「墓掘り世界選手権」がハンガリーで開催　“墓掘り職人”がスコップ1つで美しさと速さを競う

　土をかき、穴を掘り、また埋め戻す——。そんな“日常的な作業”を競技に変えた「墓掘り世界選手権」。一見ユニークなこの大会には、見過ごされがちな職業への敬意と、想像以上に熱いドラマがありました。

職人の技術を見せる“墓の舞台”、ハンガリー国際墓掘り選手権

　2025年9月6日、ハンガリーで開かれた「国際墓掘り選手権（International Grave Digging Championship）」。今年で8回目を迎えるこの大会は、ハンガリーの墓地運営者・維持管理協会（MTFE）が主催し、2016年から続く伝統あるイベントです。

　新型コロナウイルス感染症のパンデミックで中断された2020年と2021年を除いて毎年開催されており、欧州各国から墓掘り職人たちが集結します。彼らは、スピード、正確さ、そして墓の“美しさ”を競い合うのです。

　指定された墓穴のサイズは、長さ約2メートル、幅80センチ、深さ1.6メートル。掘り出す土の量はおよそ2.5トンにも及びます。2人1組のチームが2時間以内に掘削し、掘った土を再び丁寧に戻して埋葬塚を完成させるというルールです。

　審査の基準は10点満点で、「壁がまっすぐか」「角が崩れていないか」「盛り土の形が整っているか」など、細部まで厳しくチェックされます。

　単に速さを競うのではなく、いかに正確で美しい仕上がりにできるか——。その“職人の技”こそが、この競技の核心なのです。

勝者が語る「日常の積み重ね」が生む強さ

　2025年大会の優勝者は、地元ハンガリー代表のキス・ラースローさんとナジ・ローベルトさんのコンビ。タイムは1時間33分20秒という圧巻の記録で、前年に続く連覇を果たしました。

　2人はインタビューで「特別な練習はしていません。普段の仕事の積み重ねが、そのまま結果に表れました」と語っています。華やかなトレーニングやパフォーマンスではなく、日々の現場で培ったリズムと集中力が勝敗を分けたのです。 

　一方で、最下位となったのはロシア代表チーム。彼らは「猛暑のせいで思うように動けなかった」とコメントし、過酷な環境条件も競技を左右する現実が浮かび上がりました。

　このように、競技の裏には、作業現場のリアルな厳しさがそのまま反映されます。それでも参加者たちは「誇りを持って土を掘る」姿勢を貫いており、その姿に観客からは自然と拍手が送られました。

見えない仕事を“見える”形に——大会が持つ意義

　この大会の主催者であるMTFEは、単なる競技の場を提供しているわけではありません。目的は明確です。

「墓掘り職人という仕事の尊厳を広く知ってもらうこと」

　彼らの仕事は、葬送という人生の最期を支える重要な役割を担っていますが、社会の中ではしばしば見えにくく、注目される機会も少ないのが現実です。

　掘る作業は重労働であるだけでなく、亡くなった人への敬意や遺族への配慮も求められる繊細な仕事。だからこそ、職人たちは技術だけでなく、精神的な強さや丁寧さを重んじています。

　大会では、その一連の動きが観客の目に触れ、「墓を掘る」という仕事が持つ誇りと責任感が可視化されました。

　観客の中には若い世代の姿も多く、「こんな仕事があるとは知らなかった」「自分たちの生活を支える“見えない仕事”を知る良い機会になった」という声も上がっています。大会はエンターテインメントとしてだけでなく、社会的な学びの場としても機能しているのです。

尊厳とユーモアが共存する“土の芸術”

　「墓掘り」というと、暗く重いイメージを抱く人も多いかもしれません。けれど、この大会の現場には笑顔と活気があふれています。チーム同士が互いに声をかけ合い、観客が歓声を送る。まるでスポーツイベントのような熱気です。

　それでも、参加者たちは決して仕事の神聖さを忘れてはいません。彼らにとって、土を掘ることは亡き人への最後の奉仕であり、敬意の表現でもあるのです。

　大会の最後には、主催者がこう語りました。

「この競技はショーではなく、職業への敬意を伝えるためのもの。私たちは、静かな誇りを持って、この仕事を続けていきたい」

　その言葉に、集まった人々は深くうなずきました。

　墓掘り選手権は、ユーモアと敬意が共存する稀有なイベントです。土の中に刻まれるのは、単なる穴ではなく、“人の営み”そのもの。私たちが普段目を向けない場所にも、確かな誇りと技が息づいている——そう気づかせてくれる大会なのです。

参照

• VICE「Inside Hungary’s Grave Digging World Championship Competition」
• DEXERTO「Hungary wins International Grave Digging competition on home soil… literally」