ねとらぼ
2025/10/28 07:45(公開)

「美容室」が過去最多ペースで倒産 人口減・人材不足・ヘアケア製品の充実……取り巻く現状を考える

 私たちの生活に根差した「美容室」の経営環境が今、かつてないほど厳しさを増しています。

 帝国データバンクの調査によると、2025年1月から8月までに負債1000万円以上・法的整理によって倒産した美容室の件数は157件。これは年間最多だった前年同期139件を上回るペースで、2023年から3年連続で増加し続けています。また、2年連続で年間最多件数を更新する可能性があるとも指摘されています。

出典:株式会社帝国データバンク
出典:帝国データバンク

 いったいなぜ、これほどまでに美容室の倒産が増えているのでしょうか?

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新型コロナウイルス感染症の影響とヘアケア製品の台頭

 経済産業省が2024年3月に発表した「理容業・美容業の今」というレポートによると、理容業・美容業ともに、2020年に第3次産業活動指数(第3次産業の活動状況を表す指数)の大きな低下が見られます。これは新型コロナウイルス感染症による影響と考えられています。

 しかし、2020年以降の指数の推移を見ると、理容業は2021年以降、浮き沈みはあれどコロナ禍以前の水準まで回復したのに対し、美容業はそこまでの回復が見られません。

出典:経済産業省
出典:経済産業省

 この背景として、同レポートでは「美容家電やヘアケア製品による、家庭内ケアの充実」を挙げています。2018~2019年あたりから、1世帯あたりのヘアケア製品の支出額は増加傾向にあります。家電大型専門店の生活家電販売額の推移を見ても、2023年に家事家電や調理家電の販売額が減少する一方、理美容家電は前年から大きく上昇しました。

出典:経済産業省
出典:経済産業省

 人口減少に伴う市場の縮小も一つの要因と考えられています。厚生労働省が取りまとめた「ウィズコロナ、ポストコロナ時代の生産性向上に向けた取組みのヒント 美容業編」によると、総人口は2008年のピーク時に対して、2020年は193万人も減少。美容業の顧客が具体的にどのくらい減少しているかは不明ですが、一定の影響はあるとみられます。

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人材確保の面でも課題。求められる労働環境の改善

 また、人材確保の面でも課題が浮き彫りになっています。たとえば、リクルートの調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」の調査によれば、学校卒業後、初めて就いた仕事が美容師の人のうち、36.7%が3年未満で最初の職場を離れています。その後も美容師を続けた人は55.4%で、半数近くが美容師以外の仕事に就いています。

出典:リクルート

 退職理由として最も多いのは、「給与に対する不満」で27.8%。2位以下は「結婚・妊娠・出産のため」が18.8%、休みの少なさや労働時間の長さなど「拘束時間に関する不満」が15.6%と続きます。帝国データバンクの報告によれば、労働環境への不満からスタッフ離れが加速し、サービスが提供できなくなるケースも見られるとのことです。待遇面での不満が早期離職につながっている実態が見えてきます。

出典:リクルート

 また、先の厚生労働省の資料「ウィズコロナ、ポストコロナ時代の生産性向上に向けた取組みのヒント 美容業編」によれば、「美容師の新規免許登録者数」は2017年度以降、減少傾向にあります。離職に新規の免許登録者の減少も加わり、業界の人材確保はよりいっそう厳しくなっていると考えられます。特に不満の声が多い労働環境の改善は、業界全体で取り組むべき喫緊の課題となっているとみられます。

 さらに近年、インフレの加速や物価上昇、業界内の競争に伴って進む人件費や材料費の高騰も影響していると考えられます。東京商工リサーチの調査によれば、2020年から2022年はいわゆる「ゼロゼロ融資」(実質無利子・無担保融資)などの支援もあり、倒産件数が低水準で推移した一方、経済活動が戻った2023年以降は、材料費や光熱費、家賃などの上昇や人手不足などによって、倒産が加速したとされます。

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「クチコミ」や「特化型」で復調をめざす美容業界

 こうした危機的な現状に、美容業界もさまざまな対策を講じています。

 厚生労働省の調査によると、お店を選ぶときに参考にする情報は「インターネットの店舗検索サイト」がトップ(31.8%)で、次いで「家族や知人等の口コミ・紹介」(31.0%)、「お店の外観や外から見える中の様子」(20.7%)と続きます(いずれも2021年時点のデータ)。

 こうした実態を受けてか、美容室でもSNSの活用などが進んでいます。公式SNSで施術例やサロンの雰囲気、スタッフの人柄などを積極的に発信しているお店も増えています。

 また、特定のニーズに応える「特化型サロン」というスタイルも出てきています。たとえば、シャンプーやカラーなどのサービスを廃し、カットのみに限定することでコストダウンを図るカット専門店などです。競争の激しい総合サロンから脱却し、ヘアカラー、縮毛矯正、髪質改善、薄毛対策など、特定の領域で顧客の悩みに応える専門店も増加しています。

 また、社会貢献活動に取り組む理容師・美容師もいます。たとえば、店舗への来店が困難な高齢者、障がい者、療養中の人々の自宅や施設へ理容師・美容師がおもむく「訪問理美容サービス」があります。主に自治体が契約している理容師や美容師が、自宅などへ訪問してサービスを提供します。単に身だしなみを整えるだけでなく、外出が難しい人々の生活に彩りと心の充足をもたらす福祉サービスで、高齢者人口が増加する今後の社会で必要性が高まると考えられています。

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