ご無沙汰しております、しんざきです。

 しばらく姿を見せずに何をやっていたかというと、ずっとゴーストトリックとアーシオンとイーアルカンフーをやっていました。イーアルカンフーはファミコン版で、30年くらい前から欠かさず週一ペースで遊んでるんですが、最近は目隠し5面クリアチャレンジをしておりまして、達成できたら動画でも録りたいと思っています。楽しいですよね、イーアルカンフー。

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ライター:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ、三児の父。ダライアス外伝をこよなく愛する横シューターであり、今でも度々鯨ルートに挑んではシャコのばらまき弾にブチ切れている。好きなイーアルカンフーの敵キャラはタオ。
X:@shinzaki


 で、何故今ゴーストトリックなのかというと、先日知人と「記憶を消して遊び直したいゲーム」について議論したことが発端です。世の中「面白い」ゲームはたくさんありますが、やはり「初めて遊んだ時の衝撃」というものにはそのレベルに高低がありまして、まっさらな状態で遊んだ時の感覚を味わいたいゲームって色々あるよね、という話です。

 「記憶を消して遊び直したいゲーム」というテーマは、ちょくちょくWebでも話題に上がりますが、しんざきの中では「十三機兵防衛圏」「ヘラクレスの栄光3」「Outer Wilds」「OneShot」辺りが上位常連になっています。

 皆さんにとっての、「記憶を消して遊び直したいゲーム」のトップ5は何でしょうか?

 「ゴーストトリック」も当然、私の中でのランキング上位なのですが、幸いなことにしんざきは記憶力が非常に悪いので、「しばらく遊んでいなかった今なら、新鮮な気持ちで楽しみ直せるのでは?」と思いつきました。DS版しか持っていなかったので、Switchでリマスター版を買い直しました。

 で、久々にゴーストトリックを遊んだら、最高に面白すぎて軽く感情が暴走したので、今回改めて、ゴーストトリックの魅力を語る記事を書かせていただくことになりました。あんまり時宜を得た記事ではないですが、DS版発売15周年、リマスター版発売2周年ということでご容赦ください。

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ゴーストトリックは何故面白いのか

 「ゴーストトリック」は2010年にニンテンドーDSで発売された、カプコンのアドベンチャーゲームです。「逆転裁判」を手がけたゲームクリエイター、巧舟(たくみしゅう)さんがディレクターを務めたことでも有名です。2023年にリマスター版が出て、今ではSwitchやPS4、Steamなどでも遊ぶことができます。

CAPCOM「ゴースト トリック」公式Webサイト
https://www.capcom-games.com/ghosttrick/ja-jp/

 ゲーム開始時点で主人公が死んでいるという、「死から始まる一夜のミステリー」。記憶を失った状態で、タマシイとなって目覚めた主人公の「シセル」は、物に「トリツク」力と、トリツいたものを「アヤツル」力という二つの「死者の力」を駆使して、自分が何者なのか、また自分は何故殺されたのかを探るために奔走することになります。

 私が考える「ゴーストトリック」の魅力は、大体以下のような言葉で表現できます。

  • 「この場面では何が達成されればいいのか」「それはどうすれば達成できるのか」を考えさせる、手探りと手遊びの面白さ
  • 単純に画面で色んなことがわちゃわちゃ起きていて、触っているだけで楽しい
  • 少しずつ「プレイヤーの見える範囲」が増えていく、ゲーム上の視界コントロールの巧みさ
  • 主人公のシセルが、クールで皮肉屋なようで実は言動も行動も熱く、ただただかっこよくて大変好き
  • ヒロインのリンネやその周辺のキャラが全員かわいい(あとサブキャラも大半が好き)
  • 一生聴いていられる、飽きのこないBGM
  • ミサイル

 以上です。

 この記事は、上記のような魅力についてご説明しつつ、「まだゴーストトリックを遊んだことがない」というアドバンテージをお持ちの方に、その爆アドを是非活かしていただきたく、うっかりリマスター版をポチっていただけないものかという目論見の元に書かれた記事です。

