ねとらぼ
2025/11/06 20:45(公開)

【あのVTuberに花束を】「楽しい思い出、納棺しようね」 現役の納棺師・特殊清掃員VTuber「やすらぎこふぃん」 “死の現場”を知るからこそのリアルで楽しい配信

 バーチャルなアバターを用いて動画を配信する「VTuber」。今ではすっかり数え切れないほど増えて、町中でも頻繁に見かけるようになりました。

 そんなVTuberの中でも、専門的分野に特化した活動をしている、個性の強いVTuberが増えています。先日は「特化Vまつり2025 秋」という企画が開催され、あらゆるカルチャーについて発信するVTuberが大集合しました。

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ライター:たまごまご

オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。
X:@tamagomago


 今回紹介したいのは、そんな特化VTuberのひとりである「やすらぎこふぃん」。現役で納棺師かつ特殊清掃員を行っているという異例の経歴を持っているVTuberです。彼女は、普段は楽しくゲーム実況配信や雑談配信を行っていますが、たまに自身の実体験を元にした解説配信を行っています。

 死を見続けてきたVTuberが語る「人間の死の現場」の話は、想像だけでは補えないような強烈さがあります。誰もがいつかは接することになる「死」への考え方を刺激してくれる、非常に貴重な話がいっぱい。重たい話には違いないので、苦手な人は閲覧注意な内容もありますが、新しい視点を与えてくれるVTuberとして、今回紹介させていただきます。

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納棺師シスター「やすらぎこふぃん」の楽しい配信の日々

「【IRIAM】デビュー前にボイス公開に挑戦する やすらぎこふぃん です!」より)

 2024年にIRIAMで初配信をはじめたやすらぎこふぃん。故人に最期の手向けのお手伝いをする、納棺師シスターという触れ込みで活動を開始しています。

 2024年4月29日にはYouTubeでのLive2D初配信を行っており、自己紹介も実施。このとき、彼女のデビューのきっかけが既に異彩を放っていました。

(「【#初配信 】はじめまして!納棺師シスターやすらぎこふぃんです!【#新人vtuber 】」より)

「現役納棺師・特殊清掃員 とにかく明るく楽しく生きていきたい」

「終活をきっかけに身辺整理やEDノート、やりたい事を100個まとめた結果、気になっていた配信活動に目覚める」

 最近はXで自分がデビューしたきっかけについてもまとめて投稿していました。

 いわゆるVTuberのバーチャルな生い立ちではなく、現実世界で納棺師であり特殊清掃員として活動している彼女。

 「死」を生活の中で見ている彼女の語りは、極めて明るく、軽快です。アニメやゲームなどのカルチャーについて、優しさと元気さを持ち合わせた魅力的な声で、とても楽しそうにはつらつと語ります。「ウマ娘」や「ブルーアーカイブ」などのゲーム配信は元気いっぱいで、好きなことを存分にやっているのが伝わってくるため、見ていて非常に楽しめます。

 そんな彼女が自身の経験を元に、じっくりと「死」について語るアーカイブは、いつもポジティブな彼女だからこそ、重みのある内容になっています。

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フィクションではない世界の「特殊清掃員」の仕事

(「【#特殊清掃】現役特殊清掃員が現場を解説【#vtuber /やすらぎこふぃん】」より)

 特化Vまつりにあわせて配信された「【#特殊清掃】現役特殊清掃員が現場を解説【#vtuber /やすらぎこふぃん】」のアーカイブが、彼女の活動と配信スタイルを知るにはもってこいだと思うので、最初に紹介します。このときの衣装は特殊清掃員バージョンです。

 特殊清掃員とは、一般的な掃除では処理できない場所の清掃を行う仕事。たとえば孤独死した後に放置されてしまい、体液などが部屋に染み付いてしまった場合、普通の清掃では片付けられません。床まで浸透してしまった状況や虫が大量発生してしまった場合などは、一体どう対処するのかというのは、他のメディアで語られる機会は多くありません。

 この回ではやすらぎこふぃんが、今まで話してきた実体験をまとめながら「ベットの上で自宅死」「ゴミ屋敷の中で」「残された家族」について紹介しています。仕事を請け負う会社によっていろいろなケースがあるそうなので「すべて個人の見解です!」という念押し付き。

 たとえばこの回の場合、話が始まってすぐに「特殊清掃は24時間対応」などのような、経験者じゃないと言えない話が出てきます。現場によって軽度・中度・重度にわかれていて、重度の場合はどのくらい匂いでわかるか、連絡をもらったあとにどういう流れで作業が行われるかなど、具体的に語られています。下水清掃、火災現場清掃、害虫駆除、ペット屋敷、事故現場などなど、孤独死以外の特殊清掃にはどのようなものがあるかについても、どんどん話題が飛び出します。

