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※本記事は『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』に関するネタバレを含みます。これから視聴する人はご注意ください。
ライター:たまごまご
オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。
X:@tamagomago
先日最終回を迎えたばかりの『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』は、いま特に忙しい大人に観ていただきたいアニメシリーズ。突如暴走を始めた宇宙列車を舞台に大事件が巻き起こる、YouTubeで話題のSFアニメです。
理由1:1話3分半! スキマ時間で観られる! その上で満足できるボリューム感!(しかも日本語+10カ国語の字幕付き! YouTubeで全部観られる!)
理由2:80’sジャパンSF風のデザインが、かわいくてカッコいい!
理由3:3組のコンビの関係性がそれぞれ独自で、各々にキュンと来るパートが詰まっていて、全組メロい。
理由4:メインキャラたちの背景がかなり濃厚。設定が後からどんどん見えてくるので、考察しがいがある。
今回は特に理由3から、何でも屋稼業を営むちょっと危なげなコンビ“カートとマックス”を紹介しようと思います。この2人、老若男女を問わず「社会で働く」ことを経験した人なら、刺さる部分が多いと思うのです。
同作の前身にあたるのが、自主制作アニメーション『ミルキー☆ハイウェイ』。監督が自主制作作品として作った作品なので、ここから見るほうが、アニメーションの気持ち良さと世界観をより楽しめると思います。
超無気力無関心男子、カートとマックス
メインになっているのは、上の写真の左側で、スピード違反(+ちょっと公務執行妨害とかあれこれやりすぎちゃった)で捕まった好戦的なヤンキー気質のマキナと、お人好しでマイペースな強化人間のチハルの女子二人組。23歳。
逮捕された彼女らは、惑星間走行列車の「ミルキー☆サブウェイ」清掃の更生プログラムで働くことになります。
そんな2人と一緒に働くことになったペアが2組。真ん中は弱いのに喧嘩っぱやい腰巾着カナタと、暴走族総長のアカネのコンビ。そして右の男子2人が、肉弾戦型サイボーグのカートと、頭脳型サイボーグのマックスのコンビ。
まあ見るからに、カートとマックスの男サイボーグふたりはカタギじゃない。ビジュアル的からして存在感があります。ところが序盤、この2人はかなり影が薄い。というのも、なるべく人に接しないように動いているからです。
「ミルキーサブウェイ」に乗る前も乗った後も、ずっとゲームをし続けているふたり。掃除中の列車が暴走するという緊急事態になっても、焦る素振りが微塵も見えません。
2人は仕事で何度か補導・勾留されているものの、会社が敏腕の弁護士を雇っているため無罪放免となってきた……らしい。本編の会話ではマックスが、料金さえ払えば足がつかないように殺しまでやる、ということまで言っています。グレーで通ってきたものの、どちらかというと真っ黒そうな稼業です。
この得体の知れない“やばいプロフェッショナル感”が、前半における彼らのカッコ良さです。正直、ほかの4人はぽんこつコメディ要員としての要素が多すぎて、乗っている列車の暴走という緊急事態に対処できるようには全く見えません。一方、この2人はいつでもなんとでもできる、という自信すら感じられる強キャラのオーラが出ています。
もっとも、彼らの本当の意味での魅力は、強さだけではない、心の柔らかい場所が表に出た6話以降で一気に強くなります。
「誰にも感謝されないからです」
第6話「カートとマックス」の会話によると、今の稼業の前、2人は清掃業や飲食という普通の仕事をしていた、ということに一応なっていたようです。目を逸らして話しているので、正直どこまで本当なんだか。聞き込みをしていた警察署巡査のリョーコは「それなんでやめちゃったの?」と聞くと「黙秘します」と口をそろえて答えます。
そんな2人も強制自白させられる機械を取りつけられると、女社長がいる会社で働いているとか麻薬組織とのつながりの有無とか、抵抗することもできずにボロボロ話してしまうように。
ここで見てほしいのが、取りつけられた自白デバイスの構造です。起動すると接続部分が明るく光るようになっていて、いつ本当のことを言っているのか、わかるようになっています。
他人に対して極度に無関心で、お金だけもらって心を隠していたカートとマックスの本音が、デバイスによってあらわになった……のかと思いきや、実はこのシーンの演出、非常に細かい。
リョーコ「ふたりが普通の仕事やめた理由、教えてほしいんだけど」
ふたり「誰にも感謝されないからです」
マックス「誰もありがとうとか言ってくれないからです」
カート「機械扱いされるのが嫌になってやめました」
マックスがデバイスをハッキングで解除しているため、よく見ると機械は動いておらず、光がついていない。この言葉は、2人が自ら意図的に話した本音……なのでしょう。もともと表情に乏しいとはいえ、顔が見えないのも演出がうまい。
