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雑草で麦わら帽子を作る! 水道パイプで恐竜の鳴き声を再現してみる! 知らん楽器を想像だけで作ってみる! 自分のフィギュアを自作する!!
根気のいるような工作を数多く行い、動画が上がるたびに見る人を驚かせているVTuber「ヘアピンまみれ」が、KADOKAWAから初の書籍を出版すると発表しました。タイトルは「心にいつも冒険心。」。発売は11月20日で、Amazonでは予約段階ですぐに「サブカルチャー一般の本」の売れ筋ランキングで1位になりました(記事執筆時点)。
帯の「読めば毎日が夏休み気分に!」というのは、ヘアピンまみれのスタイルを極めて的確についた一文だと思います。
むしろ今まで、興味のあることに対してなんでも根性で挑戦して、動画にしてきたヘアピンまみれの活動を知っていると、“本を書く”ということ自体も「挑戦&冒険の一貫なのではないか」とすら感じさせられます。初出情報、裏話盛りだくさん。普段からやることなすこと驚かせてくれるヘアピンまみれのエッセイ集とのことで、何を見せてくれるのか期待が高まります。
2025年3月に登録者数20万人を突破した記念配信では、ミュージシャン・こっちのけんとからのお祝いメッセージも届いて話題になりました(下の動画の50分50秒くらいからコメントあり)。
他にもコメディアンの転転飯店、イラストレーター・漫画家の西沢5ミリ、漫画家の大童澄瞳、VTuberのぽんぽことピーナッツくんなどなど、多種多様なジャンルの人からコメントが届いているこの配信、ヘアピンまみれに注目している人の幅の広さを感じさせてくれます。
ヘアピンまみれを見ていると学生時代の自由研究を思い出す人は多いと思います。実験・工作を行う最大のモチベーションとして、世の中を見渡したら面白いことだらけじゃん、という視点の切り口を常に持っているからです。
たとえば普段は気にしていなかった雑草。ちょっと調べてみると「おいしい」とか「工作に使える」など、意外な面白さが発見できるかもしれません(ヘアピンまみれの具体例は後述で紹介します)。いったん面白さに気づくと世界の解像度が一気に上がり、今までぼんやり見ていた景色に対して、もっと多くの視点を持てるようになります。ヘアピンまみれの動画は、そのワクワクする発見をお裾分けしてくれるのです。
今回はヘアピンまみれの動画の数々に込められた、世の中の楽しみ方の秘訣を探ってみたいと思います。子どものころ、夏休みに虫を捕まえてワクワクした瞬間の感覚を、もう一度味わってみよう!
ライター:たまごまご
オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。
X:@tamagomago
知らん楽器を勘で作ってみようシリーズ
ヘアピンまみれのバズった動画の一つが、ビブラスラップを想像だけで作るというチャレンジ動画です。ビブラスラップとは、ドラマなどによく出てくる「カーッ!」という効果音で聞くアレです。そもそも構造がわからないこのレア楽器を作ろうという発想がまず浮かばない。なんとなく存在は知っているけど、よくわからないという、好奇心をちょうどくすぐるこのお題は、新たな視聴者層の心をわしづかみ。SNSで一気に話題になりました。
結果的には全く同じとはいかなかったものの、かなり近い構造に着地。それっぽい音が出た最初の瞬間は必見です。なにより木で球を作れてしまうほどの工作技術の高さ。しれっとやっていますが、これはそうそうできるものじゃないです。
ひらめき効果音に使われるフレクサトーンや、甲子園などで流れる手回しサイレンも、推測で作っています。どちらも聞いたことはあるけど、一般的には構造が知られていないものです。
ヘアピンまみれの想像で楽器を作ってみたシリーズは、考える過程がとても重視されています。もちろん完成品でちゃんと音が鳴るのか、という結果も大事にはされていますが、そこに至るまで仕組みを考察するパートに力が入っています。構造を知った上で緻密に作るのとは、根本的に違う楽しみ方です。
水道パイプを用いて、恐竜パラサウロロフスの鳴き声を再現する動画に至っては、考察と実験のレベルが学者のような領域に踏み込みはじめています。もちろん実際に録音されたパラサウロロフスの声が残っているわけではないので正解はわからないのですが、“ぽい”部分に推測で到達できているのは、ワクワクさせられるものがあります。もうここまでやったら、これが答えであってほしいとすら思ってしまいます。
