ねとらぼ

少女の「髪の毛の先」が自動的な処理では消えてしまう

──今回のリマスターにかけられた期間はどのくらいだったのでしょうか。

水戸 押井監督の立ち合いのための日程の調整もあったりしたので、ずっと作業をしていたわけではないですが、企画にゴーサインが出てから実際に関わった期間としては6カ月ほどだったと思います。

──『天使のたまご』は独特の作風の映画ですが、だからこそのご苦労もあったりするのでしょうか。例えば、天野喜孝さんがデザインした繊細なタッチのキャラクター、特に少女の細い髪の毛の1本1本については、当時のスタッフはもちろん、おふたりの作業も大変だったのではないかと想像できますが……。 

水戸 大変でした(笑)。全体が本当に絵画のような作品ですし、天野先生によるキャラクターの質感を、新たにもう一度活かすにはどうすればよいのかというのは、社内でもかなり話し合っていたことでした。

──水戸さんへのインタビュー記事で、自動的にゴミを除去してくれるソフトウェアはあるものの、それが雨粒をゴミと判断して消してしまうこともある、という記述を見ました。今回もやはり人の目で見てこその作業がありましたか。

水戸 はい。時代を経たフィルムにどうしても付いてしまうゴミや傷はありますし、セルで撮影されるアニメーションはその段階でもゴミがあったり、「書きミス」や「セルの順番の間違え」もあり、そこは実写作品とは異なる修復工程となります。昔はそれらのゴミを1つ1つ手で消していたのですが、今では専用のソフトウェアで「こういう小さなゴミがあったら消してほしい」といったような処理を行うことができます。

 しかし、自動的な処理だけでは、今回の『天使のたまご』で言えば、細かく描かれていた少女の髪の毛の先も消えてしまうこともあります。 だからこそ「狙ったものだけがちゃんと消えている」ことを、結局は目視で確認しています。処理をやっては人の目でチェック、処理をやっては人の目でチェックをしています。

(C)YOSHITAKA AMANO (C)押井守・天野喜孝・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ

──本当に大変ですね……!

水戸 本当に大変なんです(笑)。細かく細いものが動けば動くほど、間違って消してしまう可能性が高くなるので、少女の細かい髪の毛が動く『天使のたまご』では、一切そういうことがないように、より気をつけなければなりませんでした。そうしたゴミを消したり、必要なのに消してしまったものを戻したりといった修復作業が終わってから、山口さんに明るさや色を補正していただくという段階になります。これらの工程は1つのパソコンの中で完結するわけではなく、データを出力してバトンタッチをしていきます。

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