なぜ黙秘していたのに言う気になったのかはわかりません。でも、闇稼業のプロの心の奥底の底が出たこのシーンは、多くのファンの心を掴みました。
たったひとことの「ありがとう」がもたらしたもの
距離をおいたままだったほかの4人と、カート&マックス。第7話「仕事と見返り」では、車内のセキュリティロボットにあわや全滅させられそうになる、という緊急事態にしびれをきらして、マキナが2人に助けてもらえないかと交渉します。このシーンのやりとりは、大きな転機になりました。
カート「いくらだせんの?」
マキナ「あ、お金とんの?」
マックス「え、逆になんでタダなの?」
価値観の相違が出るシーン。ちなみに80円。高いらしい。
アニメを7話まで追ってきて、チハル&マキナたちに感情移入していたら、2人の金銭の要求はちょっと引くかもしれません。6人しか乗っていない暴走列車で、ロボットに3人やられています。協力体制を頭に入れていない、というのはあまりにも無関心で冷淡。
逆に6話で描かれたカート&マックスを観ていたら、この提案が妥当なのがわかります。
マキナ「あんたら一般人相手でも、そんな金額、要求すんの?」
カート「お前、何言ってんの? 取引相手がどこの誰かなんてどうでもいいんだよ。金さえ払えば仕事するっつってんの」
マックス「妥当な金額受け取れれば仕事するし、払えないなら何もしないよ? 別に親切でやってるわけじゃないんだから」
プロフェッショナルの発言です。頼れるカッコ良さがある、けどちょっと近づきがたくて怖い。
前金半分をもらったふたりの活躍は、今までの気の抜けた姿とは打って変わって、超凄腕なので必見。カートがセキュリティロボットの攻撃を全て防ぎきり、45秒でマックスがハッキング。特にカートの、まるでリズムゲームみたいなテンポのいい防御は、素人のものじゃないのが一目瞭然。このアニメの気持ち良いところが詰まっているシーンです。
ここまではイメージ通りの、超凄腕裏稼業仕事人、といった様子です。しかし、助けられたチハルの一言で事態は一変します。
チハル「ねぇ~、ふたりともありがとうね」
チハルの価値観からしたら当たり前の、「ありがとう」。しかし、大の男2人は、たじろぎます。
取り調べの時のセリフにあるように、カート&マックスは今まで仕事でやったことに対して、お金はもらってはきたものの、感謝されたことがなかったらしい。「機械扱いされるのが嫌になってやめました」という発言が、2人の反応によって、ぐっとリアルになります。
これは筆者の推測ですが、この治安の悪すぎる世界において「ありがとう」を無防備に言う人自体が極端に少ない可能性すらもあります。この作品はコミカルだけど、決して優しい世界ではありません。
お金をもらって仕事は成立したのに、感謝される意味がわからなかったカートとマックス。でもチハルが告げる言葉は、決して複雑ではない、人間が関係を持つ際に直面する自然に出てくるであろう感情が詰まっています。
チハル「2人いなかったらお金あってもどうにもならなかったから、やっぱありがとうでいいんじゃない?」
それに対してのマックスの言葉は、何年も言うことが出来ず、あたためつづけてきたものなのでしょうか。
マックス「どう……いたしまして……」
このやりとりは、最終回のとあるシーンにもつながって、6人の人間関係をより深めることになります。ぜひ、実際に見て確かめてみてください。
短い尺に詰まった、深堀りしたくなる要素
念のため、この作品は公式が、キャッチコピー的にこう述べているのを忘れないようにしておきたいです。
「意図なし、主義なし、主張なし! ノリで乗り切る前代未聞のスペーストレインスペクタクル!!」
「ありがとう」のやり取りのシーンも、仕事や人助けの価値とか、お金とか、感謝とか、やりがいとか、そういう話をお説教がましくしているわけでは決してありません。
ただ、すごく当たり前に「ありがとう」を言ったチハルと、「ありがとう」をもらってこなかったカート&マックスのやり取りが、人の存在の価値観を問うドラマを一瞬で生んだ点に注目したいのです。働いたことのある全ての人の心を刺激する、普遍的なものがあるように感じられてなりません。
興味深いのは、感謝されたあとにカート&マックスが、残りのお金を受け取らなかったにもかかわらず、前金は返さなかったところです。
親切だけでやったわけではない、という部分を崩さなかったのは彼ら2人の矜持でもあり、方針を変えるちょうどいい納得ポイントだったんでしょう。……まあ、特に意味のないただのギャグシーンかもしれないけれど。そういうことを考えたくなるくらいに、2人のキャラクターは人間味が出て、愛しいものになりました。
今まで全く協力してこなかった2人が、これをきっかけにお金のやり取りをせずとも強力な味方になっていくという展開がまた熱い。カートの死んでいたような目が少しずつ変わっていくのもキュンと来ます。
『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』第10話より。この体勢、勘違いするなというほうが無理では!?
