歴史上最も有名な科学者の一人、アルベルト・アインシュタインが所有していたバイオリンが、イギリスで行われたオークションに出品され、86万ポンド(約1億7500万円)で落札されました。
販売手数料を含めると、最終落札価格は100万ポンド(約2億円)に達する見込みです。
アインシュタインが初めて手にしたフルサイズのバイオリン
2025年10月9日、イギリス・グロスターシャー州サウス・サーニーにある競売会社「Dominic Winter Auctioneers(ドミニク・ウィンター・オークショニアーズ)」で、1894年製のドイツ・ツンテレル(Tunzterel)製バイオリンが競売にかけられました。
この楽器は、アインシュタインが初めて所有したフルサイズのバイオリンとされ、裏板には「リーナ(Lina)」という名前が繊細に刻まれています。幼少期から音楽を愛したアインシュタインは、所有するすべてのバイオリンを「リーナ」と呼び、まるで家族のように慈しんでいたそうです。
このバイオリンは標準よりわずかに長く、長年の使用で深みを増した黄金色のニスが特徴。状態は非常に良好で、裏板に刻まれた筆跡は鑑定結果でアインシュタイン本人のものと確認されました。
想定を超える高額落札、約10分で決着
世界中の収集家や音楽史家の注目を集めたこのオークションは、開始から約10分で終了。
Dominic Winter Auctioneersの上級競売人であり歴史的記念品の専門家でもあるクリス・オルベリー氏によると、3人の電話入札者が激しく競り合い、結果として事前見積額30万ポンド(約6000万円)の約3倍、86万ポンド(約1億7500万円)で落札されたとのことです。
さらに、26.4%の販売手数料が加算されるため、最終的な支払総額は100万ポンド(約2億円)を超える見込みです。同社によれば、コンサートバイオリニストの使用歴がなく、かつストラディバリウス製ではないバイオリンとしては、史上最高額になる可能性が高いといいます。
これまでの最高記録は、1912年のタイタニック号沈没時に演奏されていたウォレス・ハートリーのバイオリンで、2013年に90万ポンド(約1億8000万円)で落札されていました。
ナチスの迫害を前に、信頼する友人へ託した「リーナ」
1932年11月、ナチスの迫害を避けてアメリカへの亡命を計画したアインシュタインは、ドイツ・カプトの別荘で、親友であり同僚の物理学者マックス・フォン・ラウエと最後の面会を果たします。その際、アインシュタインはこのバイオリンと自転車、哲学書をラウエに託しました。
約20年後、ラウエはこれらを、アインシュタイン研究を敬愛する知人マルガレーテ・ホムリッヒに贈呈。以来70年にわたりホムリッヒ家が大切に保管してきましたが、今回そのひ孫にあたる人物によって出品され、再び世に姿を現しました。
科学と音楽の調和を信じたアインシュタイン
アインシュタインは生涯を通じて音楽を愛し、「言葉よりも音楽で考える」と語っていました。彼にとって音楽は、科学的思考を豊かにする「精神的な対極」であり、創造力の源泉でもありました。晩年まで毎日バイオリンを弾き続け、「音楽を奏でない人生は私には考えられない」と語ったほどです。
今回のオークションを通じ、彼の音楽への情熱と芸術への理解が改めて注目されました。一世紀以上の時を経て、「リーナ」は科学と芸術の融合を象徴する文化遺産として新たな命を得たのです。
なお、アインシュタインが1933年にアメリカ到着時に贈られた別のバイオリンは、2018年にニューヨークで51万6500ドル(約7600万円)で落札されています。
※価格はすべて記事執筆時点のレート換算です。
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