ねとらぼ
2025/09/12 11:45(公開)

「この程度の仕事で音を上げるとか(笑)」 退職代行91回の中古車販売会社、辞めた20代男性の壮絶エピソード

 近年、注目を集めている退職代行サービス。ブラック企業から離れる一手として利用者が増えていますが、実際にはどのような企業を退職する際に利用されているのでしょうか?

 今回は、退職代行利用実績データ開示サービス「MOMURI+(モームリプラス)」の協力のもと、実際に退職代行依頼のあった中古車販売会社のケースを紹介。その内容をもとに、企業が取り組む上でのポイントについて、パーソル総合研究所で研修講師として活躍する渡邉規和さんにコメントをいただきました。同研究所は、人と組織、労働市場に関する調査・研究やサービスを手がけています。

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利用者のプロフィール

氏名大輔(仮名)
性別男性
当時の年齢20代
退職した時期2025年6月
当時の企業の業種中古車販売
当時の企業での職種金融・財務・会計
当時の企業が退職代行を利用された回数91回
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「7時から23時まで働いてやる気を見せろ」

 6月、大輔さんは退職代行を利用して勤務先を退職しました。勤めていたのは中古車販売会社。財務や会計関連の仕事に携わっていました。

 入社前、大輔さんは「残業は月15~20時間くらい」といわれていたそうです。ですが、いざ入社してみると、社内は「終わるまでいくらでも残業しろ」と真逆の空気。特に新人たちは、先輩たちに追いつくために法令違反も意に介さない勢いで働いていたそうです。「死ぬ気でもがいて残業しろ的な風潮でした」と、大輔さんは語ります。

 大輔さんも例に漏れず、毎日9時半から22~23時まで働いたそうです。しかし、あるとき上司から「社内システムが使える7時から23時まで限界で働いてやる気を見せろ」と叱責されたとのこと。大輔さんは仕方なくひたすら働き続け、あまりの疲れに自腹でタクシーで帰ることもあったそうです。

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風邪気味でマスクをつけて出社したら「この程度の仕事で音を上げるとか(笑)」

 そんな生活を続けていては、体調も崩してしまうというもの。ですが、あるとき風邪気味でマスクをつけて出社した大輔さんに、上司の部長は気遣うどころか、とんでもない言葉をかけます。

「みんな大変なのに、自分だけ大変アピールするな」
「この程度の仕事で音を上げるとか(笑)」
「ウチが求めるレベルに達してない」
「そこまでして会社来るとか。もう諦めたら?(笑)」

 大輔さんは「実力不足は認めますけど、これまで頼まれた仕事は断らずにやるとか、自分なりに努力はしてきたつもりでした。それなのに……」と言葉を詰まらせていました。

社員全員の前で説教。「まるで公開処刑だった」

 さらに大輔さんは、所属部署のメンバー全員の前で説教されたこともあったと語ります。

「ある日、部長から4時間くらいにわたって、説教されたんです。部長が課のメンバー全員を集めて、みんなの前で。それも、全く身に覚えのない事実無根のことをでっちあげられて。もう公開処刑みたいでした……」

 部長は大輔さんに向かって「会社は他者評価。人の意見に自分の意見をぶつけるな」「お前はプライドが高い」「そんなに自分をねぎらってほしいのか? お前だけ特別扱いする気はない」「お前からはやる気が感じられない。やる気を見せろ」などの辛らつな言葉を浴びせたそうです。

 このとき以外にも、部長から何度も説教されたという大輔さん。やがて精神的に疲弊してしまい、ついに退職を決意。退職代行を利用して会社を離れました。

パーソル総合研究所・渡邉規和さんからのコメント

 大輔さん大変でしたね、入社前の話と入社後の実情には多くの乖離があるようですし、お気持ちお察しします。ここまでひどいと「おかれた場所で咲きなさい」とは言えず、むしろ「咲ける場所へ移りましょう」が正しいように思います。

 一方で、企業側の視点では、この事象からどのようなことが言えるでしょうか。

 今の経営層・管理職層が新人だったころに比べれば、総じて働きやすくなっている会社が多いように思います。今ではハラスメントと言われるようなことも、過去にはまかり通っていたことがあるのも事実でしょう。

 しかし、だからといって「今は以前よりは働きやすい」ことが、今の若手にとっても働きやすいこととは限りません。特に昨今の採用市場は売り手優位の状況が続いております。個人が転職をしやすいことを考えると、企業側には社員を選ぶ視点にくわえて、社員に選ばれるための視点も大切です。もっと踏み込むなら、せっかく自社を選んでくれた社員に選ばれ続けるための視点も必要ではないでしょうか。

 入社してくれた社員が仕事を覚えて成長し、長く活躍してくれることを本当に願うのであれば、法令や約束を守ること、ハラスメントを防止することは不可欠ではないでしょうか。

協力者プロフィール

MOMURI+(モームリプラス)

「退職代行モームリ」を管理している株式会社アルバトロスが提供するサービス。モームリに年間2万件以上蓄積される退職データを活用し、労働者向けの「退職情報開示サービス」、企業向けの講演会やスポットコンサルといった「離職率低下のための6つのサービス」を提供している。大手総合エレクトロニクスメーカー関連会社や大手製鉄会社グループ、私立大学をはじめとする教育機関で講演を実施するなど、企業の離職防止のサポートに努めている。
渡邉 規和(わたなべ・のりかず)
パーソル総合研究所 トレーニングパフォーマンスコンサルタント

人材サービス業の営業マネジャー(東京・仙台)、BPO事業プロジェクトマネジャー、合弁会社の人事で採用担当、2社のベンチャー勤務を経て2018年から現職。研修講師の専門職として若手からマネジャー層向けのコミュニケーション等の研修に年間およそ140日登壇。PMP、実務教育学修士(専門職)、青山学院大学大学院社会情報学研究科博士前期課程在学中。

※記事中の人物の仮名および企業のイニシャル等は、エピソード提供者の本名および退職した実際の企業のイニシャル等とは関係ありません。
※エピソード提供者の個人特定防止のため、一部脚色を入れております。

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