「答えがわからないはずのもの」を見たとき、諦めるのではなくて、推測して楽しんでもいいということに気付かせてくれたこの動画。解答はどうあれ、一歩踏み込んで考える余地がたくさんあるから世界って楽しいのだと、ヘアピンまみれは教えてくれました。
セミも雑草もおいしいから趣味で食べる
最近話題になったのは、セミを捕まえてチョコでコーティングして食べる動画です。チョコがけセミは、にじさんじ所属のVTuber・月ノ美兎にもプレゼント。彼女もまた、かつてセミの味を味わったことがあるVTuberです。
どちらも一人称「わたくし」で普段敬語で話す2人ですが、和気あいあいと、途中タメ口になるくらいフランクにセミを通じて仲良くなっていく様子は、世界に対する新しい視野を持った達人同士が通じ合う姿を見ているかのようです。
タイトルでセミにチョコをかける行為を「ヤバい」とは言っているものの、この動画ではセミ食を「ゲテモノ」として扱っていません。一般的には特殊という認識は持って語っているのですが、ヘアピンまみれは趣味で、ちゃんとおいしい食材としてセミを捕まえて、丁寧に調理してきたVTuberです。最初は興味本位だったのに、「好んで食うレベルでおいしいわ」と語り、次第に好んで捕まえて食べるようになっています(参考:ヘアピンまみれ Hairpin Mamireチャンネル「夏の終わりにセミの唐揚げをつくって食べる!!【素揚げも】」)。
「余りにおいしかったんで、動画にして皆に伝えたい」と述べるヘアピンまみれ。ビジュアルはセミそのまま+チョコがけなので、見る側としては、ちょっと引くような驚きが正直あります。セミ料理を作って、今まで絡みがなかったゲストで月ノ美兎を呼んで食べさせちゃうという大胆さもあります。
でも、ヘアピンまみれの動画には、ドッキリや嫌がらせ感は一切ありません。あくまでもポジティブな「おいしい料理」を扱う姿勢から一切ぶれていません。ふたりのヘアピンをセミにデコったり、平成小学生のバレンタインのようなラッピングをしたりという手間をかけて、エンタメ性もしっかり込められています。
ザリガニハンターとしてもヘアピンまみれは有名です。ザリガニの活動が活発化する深夜に、網を持ってガチンコでドブ川や用水路をさらい、もりもりザリガニを捕まえていく姿は、まるで頂点捕食者。
1日で800匹を捕獲するなど、数が数なので動画の迫力に圧倒されるのですが、それどころか動画にしていないところでも趣味でザリガニを捕獲しまくっていることに驚かされます。動画を盛り上げる根性や執念は確かにザリガニ捕獲にもあるのですが、それ以上に生き物に触れるのが楽しくて仕方ないのが伝わってきます。
条件付特定外来生物であるザリガニのみをキャッチして、おいしく料理。小さいものは飼っているナマズの餌にしているそうで、それ以外のドジョウなどの生物はちゃんとリリース。小さなエビや魚を見つけるたびに楽しそうにはしゃぐ様子も見られます。
あまりに捕獲している数字が桁違いなので、真似できる気は一切しませんが、子どものときに外に行って虫やザリガニを捕まえる楽しさを体験したことがある人なら、ヘアピンまみれの猛烈捕獲と実食動画はワクワクするものがあると思います。ヘアピンまみれは特に、生き物に対する知識が深いがゆえに、ただ捕まえるのを超えた楽しさを自然界に見つけているのもポイントです。
普段さほど意識しないような雑草にも目を留めます。セイバンモロコシの茎を集めてきれいにして、麦わら帽子を作ったり、パピルス紙をこしらえたり。
作った紙に書くためのペンも、植物を採取して自作。またヨーロッパのルバーブジャムを参考に、日本でギシギシの葉を大量に集め、ジャム作り。雑草ってこんなに楽しめる物が多いのかと驚かされます。雑草はただの背景に生えている無名の物体ではなく、それぞれ個性のある生き物だと再認識させられます。
いかんせん雑草一本一本を使えるようにする作業が地道なため、工程だけだと修行を見ているかのようですが、ヘアピンまみれはこう言います。「でもねこれが楽しいんですよ」(参考:ヘアピンまみれ Hairpin Mamireチャンネル「雑草の葉っぱを集めてジャム作ってみた【ギシギシ】【ルバーブジャム】」)。
楽しいからこそ、行動できる。行動力があるからこそ、楽しいものをさらに見つけられる。夏が大好きだと語るヘアピンまみれの外歩きは、視点を変え続けることで「楽しい」を無限に発見し、教えてくれます。
パペットも3Dモデルもフィギュアもオール自作!
なんでも自分で作るヘアピンまみれ。最初の2Dアバターも自作だったのですが、3Dアバターもモデリングを学んでBlenderで作ってしまいました。なので3D化費用0円!