 大きなネタバレは避けるつもりですが、どうしてもシナリオやキャラクターに触れてしまう部分は多少ありますので、ネタバレを気にされる未プレイの方は、是非リマスター版をポチって三周くらい遊んでからお読みください。損はさせません。

 ということで、ゲームの魅力の話をしてみましょう。

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手探りと手遊び感覚で目的を考え、達成していく面白さ

 まず、ゴーストトリックの最大の魅力って、何よりここだと思うんですよね。基本となるアドベンチャーゲーム部分、それ自体が面白い。

 このゲーム、基本的にはサイドビューの場面を見ながら、画面のあちこちにある様々な物の「コア」に「トリツク」で移動して、更に「アヤツル」を使って状況を変化させて、場面場面での状況解決を目指していく、という形で進みます。

 この時、「トリツク」距離に制限があるという設定が、ゲーム的にも物語的にもまず絶妙でして、画面上を移動するにはコアからコアへと飛び移っていかないといけないため、コアがない場所には移動できないし、遠いコアには届かない。コアはいわば、シセルが移動するための「足場」であると同時に、プレイヤーの移動範囲を制限する枷にもなるわけです。

 一方、「アヤツル」の効果はトリツいた物によって変わり、例えばライトにトリツクと点灯させることができたり、冷蔵庫にトリツクと扉を開いてコアの位置をずらすことができたりします。タイヤを転がしたりはできますが、自由に物を飛び回らせたりはできないわけです。

 このゲームでは、多くの場面で、最初に「そのシーンで何が起こったか(例えばヒロインがいきなり撃たれてるとか)」を見せられて、その4分前に戻って過去を改変しようとする、という建て付けで進むわけですが、この「アヤツル」によって何を動かせば状況を改善できるのか、やたら考えさせられる作りになっているんですね。

 ヒロインを救うためには、狙撃の場面まで行かないといけない。そのために何をすればいいか? 今のままだと遠くのコアには届かない。落ちているものを動かして、なんとか足場を作れないか?

 たどり着いたとして、どうやったら狙撃を阻止できるのか? ただライトをつけて驚かしただけでは、どうせすぐまた撃たれてしまう。なんとか、狙撃自体をやめさせる方法はないか?

 時には、「大きな目的は見えているものの、そのために何をすればいいかさっぱりわからない」というようなシーンもあります。「何を達成したら状況が改善するのか」を、試行錯誤しながら考えないといけない。

 「トリツク」対象はいつもいつもじっとしているわけではなく、時間経過によって画面の状況は刻一刻と変わっていきます。時には動いている対象にタイミングを計って「トリツク」必要がありますし、「棚の扉を開いてボールを弾いて、その弾かれたボールに素早くトリツク」みたいなアクション性が求められる場面もあるわけです。

 この結果、プレイヤーは、色んなものに取りついて、「アヤツル」ことで何が起きるかを確認しながら、「目的達成のためには、どのタイミングでなんにトリツいて、何をアヤツればいいのか?」を、試しては戻り試しては戻り、いわばPDCAを回しながらひたすら考えることになるわけです。

 色んなものをアヤツって「お、これを動かすと画面がこうなるのか」と、まるでピタゴラスイッチのような状況の変化を観測すること自体楽しいのですが、更に「これとこれを動かすと、状況はこうなる筈」と考えて、その通り上手くいった時の快感。ピタっと予想通りに動いた時には、脳汁出るくらい気持ちよくなれます。

 「真剣に考えさせてくれるゲーム」はそれだけで大抵面白いですが、パズル要素とアクション要素が絶妙に噛み合ったゴーストトリックは、その点「極めて良質」と言っていいでしょう。章によってはそこそこ難易度高いんですが、とはいえ途中でヒントも出るし、何度でもやり直すことができるので、初心者の方でも詰まることはないと思います。

