VTuberがいろいろなグッズやコラボ商品などを販売している昨今ですが、あるVTuberが6.3トンもの新米を自作して販売し話題になりました。そして、一週間で完売しました。あまりにもはやすぎる!
ライター:たまごまご

オタク・サブカル・VTuber系ライター。MoguLive、コンプティーク、PASH!、ねとらぼ、QJwebなどで書いています。女の子が殴りあうゲームが好きです。
X:@tamagomago
販売したのは夫婦のVTuberユニットPeaky Hikers(ピーキーハイカーズ、通称ピキハイ)。
ちょっとだけ作ってみた、なんてノリじゃありません。生産量がガチすぎます。「日本人1人あたりの米の年間消費量に換算して124年分」という表現を見ると、その量がいかに多いかよくわかります。
Xの投稿によると「群馬県の平均作付け面積が1ha。1haあたりの平均収穫量が5.4t。つまり、6.3tって、群馬県の1経営母体の収穫量を超える量となります」とのこと。
ピキハイが作って販売した品種は「あさひの夢」と「コシヒカリ」。流石に量が多いので「1年間で売り切れるかどうか不安でした」という目算だったようですが、話題はネットを通じてあれよあれよと広がり、あっという間に完売しました。
ピキハイは今まで、2人でやってきた農業の活動、生産の様子をエンタメ動画としてまとめて発信してきました。
プレスリリースでは2人の活動について「この取り組みは『お米離れ』と『農業の担い手不足』という社会課題に対して、デジタル発信を通じて農業を身近にする挑戦です」と書かれています。実際、ピキハイが作った動画で稲作のリアルに触れたファンは多く、農業動画シリーズはアップされるたびに話題になっています。
ピキハイは「群馬 × 農業 × 演劇」の三本柱を中心に、あらゆる挑戦を繰り広げているVTuber夫婦。今回はその中から「農業」をどのように見せてきたのかと、「群馬」をどのようにアピールしてきたのかを軸に、2人の独自なスタイルの活動を紹介します。今までの活動の数々を見れば、お米をがここまで話題になって売れたのは、一過性のネタではないのがわかるはずです。
「米農家」の仕事、全部見せる
ピキハイはメイローとアルピナによる夫婦ユニット。「クーア」というお子さんを育てながらのチャンネル経営です。家族、特に夫婦の姿を見せるスタイルは、VTuberの活動形態としてはものすごく珍しいです。
農業を行っているのは、主にアルピナのほう。両親とお米を育てており、苗からスタートして手入れの様子から収穫まで、こまめに動画化してまとめています。昨年もお米作りを動画化しており、一部販売もしていたのですが、本格的に農業を映像コンテンツとしてまとめ、大々的な量を販売するようになったのは今年からです。
ガチの農家の仕事が、見やすい長さの動画としてこまめにアップされています。まずは苗箱を並べるところからスタート。お米作り自体の漠然とした知識は、日本人ならなんとなく分かる部分もあるかもしれませんが、「苗箱ってなに?」などのような農家側の当たり前、そうでない人から見ると触れる機会の少ない部分が、農家視点でしっかり撮影されています。アルピナの父が作った「寒冷紗から草外し器」のようなちょっとした工夫の映像も、農業そのものを楽しんでいるアットホーム感があってほっこりさせられます。
米農家が行う作業の基本的な部分はおさえつつ、細かい工夫をエンタメ性豊かに見せてくれているのがピキハイ動画の面白いところ。ピキハイは実写作業プラス、バーチャルの姿をリアルに投影するXR技術を用いて披露してくれます。

田植えモコピのシーンでは、VTuberがアバターの姿で農作業をするユニークな映像を再現。田植え機に座って作業するVTuberの姿は、ほかではまず見られないかもしれません。「本人が農作業をしている」というのを強く感じさせてくれるワンシーンです。
モコピ=mocopiとは、体に装着することでアバターに動きを反映するためのVR機器。農作業でmocopiをつけたアルピナがアバターで動きをトラッキングし、実写映像にミックスさせています。
農業は地道な作業の積み重ねです。たとえば雑草取りの動画。技術自体はそんなに難しくはないのですが、いかんせん田んぼが広すぎる! 映像を見ているだけで気が遠くなります。
農家出身のアルピナに習いながら、他の動画作りや経営などをしている夫のメイローがここでは初心者として田んぼの除草を体験。愕然とし続ける彼の感想に共感を覚えてしまいます。

昔の人はどうやっていたんだろうと思いを馳せつつ、自身の体力消費を実感して愕然とするメイロー。「いやマジ農業すげえ」という、シンプルすぎるけれども、それ以上の的確な言葉が出てこない彼の感想に頷いてしまいます。こうやって苦労をする様子を見てしまうと、そこで作られた農作物には否が応にも興味が湧くというものです。
そしてついに収穫! 半年を経て、たわわに実った稲穂の姿は、今までの動画を見てきた人からしたら愛おしさすら感じると思います。アルピナの「風が甘い匂いするんだよね」という感想からは、群馬県で生き、群馬県でお米を育ててきた農家の人の深い愛が感じられます。

