただきます。

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「資料こんなに凝らないでいいよ。時間もったいないから」

 Kさんは、Web関連の幅広い事業を手がける企業で働く20代男性。新卒2年目まではWeb制作の営業、3年目から自社メディアの運営に携わり、現在はそのメディアのデスクを担当しています。

 そんなKさん、入社3年目に運営するメディアの新規コンテンツ開拓を任されます。

「当時、既存コンテンツが読者に飽きられはじめており、一方で新しい柱も作れておらず、売上が伸び悩んでいました。そんな状況を変えるための取り組みを託されて、最初は正直『ホントに自分に出来るのか……?』という不安しかありませんでしたね」

 不安を抱えつつも、他社メディアのコンテンツを眺めたり、メディアを分析し直したりして、懸命にアイデアを模索するKさん。やがて「サブブランドを立ち上げよう」と思い立ち、早速、資料を作って上司に提案します。

 ところが、そのミーティングの冒頭、上司から思わぬ一言が返ってきました。

「資料こんなに凝らないでいいよ。時間もったいないから」

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「資料の見栄えを整える時間を、他の仕事を回して」

 その後、ミーティングはそのまま進みましたが、上司は「施策の要点や数字の見込みが分かりにくいから、そこだけ整理して改めて共有して。チャットツールにベタ打ちでいいよ」とコメント。提案は仕切り直しとなってしまいました。

「その時は、指摘されたことの意味がよく分かりませんでした。当時の自分としては、入れるべき情報を入れて、分かりやすくまとめたつもりだったので」

 Kさんが資料の作成に費やした時間は、のべ5営業日ほど。完成したパワポの資料は確かに見栄えが良く、Kさんが伝えたい情報も全て入っていました。

インフォグラフィックのようなスライド。確かに見栄えは良くて情報量も多いが……。

 何がいけないのか分からなかったKさんは、とりあえず言われるがまま、要点だけを簡潔にまとめてチャットツールで上司に共有。その後、何度か「これは具体的にどういうことか教えて」「ここの数字のロジック共有して」といったやりとりがあり、最終的にはゴーサインをもらえたそうです。

 そして後日、Kさんは上司に、あの資料は何がまずかったのかを尋ねます。そこで上司が最初に言ったのは、「社内向けの資料のデザインを凝る必要はない」ということでした。

「社外向けなら見栄えも気にすべきですけど、社内の人間が見るだけなら、見やすければいいといわれたんです。誰も綺麗なデザインとか求めてない、その時間を使って他の仕事を進めてほしいと」

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「資料の目的や見る相手を考えなさい」という上司の教え

 そんなKさんの上司は、社内向けの資料はメモ帳に要点を箇条書きにするスタイルが基本で、プレゼンのような機会にしかパワポを使わないそうです。そのパワポも「テキストベースで装飾はほぼありませんでした。でも、とても具体的で分かりやすかったのを覚えています」とKさんは言います。

 このほかにも、資料作成のポイントを上司からたくさん教わったというKさん。中でも印象に残っているのが、「ミーティングの目的や相手を考えて、入れるべき情報を取捨選択しなさい」という教えだそうです。

サブブランドが取り扱うジャンルの盛り上がりを補足する年表。だが、上司には必要なかった……。

「例えば、新しい施策の決裁を貰うための資料の場合、忙しい決裁者がすぐに施策の要点やポテンシャル、リスクなどを理解できて、判断を下せるかが大事です。上司はよく、仮に設定したミーティングが飛んで『資料だけ共有して』となった時、それを見てもらうだけで判断できるくらい過不足ない資料を意識しなさいと言っていました」

 もちろん、そうなかなか上手くはいかないというKさん。それでも、その後は作った資料に上司が指摘を入れる機会も減ってきているとのことで、確かな成長を感じてはいるようです。

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パーソル総合研究所・渡邉規和さんからのコメント

回答者
渡邉 規和(わたなべ・のりかず)
パーソル総合研究所 トレーニングパフォーマンスコンサルタント

人材サービス業の営業マネジャー(東京・仙台)、BPO事業プロジェクトマネジャー、合弁会社の人事で採用担当、2社のベンチャー勤務を経て2018年から現職。研修講師の専門職として若手からマネジャー層向けのコミュニケーション等の研修に年間およそ140日登壇。PMP、実務教育学修士(専門職)、青山学院大学大学院社会情報学研究科博士前期課程在学中。

 今回のケースは、顧客である上司の意向をくみ取りきれていなかったのが問題ですね。この上司は孫氏の兵法でいうところの「巧遅は拙速に如かず(こうちはせっそくにしかず)」を実践しているといえます。つまり、丁寧で遅いよりも、粗くてもスピード重視ということです。

 とはいえ、気をつけるべきは、決して全ての上司が社内向け資料を拙速に仕上げてほしいと思っているとは限らない、ということです。なかには巧緻を好む上司もいるかもしれません。

 今回のことから学びを得るなら、以下のようになると思います。

  • ツボを押さえる:依頼に着手する前に、顧客・依頼主(今回の場合は上司)のツボを確認し、踏まえる(外さない)。
  • ツールを使う:拙速バージョンでいくなら、スピードを上げるために使えるものを探して使う。例えば、資料作成はテンプレを活用する、生成AIを使うなど。
  • こまめに擦り合わせる:上司の許容の範囲でこまめに確認し、ズレが小さいうちに修正する。フタを開けたらズレが大きかった、という悲劇はできるだけ避けたいところ。
  • 説明の準備をする:「記載内容を自分の言葉で説明できるか?」を事前にしっかり確認、準備する(生成AIを使う場合はなおのこと)。見た目が良くても、中身が伝わらなければ、結果は残念なことになってしまうかもしれないため。

【更新:2025年8月5日9時11分 記事内容を一部修正しました】

※記事中の人物のイニシャルは、エピソード提供者の実際のイニシャルではありません。
※記事中のスライドは、Kさんの実際の資料を元に、編集部で作成したサンプルです。