動画を見れば分かりますが、簡単に真似できるものではありません。ものすごく大変です。そこには技術力の高さ以上に、自分で作ることへの執念を感じます。
外での活動や実写撮影が多いヘアピンまみれは、映像内でバーチャルな自身を表現するためにパペットとかぶりものも活用しています。それも自作です。被り物はおめがシスターズリスペクト、パペットはぽんぽこ・ピーナッツくんリスペクトのようです。実際に作るとなると、ものすごい金額がかかるものですが、自作だから材料費以外0円。技術的なクオリティがあまりにも高く、器用さにも驚かされっぱなしなのですが、何よりずっと作っている最中、楽しそうなのが素敵。
ぬいぐるみも自作します。フィギュアも自作中です。絵と工作における技術修練度がいずれも高すぎて、器用さの百貨店状態。
どの動画もダジャレやジョークを挟みながら動画を撮るスタイルなので、見ているとそこまで緊迫感はありません。しかし、一つ一つの作業の集中力は尋常ではありません。動画的に飛ばしている部分の作業量は、想像を超えるものがあります。
クオリティの高い完成品を作るこだわりが強く感じられるヘアピンまみれの動画の数々ですが、作る過程をちゃんと見せてくれているのが高ポイントです。特にフィギュア制作はじっくり腰を据えて、長期間に渡ってちょっとずつパーツを作り、映像化しています。再生リストに軌跡がまとまっているので、ぜひそちらを追いかけてみてください。本当に地道。何でも作れる天才的側面もありつつ、努力の鬼なのがよくわかります。だから見ていて、作業工程の動画がエンタメとして楽しいのです。
世の中の楽しみ方の秘訣を教えてくれる「ヘアピンまみれ」
ヘアピンまみれの好奇心はとどまることを知りません。機械彫刻用標準書体が好きすぎて、47年以上前のパンタグラフ彫刻機を買ってきて修理する動画も撮っています。おそらくほとんどの人が見たことないであろう機械を、想像と推測で直していく様子は冒険心をくすぐります。修理後、実際に彫刻するシーンは、よく見たあれが自分の手でもできた! という感動があります。
どの動画をとっても、本当に楽しそうなヘアピンまみれ。必ず「楽しい」を発見できるという確信をもって動いているようにすら感じられます。ものすごくハードで地道な作業をこなした上で「楽しい」を何度も見つけてきた経験あってこそなのでしょう。
動画自体はいずれもコンパクトにまとまっていて見やすいものばかり。動画内では工程の時間はかいつまんで飛ばされています。しかし、それが途方もない労力のかかるものぞろいなのは一目瞭然です。ちょっとした隙に何時間も何日も飛んでます。そんな時間を忘れて取り組むほど没頭しているヘアピンまみれの姿こそが、見ていて心を刺激してきます。何がそんなに夢中にさせてくれるのかと、こちらの興味もくすぐられます。
絵的にザリガニやセミなど、びっくり人間的な面白さも動画にはあります。しかし、人を驚かせるために突飛で変なことを好んでする、というのではなく、「世の中、面白いことありそうだから、やらずにいられない」というエネルギーのほうが強く感じられます。
子どもの頃の夏休み、外に出てなにか一つ夢中になれるものを見つけたとき、世界がキラキラ輝いて見えたと思います。虫とか、草とか、風とか、音とか、色とか。自分なりに考えて発見したときに世界が一気に広がって見える感覚、覚えているでしょうか。いや、覚えていなくてもいい、ヘアピンまみれの動画を見たら体験できるから!
幼少期のワクワクを覚えている人は、動画を見たら血がたぎってくるはずです。同時に「ここまでは今はできねー!」という感想もこみあげてきます。まるで子どもの頃、一緒に虫取りをしていたお兄さんお姉さんが、自分の何倍も立派な昆虫をたくさん捕まえて、しかも名前や生態にも詳しくて、びびらせてくれたときのような感覚です。
基本的にトークはノリで話しているので、わかりやすいです。しかし、頻繁に使う「たとえ」がクレバー。幅広く博識な人間じゃないと出てこない単語が、しれっと出まくります。そこがまた、頭が良さそうで、できる人間っぽくて、かっこいい。ノリのよさに笑ってしまいつつも、「飄々としているけどすごい先輩を見ている」感覚があり、リスペクトが湧いてしまいます。
セミが秋になって取れないかもしれない件に対して、「私の夏はいいって言うまで終わらないんで」と大胆なことを言うヘアピンまみれ。
この発言自体は、ノリで口から出た言葉かもしれません。しかし、この一言にヘアピンまみれの生き方そのものが詰まっているようにも見えます。
夏休みはいつになっても終わらない。夏のワクワクはいつになっても、むしろ大人になればなるほど続けられるのだと体現し続けてくれるからこそ、ヘアピンまみれからは目が離せないのです。
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