コンバインでの収穫の様子も、田んぼモコピで動きをトレース。実際に運転して収穫するVTuberアルピナの姿が見られます。
最後はもちろん、実食。動画には自身で育てたお米を食べるときの、万感の喜びがあふれています。
農業映像はどの回を取っても、学校の授業などですぐ使えるクオリティのものばかり。農業の流れすべてを網羅しているというわけではないのですが、いかにお米のために努力を重ねているのか、興味をそそるパートだらけです。
ピキハイのチャンネルは農業オンリーではありません。普段から農業以外のことも動画にし、身近に感じるようなエンターテインメントをしています。そんな2人が「農業」のリアルを見せてくれるからこそ身近さが感じられるというのも、2人の活動スタイルの大きなポイントです。

正直、VTuberの「グッズ」としてならば、この「ピキハイ米」は多少高くても、ブランドということで問題なく売れたかもしれません。しかしピキハイの2人には徹底したこだわりがありました。
「普通に買いたいと思えるお値段にしてみました」「ピキハイのことを知って欲しいから」「美味しいって思ってもらいたいから!!」

ピキハイの米作りと農業紹介動画には、映像的にユニークな部分を見せるエンタメ要素がしっかりあります。同時に農業に対するリスペクト、米に対する愛情がそれを上回るほどに、凄まじく高いです。美味しいお米を作ったから食べてもらいたい、そしてそれを作ったピキハイを知ってもらいたい、という信念があるからこその、お手頃な価格設定でした。
VTuberおめがシスターズのおめがリオや津軽ねぷこなどが早速、ピキハイ米の感想をXで投稿しています。購入者への発送は現在絶賛作業中とのこと。おめがリオから「くそうま」と最高の褒め言葉をもらっているピキハイ米。到着を待ち焦がれる購入者の声がSNSでもちらほら見られます。
沖縄で活動するVTuber根間ういもピキハイ米購入者のひとり。どうしても離島は送料が高く付きがちですが「送料一律(沖縄含む)なのも神だった!!!!!!!!!!!!」と歓喜の声をあげていました。
稲作以外の農業も実践しているのがピキハイ。食べるものを育てて作る、という農業の基本を身近なものとして映像にして記録し、見せてくれます。視聴者に「自分でも作ってみたい」と感じるだけの魅力ある映像が「農業シリーズ」の再生リストにまとまっているので、ぜひチェックしてみてください。
群馬県民が撮るからこそ映える「群馬」の魅力
ピキハイの活動の三本柱の一つが「群馬」の紹介動画です。郷土に根ざして活動を続けながら、群馬の魅力を応援し続けるVTuberとして、地元を撮影した動画をたくさんアップしています。
特にメイローがどんどん外に出てリアルを撮影するスタイルを取っているため、有名観光地から知る人ぞ知る穴場まで、地元の人じゃなければ撮れないような動画をバンバン公開しているのは、ピキハイチャンネルの見どころのひとつです。
たとえば、138年も続いている日本最古の洋式牧場である神津牧場。いろいろなアクティビティがあるそうで、ピキハイ一家はプライベートでよく遊びに来ているとのこと。その中でも特別な「はなまつり」が行われたということで取材し、Vlogを撮ってまとめていました。

ピキハイ夫妻と子どものクーア、3人で乳搾りをする、癒やしの休日。ここでもしっかりとアルピナが乳搾りをVR機器を使ってトラッキング撮影し、バーチャル身体での動き再現を見せてくれているのは、ピキハイならでは。群馬のリアルに迫りつつ、VTuberとしての面白さも表現する、という見せ方には強いこだわりを感じます。
温泉や廃線ウォーキングなど、めちゃくちゃ有名な観光地、というわけではないけれども、旅行好きが見たら垂涎ものの群馬の光景がたくさん映像に収められています。ピキハイが歩いて撮影した道を同じように辿るだけで、群馬の新しい魅力をたくさん発見できそうです。
アニメの聖地巡礼で盛り上がっている「前橋ウィッチーズ」の巡礼も、VTuberの諸星めぐるとゾンビ先生を招いて実施しています。群馬側ホストとして迎えるピキハイがいかに盛り上げ上手なのかがわかる一本であると同時に、前橋市が丁寧に聖地巡礼コンテンツを育てているのもわかる、資料的な映像になっています。