 また、「アヤツル」によって発生する動作自体、やたらアニメーションがキレッキレなので、ただ色んな物をいじくってるだけでも面白い、という側面もあります。シセルが「扉を見ると、取り敢えず何かを吹っ飛ばしたくなる」みたいなことを言うシーンがあるんですが、大変同感としかいいようがないわけです。

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少しずつプレイヤーに「見えてくるもの」が変わっていく、視界コントロールの巧みさ

 一方これはシナリオの話なのですが、プレイヤーにとっての「見える範囲」の調整具合、という要素も重要です。

 アドベンチャーゲームの一番のキモは、「情報開示の調整具合」だと思っています。物語の、あるいは謎解きの、どこまでを見せてどこからは見せないか。隠された事実、シナリオの核心を、どの時点でどうプレイヤーに開示するか。時には、最初から色んなことが開示されているんだけど、当初はその意味がわからず、あとから「そういうことだったのか!」という納得感に襲撃される、なんて場合もあります。

 「ゴーストトリック」はその点どうなのか、というと、ひとことで言うと「マジで良質」です。

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 例えば、シセルの「死者の力」の中には「電話線を伝って移動する」という能力もあり、これを使ってシセルは色んな場所に移動できます。電話がかかってくると、その電話の先に移動できる。これ、物語の序盤から、結構あちこちに行けるようになるんですよ。

 ただ、「死者は、死んだ当初記憶を失っている」という設定のため、シセルも記憶を失っており、プレイヤーもシセルの視点を共有しています。結果、「色んな場面や会話を目撃するんだけど、その意味、そこで何が起きているかが、その時点ではさっぱりわからない」という状況が、色んな場所で発生するわけです。

 これが少しずつ、「あ、あのとき見たことってそういう意味だったのか!」と、まるで霧が晴れていくように視界が広がっていく。その、いわば「納得感の強い驚愕」とでもいうような感覚が、これまたものすごく気持ちいいんですよね。同じ巧舟さんの「逆転裁判」でも卓越していた要素ですが、「ゴーストトリック」では更にそれが際立っていると思います。

 色んなキャラクターとの会話だけでなく、場面の描写、ステージに置かれている物、ステージの仕掛けに至るまで、全てに「情報」が散らばっていて、あちこち調べれば調べるほど、「これはなんなんだ?」「あ、そういうことだったのか!」が、どんどんプレイヤーの前に開けていきます。

 これは特に、「一度クリアしてからもう一度プレイする」ことで最大化する傾向がありまして、周回プレイがここまで楽しいAVGもそうざらにはないと思います。是非、何度もプレイして「そういうことだったのか!」を楽しんでいただきたいと思う次第なのです。

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キャラクターたちがとにかく魅力的、あとBGMが超良い

 ここからは若干ながらネタバレが混じってしまうのでご注意いただきたいんですが。

 ゴーストトリック、とにかくもう「キャラクターの描かれ方」があまりに良すぎて、各キャラに対する思い入れや好感度がバカ高い状態になっているわけです。メインキャラ全員好きだし、サブキャラも大体好き。

 何しろゲームの主要な部分が「起こってしまった事件を改変する」という構造上、シナリオ的には結構重たい展開にもなるのですが、それぞれのキャラクターがみんな陽性の真剣さとユーモアに溢れているということもあり、プレイヤーが遠慮なくシリアスな状況を楽しめるんですよね。

 まず何よりも、主人公でありプレイヤーの分身でもあるシセルがとにかく魅力的。

 どんな場面でもクールで、時には皮肉っぽく、基本的には自分の目的に忠実なのに、人を助ける時は一切躊躇せず、しかも絶対に諦めない。シセルの発言って本当に不快な部分が一切なくて、「シセルが非常に感情移入しやすいキャラクターである」ということ自体、本作の面白さを一段上げる重要な要素になっていると思うんですよね。