たとえば10話、男3人トイレでくんずほぐれつに見えるこのシーン。カートとマックスが小さいカナタをかついで天井の裏の整備をしていたところ、カートのエネルギーに限界が来て転んでしまった場面なのですが、これだけみるとアハーンな勘違いをしてしまいそうな、コミカルなパートです。
ですが、ファンは考察を巡らせ、盛り上がりました。普通に崩れたら、カナタは床に叩きつけられて大怪我をしていたはず。そこでとっさに一番下にいたカートが仰向けになってカナタとマックスを受け止めたからこういう姿勢になったのではないか、という読みです。
本当はどうなのかはわかりません。でも「ありがとう」を受け取った後の2人に、とっさに人を助けるための行動を取るくらいの心境の変化があったのだとしたら……と考えることもできるから、この作品、とても楽しい。カート&マックスの魅力は多くのファンの心を掴んだようで、SNS上では2人の過去を想像する考察ポストやファンアートが、どしどしアップされはじめました。
公式サイトのプロフィールによれば、カートは「陸軍出身」とのこと。マックスに至っては「宇宙軍出身」。表に出てこない部分の設定のスケールが大きいです。公式ポストの解説によると、軍人は無償でサイボーグ改造手術を受けることができるらしい。となると、2人の過去は……そこは匂わせだけに止まっていますが、何か絶対あったじゃん……。考えるなっていうほうが無理です。
そもそも、他人に興味が全くない、各々ロンリーウルフみたいな生き方のこの2人、なんでここまで息が合って一緒にいるのか、というのが考察意欲を刺激するところです。2人がゲームの協力プレイをしているシーンでは、相手の回復アイテムを何度も取ってしまうくらいには、良くも悪くも気遣いをし合う関係ではないようです。
2人はなんだかんだ、ずっと隣に並んで座っています。いつも連れション状態で、トイレではダラダラ一緒に髪の毛を整えながらおしゃべりしています。ことあるごとにセリフを言うタイミングも絶妙に合っています。
あまりにも息がぴったりすぎです。少なくとも「他人」として行動しているようには見えません。「仕事仲間」ではありますが、それだけの関係ってほどサバサバしていません。でも「友人」という枠でくくっていいのかというと、判断に迷うシーンも多いです。プロの「バディ」だとしたら、今までどんなドラマを繰り広げてきたのか気になります。
2人にしかわからない関係があるのでしょう。いろいろな妄想が膨らみますが、今のところ短い尺の中では明確な解答は描かれていません。
カートとマックスに限らず、作中で語られていないだけで、背景設定はかなり緻密に作られているから、この作品は油断なりません。番組公式と作者公式Xでは、『ミルキー☆サブウェイ』の世界観設定がどんどん公開され、ファンをどよめかせています。
カート&マックスが務めているのは「ドーズ&スミス防衛サービス」。やばそうな会社なのが明かされただけでなく、社長と同僚(全員人間?)の姿まで公開されています。作者による、社長がいかに怖い存在なのかのイラストまで! もう「ドーズ&スミス防衛サービス」だけで、アニメがワンクール作れそうな勢いです。
9月18日から、少年エースplusにて『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』のコミカライズがスタートするという情報も公開されています。また、劇場公開も発表されました。アニメをどのくらい再現するのか、どのくらい意味ありげで表に出ていない情報がここで明かされるかも期待したくなります。なんせこの世界、描かれていないだけで人殺し自体は身近な出来事であることがほのめかされているのですから。
80’sテイストって、こんなにかわいくてカッコいい
今回はカート&マックスに絞って話をしてきましたが、この作品全体に流れる80年代のかわいさ・カッコよさは映像美としてぜひ観てほしいので、付け加えておこうと思います。
まず、惑星間をドライブしたり列車で駆け抜けたりというスケール感。ワープではなく時間をかけて高速移動するというのは、ちょっと懐かしいSFで夢見た、あまりにもロマンチックな光景です。
6人のキャラクターの衣装も実にジャパニーズ80’s。アカネとカナタの暴走族2人組のレトロさは、いま見ると一周してかわいらしくおしゃれ。だぶっとしたチハルの衣装は、大人世代には懐かしいかもしれませんし、今見てもポップでキュート。スカジャンのヤンキーギャルサイボーグ・マキナのビジュアルは懐かしいのに未来的です。顔が人間型に作り込まれているのではなく、あくまでも感情がモニターに映し出されている、という構造のこだわりが大変レトロポップ。学生時代はこのモニターがなくていかにもなロボットヘッドなのも、この世界のお金とファッションの価値を感じさせてくれて芸が細かいです。
一方でAIロボットのO.T.A.M(Outer-space Transportation Animatoronics Manager)の造形は、まるで昭和のお店の前に置いてある人形のような質感。かわいらしさと不気味さをしっかり表現しています。
極めつけはテーマソングがキャンディーズの『銀河系まで飛んで行け!』。1977年の作品です。社会不適合者扱いされた存在が、列車の暴走で放り出されてしまう展開は、原曲の歌詞の意味が別の意味でぴったりハマっています。このアニメのために作られたんじゃないかと錯覚してしまうほど。
3分半で全12話。もっと観たいと渇望したくなるほど、短いです。けれども、この作品は短いからできる良さをわかって作られているようにも感じられます。凝縮されたテンポの良さ、センスの良いビジュアル、ふとした瞬間に滲むエモ、最終回での華麗な伏線回収の数々。物足りないと思ったら、もう1回、見直しましょう。画面のどこかに新しい発見があり、さらなる妄想を加速させてくれるはずです。
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