YouTubeでご当地の良さを伝える手段は多数ありますが、地元の人が見ているよい光景を、地元の人の目線で撮影し、そのよさを地道に記録に残すことが一番の宣伝であることは間違いありません。現地の人が自分の足で歩いて撮影した映像は、100の言葉で語っても語り尽くせないような、本質的な良さを伝える力があります。ピキハイはYouTubeのエンタメ性を追求しながらも、一番重要な「地元のよさを映す」ことに対しては、軸がぶれていません。
稲作で名前が知られるようになったピキハイは、自分たちで使う農具を、地元の群馬県安中市の山崎製作所で作る動画も撮っています。地元で道具を作り、地元で田畑を耕し、地元のものを食べて、地元でエンタメする。群馬で生きる人の生身を、バーチャルな見せ方で興味関心を引き、隅々まで見せてくれます。
演劇家としてのPeaky Hikers
もうひとつのピキハイの柱である「演劇」についても、かなりユニークな取り組みを行っています。
2025年11月8日(土)、東京のライブハウス「神楽坂天窓」にて「PeakyHikers presents公演【クロスシアター】Real-Virtual Limit Vol.0」という演劇イベントが開催されました。
今までもzoom演劇、動画演劇、配信演劇、VR演劇、即興演劇などを行ってきたピキハイですが、このときは、俳優は劇場内の幕の中に入って、舞台の上にはVTuberが登場するという形での出演です。
「VTuberと演劇って親和性があるようで全然ないんですよね。だから演劇の楽しさを広めるために、VTuberっていうコンテンツを使えるんじゃないかなっていうふうに思っていました」
「お客さんと舞台があれば、それは演劇です」
(「【ピキハイ】Vtuberは舞台に立てるのか」より)
あえてVTuberで演劇をやる。VTuberの姿だからこそできる演劇がある。「正直そんなに特別なことだと思ってないんですよね、生身の身体や表情がないからってできないというふうには思っていません」と語るメイローの言葉は、VTuberの可能性、演劇の可能性を広げる漸進的な思想を感じさせます。
体当たりでなんでもやっちゃう! ピキハイの飽くなき挑戦
「群馬 × 農業 × 演劇」と大きな三本柱で活動しているピキハイですが、2人のVTuberエンタメへの追求はそれだけにとどまりません。中でも異質だったのは「VTuberロボ」づくりの動画です。
VTuberとファンの、リアルなイベントでの交流は夢のひとつ。ピキハイはそれを超DIYな形で成し遂げました。
ビニールシートに包まれた移動式小部屋にアルピナの魂がイン。大型ディスプレイが前面に貼り出されており、そこにアルピナのアバターが投影されてきちんと動く……「限りなく生で会えるVTuberロボット(人力)」として、ファンと触れ合うことに成功しました。

VTuberとはどのような存在を指すのか……という定義的なものは、人によって受け止め方が大きく異なると思いますが、少なくとも「アバターを介して動くバーチャル存在と触れ合う」という意味で考えるならば、このVTuberロボとの交流はひとつの「解」かもしれません。
何よりこの手作り感満載な絵面が、YouTube企画として面白い。アルピナがこの装置を動かすために中に入って台を押しているのですが、アルピナのアバターもずりずりと押すポーズになってディスプレイに映し出されるのがじわじわきます。そしてアルピナのアバターと、リアルのファンがハイタッチするシーンの楽しそうなこと! 「バーチャル存在と現実の人間が触れ合う距離感」に彼らはひとつ、挑みました。
面白いことを思いついたら、手作りで作り、体当たりで挑戦し、実行してしまう。そのフットワークがとてつもなく軽いのが、ピキハイの強みでしょう。
ピキハイのエンタメは、見る人を選びません。子供が見ても楽しめるような農業紹介、日本の自然を感じる群馬観光動画、ちょっとした時間に見られるネタ動画などなど、多岐にわたっています。「名古屋のVTuberに『今から会お~』と言って会ってもらえるまで帰れません」というような、配信者らしい体当たり企画なども、ガンガン実施しています。
また嬬恋高原ブルワリーとのコラボではピキハイビールを制作。こちらも実際にビール造りに協力したことで「米、麦を作るVTuber ついにビールを作ることに成功!」と胸を張って宣言。販売もしています。

夫婦で運営しているがゆえに、メイロー・アルピナのお互いがガンガンツッコミあえる関係も見ていて気持ちがいいです。お互い容赦なくキツめのことも言い合う漫才のようなノリも、このチャンネルならでは。
2人のコンテンツは、群馬や農業をリアルに見せてくれます。同時にその根底にあるのは、自分たちが面白いと思うもの、大切にしているものに対する姿勢を生き様として見せて楽しませる、生活感あふれるエンタメ性です。2人の見せる自分たちの生活と表現のスタイルは、もしかしたら夫婦VTuberであるがゆえに、現在多く見られる一般的な「VTuber」のイメージとちょっと異なるかもしれません。だからこそ、2人の生活感強めな動画の数々は、一度ハマると抜け出せなくなるような、長く追ってしまいたくなる魅力があります。