 彼の「今夜、私の目の前で誰も死なせるつもりはない」というひとことは、作中最高級の名台詞でもあると思います。あと、ちょこちょこぼやきっぽいレトリックが会話に混ざるところも好き。

 そして、今作のヒロイン枠であるリンネ。彼女もいい味を出しまくっています。

 シセルと同じく「謎を追い求める」キャラの一人であり、どんな場面でもへこたれずポジティブ、ただし妙なところで抜けている。このゲーム、冒頭が「リンネが死ぬ過去を改変する」という場面から始まるという点もあり、危機に陥る頻度で言うと作中でも群を抜いています。しまいには危機に慣れ過ぎて、「死んじゃった!」と満面の笑顔で発言する系ヒロイン、数あるAVGでもかなり独自の立ち位置だと思います。食いしん坊なところも個人的にポイント高い。

 リンネとシセルの夫婦漫才的な掛け合い、読んでるだけでもニコニコしてしまいます。この二人のコンビ好き過ぎる。

 リンネの妹分であるカノンと、その飼い犬のポメラニアンであるミサイル。彼女たちも、色んな意味で語り尽くせない魅力をもったキャラなんですが、健気でリンネ思いでありながら案外ちゃっかりして図太い側面ももったカノンと、「○○ですとも!」が口癖で、リンネとカノンをひたむきに救おうとし続けるミサイルのコンビは、今作でも屈指の魅力を備えた一人と一匹だと言えるでしょう。カノンがドーナッツに手を伸ばす仕草、トップクラスにかわいくて好き。

 「キャラクターたちの動きがキレッキレ」というのも本作の重要な味わいの一つでして、その点の代表格は、リンネの上司であるカバネラ警部と、何故か特別刑務所でずっと「テンテコの舞い」を踊っているボーズ係官でしょう。

 ゲームのリアリティレベルというか、「現実との差異」ってゲームへの没入感を邪魔してしまう要素にもなり得るもので、「このゲームはどれくらいのリアル寄り感覚で受け取ればいいのか」を調整する要素って結構重要だと思うんですよ。その点、カバネラ警部がやたらスタイリッシュに階段を降りてきて、会話する前に毎回キレキレなポーズをキメているところ、「ああ、このゲームはそういうテンションで受け取ればいいのか!!」という調整弁になっているという点で、さりげなく重要だと思います。

 その他、最初にゴミ捨て場で出会う謎のライトスタンドことクネリさんから、モブの刑事やレストランのバーテンに至るまで、どのキャラも味わいがありまくり。「このキャラは何を考えていて、どういう立場でここにいるんだろう?」ということを想像しながら遊ぶだけでも、本作の楽しさが一段上がります。あと発熱して寝込みつつも色々頑張るエイミンがかわいい。

 BGMの話にも触れないわけにはいきません。

 AVGって、同じ場面を長い間見続けることが多い関係上、BGMは思考の邪魔をし過ぎず、一方単調過ぎて飽きてしまわないようにと、かなり難しい塩梅を求められる傾向があるように思います。

 その点でも「ゴーストトリック」のBGMは理想的と言ってよく、印象的なメロディがちりばめられつつ、意識に割り込み過ぎない絶妙の存在感となっております。特にメインBGMでもある「GHOST TRICK」、メインメロディがかっこ良すぎつつも飽きがこない作りで、延々リピートしていていられる一曲です。「疾走する謎」もかなり好き。

 2023のリマスター版のサントラが、Spotifyなどのサブスクサービスでも配信されているので、是非聴いてみていただければと思う次第です。

 ということで、長々と語って参りました。

 この記事で書きたかったことをひとことでまとめると、「ゴーストトリックをもしまだ遊んでいない方がいれば、是非リマスター版をポチってみてください、損はさせません、あとミサイルいいよね」ということになりまして、他に言いたいことは特にありません。よろしくお願いします。

 今日書きたいことはそれくらいです。

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