 本人はサラッと話していますが、実際に見ていないと発言できないような話がバンバン飛び出します。出てくる話題がびっくりさせられるものだらけなので、序盤から目が離せません。

 実際に虫がわいたらどうなるのか、体液が床まで浸透してしまった場合の対処法、風呂場でのヒートショックによる現場などなど、ぼかしはありますが、実際の映像も取り上げられているので、苦手な方はご注意ください。でもこれが、リアルです。起きたことはどうしようもない、やるしかない、という姿勢のもとで、現実でどのように対処してきたかをじっくり語ってくれます。

 やすらぎこふぃんは語っている内容について、できるだけ理解しやすい言葉選びをしています。誇張して嫌な気持ちや好奇心を煽るような語りをしません。起きている現実を、ソフトな言葉を用いながら語ります。

 悲惨な話という印象を特に持たせることなく、事実として飲み込みやすい話し方、プロフェッショナルならではの慣れた語り口をしているのも特徴です。画像的にキツめな部分があるのは事実ですが、おそらく彼女のいい塩梅の話し方を聞いていたら、聞くのがしんどくて仕方ないというふうには、そこまでならないでしょう。むしろ貴重な資料を聞かせてもらっていて、しっかり最後まで聞きたいという感覚になっていくと思います。

 なにせ、起きたことはしょうがない、どうにかするしかない。感情は一旦おいておいて、仕事としてするべきだったことを、ひとつひとつ順を追って語ります。なかにはペットが残されてしまった場合や飼い主のそばで死んでいる状態の話も出てきます。こういう話題は人の心の奥底を揺さぶってしまうのでなかなか感情抜きには語れませんが、彼女はそこで起きた様々な事例について、事実をそのままに語っています。

(「【#特殊清掃】現役特殊清掃員が現場を解説【#vtuber /やすらぎこふぃん】」より)

 後半では、孤独死を見てきたからこそ言える、減らすための努力について語られます。社会問題としてものすごく大きな話題です。深刻に語ろうと思えば、いくらでも語れる話だと思います。しかし彼女は軽快に、あくまでも聞いてくれている人が少し笑顔になりながら、ちょっと心に留めておいてくれたらいいな、くらいの明るさで語っています。決して激しく主張はしていません。聞いている側が「そうなのかー」と興味を持てるような優しい匙加減です。

納棺師としての、優しいお見送りと死化粧

 納棺師として彼女が語る葬儀の話は、フリップが多く丁寧にまとめられているため、こちらも資料的な価値がものすごく高いアーカイブになっています。そもそも納棺師というのはどういう仕事なのか、なにをどういう流れで行うのかなど、一般的にはあまり知られていない話を、かなり詳細に噛み砕いて具体的にまとめています。

 彼女の解説のうまさは言葉の選び方だけでなく、気遣いにもあります。特に納棺は、宗派の問題ややり方の違いなど繊細な事柄なので、そのあたりには踏み込みません。納棺師という仕事が言動にものすごく気を使う立場なのが、ここからも感じられます。

「(接客に関しては)本当に気をつけないとね、人の心を踏みにじる行為になってしまうこともあるので気をつけます」(「【#解説 】本業の納棺師を語る【新人Vtuber / やすらぎこふぃん】」の22分50秒あたり

「【#解説 】本業の納棺師を語る【新人Vtuber / やすらぎこふぃん】」より)

 体の綿詰めや死化粧についての実体験も語られています。遺族の方と話し合いながら行う死化粧のやり方についての話などは、体験がないとまず想像の及ばない話題。たとえば故人が愛用していた化粧を施してあげられたら、遺族はどんな気持ちでお見送りできるか。彼女はそれを実際に遺族と話してやってきたからこそ、死化粧の大切さをこのような配信で語ることができます。

 葬儀の際のトラブルを避けるためでもあり、遺族に対する思いやりでもあり、繊細なプロフェッショナルの仕事ぶりが伝わってきます。このあたりもサラッと語るのがやすらぎこふぃんスタイルではあるのですが、その場でやるとしたら相当慣れていないと、困惑することが多そうな話題だらけ。葬儀のスタイルにもよるのであくまでも個人の見解で、と語っていますが、その思慮と見解の深さには驚かされるばかりです。

(「【#解説 】本業の納棺師を語る【新人Vtuber / やすらぎこふぃん】」より)

 この配信では、納棺師バージョンの衣装での配信が行われています。しかも死化粧ができるバージョンのポーズまで準備されています。ものすごく真面目で繊細なトーク配信ですが、VTuberエンターテインメントとしての配信のひとつであるという軸から一切ぶれていないのも、彼女の配信の見やすいところです。

(「【#特殊清掃】現役特殊清掃員が現場を解説【#vtuber /やすらぎこふぃん】」より)

 普段の彼女の配信には何種類かのオープニング映像があるのですが、そのひとつとして死化粧をするシーンのアニメーションも用意されています。悲しいシーンとしてではなく、最期を美しく彩るとても大事な、温かい仕事のワンシーンとして描かれています。これが配信オープニングになっているのは、彼女の前向きなキャラクター性を表現しているだけでなく、自身の配信時間は楽しい時間づくりをするためのもの、よい思い出づくりのためのものだという配慮をも感じさせてくれます。

死を考えることで向き合う、ポジティブな終活

 終活ガイド1級(一般社団法人終活協議会が運営する「あらゆる終活に関する相談を解決できるスペシャリスト」としての資格)を取得している彼女は、遺書についての解説配信も行っています。

 「遺言書」と「遺書」の違いからはじまり、法的効力のある「遺言書」についての重要なポイントを解説してくれます。遺言書の話はかなり複雑な部分も多く、知らないとトラブルになりかねない話題も多いので、一見の価値ありです。やすらぎこふぃんの配信で興味を持って、そこからさらにじっくり調べたくなる、という入り口としてうまく作られています。

(「【#終活 】プチ解説しながら遺書を書くよ!【#新人Vtuber 】【やすらぎこふぃん 】」より)

 中盤からは法的効力のない「遺書」を実際に書く配信を行っています。遺書を書く、というのはなかなか抵抗感が大きな部分もあるかもしれませんが、やすらぎこふぃんは笑いながら、でも真摯に筆を進めています。

 家族への感謝や自分の仕事の振り返りを軽快に書きながら、スマホパスワードについて、処理してほしいものについて、葬儀についてポイントをおさえながらまとめています。簡潔な手紙ではありますが、これがあったら家族はどれだけ心理的にも作業的にも助かることか!

 自分の死を考えることは、ネガティブな感情ではなく、自身を振り返る前向きな営みであることが、彼女のトークからわかります。好きなものや明るい話題は、死んだときにどう振り返るかを考えたら、よりプラスのものとしてじっくり噛み締められます。彼女が書いた「10月に忍たまのほわぬい(伊作&土井先生)は仏壇に並べて下さい(右並び)」という一文の、ちょっと楽しそうな感じ。見ていて自分も“ちょっと書いてみたい”と感じられるのが、彼女の終活配信の持つ核になる部分なのかもしれません。

経験者じゃないと語れないゲーム実況の死の現場

 納棺師・特殊清掃員としての実績があるからこそできる、興味深いゲーム実況配信も行われています。特にドンピシャなのは「CrimeSceneCleaners|特殊清掃」という、その名もズバリの特殊清掃をするゲームの実況配信でしょう。ゲームはもちろんフィクション。ホラー感が強めですが、実際の現場はどうなのかを写真なども用いながら比較解説しています。

 特殊清掃で一番お金がかかる現場はどのような場所なのか、虫の駆除と現場の清掃はどっちが先か、防護服を貫通して臭いはつくか、などの話を聞くと、怖さよりも「大変な作業現場でのプロの仕事」という視点が入るため、ゲームの見え方がガラッと変わってきます。

 ハードな現場を見続けているがゆえに、ホラー耐性マックスなのも、やすらぎこふぃんのゲーム実況のユニークなところ。ゲームでは表現しきれない壮絶な話題がたっぷり、日常のこととして語られています。

 「日本事故物件監視協会 -Japan Stigmatized Property-」の配信では、特殊清掃作業の際の現場写真を自身のカメラで収めている話なども出てきます。これは特殊清掃の際にビフォーアフターの写真を撮らないといけないからだそう。「友達とごはん食べにいってさ、イエーイってしてる写真の次に体液だらけの現場の写真がいっぱい大量に残ってるとかあるから」(「【 #JSP日本事故物件監視協会 】現役特殊清掃員が現場を語りながら探索するよー!【#vtuber /やすらぎこふぃん】」の1時間10秒あたり)。

 その他にも現場ならではの厄介トラブルの話もポロポロ飛び出すので、ゲームの実況が面白くかつ、比較された現実の話も面白い、という二段構えの楽しみ方ができるのも、やすらぎこふぃんならではです。

VTuberの姿で楽しい語りだからできる、死への向き合い方

 それぞれの配信に書かれているやすらぎこふぃんの概要欄には、彼女の考えを感じるポイントが詰まっています。

「皆様にやすらぎをおくりびと~!楽しい思い出 納棺しようね🌼」(「【 SILENTHILLf 】ホラー耐性最強なので多分怖くない…はず!【#vtuber /やすらぎこふぃん 】※ネタバレを含みます 」より)

 VTuberの配信は、エンターテインメント。楽しい思い出を作るために見るもの、という姿勢がしっかり保たれています。死ぬときの棺の中にたくさんの「楽しかったね」を増やすために、やすらぎこふぃんの配信をフルに楽しもう! ……なんて見方ができたら、どんなに幸せなことでしょう。そんなVTuber配信の楽しみ方、意識的にしないとなかなかできません。

「現役納棺師と特殊清掃を勤めているシスターです!日々死に触れているからこそ、1日1日を大切に、明るく楽しい配信をお届けします!」(「【#初配信 】はじめまして!納棺師シスターやすらぎこふぃんです!【#新人vtuber 】」より)

 彼女はこの意識を初回配信からしっかり持って、語っています。

(「【#初配信 】はじめまして!納棺師シスターやすらぎこふぃんです!【#新人vtuber 】」より)

 「生き様は死に様に出るの(自論)」と、さらっと語る彼女。なるべく重く語らないようにしつつ、でも事実は事実として見据える。そうであるならば、どう向き合う姿勢を持つかが大事になります。最高の死に様のために、最高の生き様を見せ続けようとするエンターテイナーとしての彼女を見ていると、こちらも楽しむ秘訣のようなものが発見できそうになります。

 無理なく人との交流を増やしたり、福祉と連携をとって人との縁をつないでみようとするきっかけになりたい、と彼女は語りました。もし彼女の配信を見ていたなら、ふとしたときに思い出し、ちょっと縁をつないでおいてみようと感じる視聴者が生まれるかもしれない。この可能性によるプラス効果を彼女は忘れず、今も貫いています。

 その点で、やすらぎこふぃんがVTuberであるというのは、大きな意味があるように感じられます。リアルな話がどんどん飛び出す彼女のトークですが、かわいらしく温かみのあるアバターをまとって話すことで、ちょうどいい具合のクッションができています。

 見ていてドキッとする話は多いものの、変に不安に煽られることもなく、いたずらに恐怖心を抱かせることもなく、威圧感もない。納棺師シスターというキャラクターであることによって、視聴者にそっと寄り添いながら、笑い話も交えながら、気軽に聞けるよう、うまく調整されています。VTuberの接しやすさがフルに生かされている発信方法です。

 また、話している内容に関して常に慎重で、強すぎる断言をほとんどしません。

 概要欄で「※納棺や特殊清掃の話は、あくまで私の実体験で学んだ知識をお伝えしています。お医者様や葬儀屋様ではないので、誤った情報があった際はDMでこっそり教えてくださると幸いです。また現場内容は一部フェイクを交えてお伝えする場合もあります。ご了承ください」と慎重なのは、彼女がプロフェッショナルだからこそ。彼女自身からエンターテイナーとしての活動の信念は感じられるものの、それを強要はしていません。仕事の話のきつい部分を、知るべきことだと押し付けることもしません。

 それでも彼女は話術で話を盛り上げるのがとても巧みなため、最後まで聞きたいと感じさせる柔らかさと知識の興味深さ、人生観を変える重みがあります。

 「天寿を全うして亡くなる方もいれば、自死される方、事故で亡くなる方もいらっしゃるから、いつ死んでもおかしくないなと思ったのもあって」という考えから、エンディングノートを書いたり、身辺整理をしたりしていたという、やすらぎこふぃん。その中で見つけた、配信をしたいという思い。彼女自身が配信をとても楽しんでいるのが、彼女の考えの一番の現れのように感じます。

 だから彼女も言います。「気軽に手軽にVTuberデビューしてほしい。みんながVになったら見たいと思ってる」(「【#雑談】納棺やご遺体の話多めの雑談!【#vtuber /やすらぎこふぃん】」の1時間1分30秒あたり)。「死」を考える彼女の配信は、やりたいことを達成するだけでなく、増やしていくエネルギーがあり、その力を他の人にも伝染させるだけの活力に満ちあふれています。

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