ねとらぼ
2025/12/07 08:45(公開)

【ジゴワットレポート PARTねとらぼ】なお、この「夢」は自動的に消滅する。『仮面ライダーゼッツ』が挑む、ワールドワイドな職業系ヒーローとは

 人気ブログ「ジゴワットレポート」の著者・結騎了さんによるコラム「ジゴワットレポート PARTねとらぼ」。初回の今回は、現在放送中の仮面ライダーシリーズ最新作『仮面ライダーゼッツ』について、その魅力を語ってもらいました。

東映ニュースリリースより引用
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ライター:結騎了

「映画鑑賞」「ブログ更新」の時間を必死で捻出している2児の父。ブログを学生時代から書き続け、2度の移転を経ながら約20年継続中。現在は副業として営む。『リアルサウンド 映画部』『週刊はてなブログ』『別冊映画秘宝 特撮秘宝』などに寄稿。
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 冴えない日常を送る自称好青年、万津莫(よろず・ばく)。しかし彼は、夢を自在にコントロールできる力、明晰夢の持ち主である。ひとたび夢に潜れば、極秘防衛機関「CODE」に属するエージェント、コードナンバーセブン。他人の夢に次々と潜入し、仮面ライダーにその身を変え、悪夢の怪人・ナイトメアを討伐する。カプセル状のアイテム・カプセムを操る仮面ライダーゼッツ、そのミッションが幕を開ける……!

 毎週日曜に絶賛放映中の『仮面ライダーゼッツ』は、明確に海外展開を銘打たれたシリーズ最新作である。海外各国でのサイマル配信(同時配信)を行うため、コンセプトは国籍を問わず普遍的な「夢」、デザインモチーフはシリーズそのもの「仮面ライダー」だ。仮面ライダー1号を思わせるオーソドックスなカラーリング、装飾が少なくフィジカルを強調したスタイルに、思わず目を奪われた人も少なくないだろう。

 そんな『ゼッツ』、実は最新型の「職業系ヒーロー」とも言える組み立てになっている。

 職業×ヒーロー、という図式にはかなりの歴史がある。古くは『ウルトラマン80』の中学校教師、『救急戦隊ゴーゴーファイブ』の救急救命士など、枚挙にいとまがない。これらのフォーマットは「視聴者がその職業に一定の理解がある」という利点を有しており、それは同時に、「ヒーローを応援する」という普遍的な感覚になじませやすい。

 刑事をテーマとした『特捜戦隊デカレンジャー』あたりからこの方法論はアップデートが図られ、「ジャンルの面白さ・パターン」を特撮ヒーロー番組とミックスさせる手法が確立した。ジャンルならではのストーリーテリングを、ヒーロー番組のカタルシスに接続させるのだ。『仮面ライダーW』では探偵、つまり「探偵ドラマが持つ謎解きや犯人当ての面白さ」を。『仮面ライダーエグゼイド』では医者、「医療ドラマにおける生命倫理や群像劇」を。ヒーロー番組の作劇を職業という型にはめることで、その魅力が強固かつ分かりやすくなる。今や、鉄板の図式である。

 その最新作ともいえる『ゼッツ』。なんとも面白いのが、この作品が扱う職業がエージェントという点だ。

 諜報員という職業は確かに実在するものの、同作が取り上げるそれは、どちらかというとフィクショナルな部類。例えば『007』のジェームズ・ボンド、『ミッション:インポッシブル』のイーサン・ハント、近年では『キングスマン』シリーズも記憶に新しい。これらの諜報員、スパイ、インテリジェンス・オフィサーを「職業の型」に捉え、仮面ライダーに接続させる。すると、まるでその手のジャンル映画で体感したような、「爆弾魔を止める」「要人の娘(花嫁)を護衛する」「監獄から脱出する」という、“いかにも” なミッションが浮かび上がってくるのだ。

 では、このジャンル(エージェントを題材とするスパイ映画など)の面白さ、その魅力は何にあるのか。

 そこには、未曾有の兵器や危険物を扱う緊張感がある。刻々と迫るタイムリミットに手に汗握る焦燥感がある。プロフェッショナルに強いられた二重生活による人間ドラマの緩急がある。思ってもみなかった黒幕や真犯人と繰り広げる頭脳戦がある。数多のロケーションを行き来する壮大なスケール感がある。組織や国、はたまた人類のために、危険も顧みずに飛び込んでいく、正義の姿がある。

 主人公・万津莫は、普段はただの好青年、しかし夢に潜ると極秘防衛機関に属するエージェントと化す。カプセムという未知のテクノロジーを手に、ナイトメアが現実に侵攻するその前に、現実と夢を往復しながら正体を隠し、夢の主や悪夢の根源を推理し、摩訶不思議に場面を移し続ける夢の世界で、仮面ライダーとして正義を行使する。

 スパイ映画などが持つ、特有のドキドキ、ワクワク、ソワソワ。頭脳戦に頭がグルグルし、壮大なスケールに感嘆し、最後は主人公が勝利をおさめてホッとする。この「観心地」を仮面ライダーのブランドで再演する、その試みこそが『ゼッツ』のフォーマットを形作っているのだ。主に洋画に多いジャンルを採用した、最新型の「職業系ヒーロー」。海外市場でどのような反響を得るのか、国内のファンとして楽しみである。

 さて、そんな新たな挑戦に挑む制作陣、作り手の人選に注目してみたい。

 作品の基盤構築を担うメイン監督は、上堀内佳寿也監督。氏の来歴として欠かせないのが、『王様戦隊キングオージャー』で繰り広げられた技術的挑戦の数々である。LEDウォールなどによるバーチャル背景と前景の被写体を一緒に撮影し、リアルタイムで合成する撮影手法、「バーチャルプロダクション」。膨大な数のカメラを設置した円形のスタジオで、実写でありながら360度の3Dデータを撮影する、「ボリュメトリックキャプチャー」。これらの先端技術をフル活用した例は同シリーズにおいてあまりなかったが、上堀内監督はここに果敢にチャレンジ。国内特撮ではほとんど見られない、新たなスケールの映像巨編を成立させたのである。

 『ゼッツ』では、夢の世界、つまり「なんでもあり」にも思える摩訶不思議な空間を、映像として設計していく。ゼッツが地面を掴んだら布のように波打ち、敵の足元をすくう。怪人を吹っ飛ばすと、滝や火山など、多彩なフィールドを突き抜けていく。さっきまでいたはずの場所が瞬時に別の景色に移り変わり、心地よい混乱と共に戦闘が繰り広げられる。映画『インセプション』の影響を下敷きにしつつ、それでも「観たことないっ!」と思わず前のめりになるこの感覚は、アプローチは違えど、確かに『キングオージャー』を彷彿とさせるのだ。

 仮面ライダーでは初のメインを務める上堀内監督。更なる映像的チャレンジ、世界に向けた創意工夫の数々に、引き続き期待したい。

 物語の骨格を担うのは、脚本の高橋悠也氏。『仮面ライダーエグゼイド』『仮面ライダーギーツ』などで全話の脚本を手がけた、言わずと知れたヒットメーカーである。

 高橋脚本の強みは、シリーズを通して謎解きを仕かける牽引力、設定や単語の定義をも大胆にひっくり返すアクロバティックな手法、イベントやドラマが矢継ぎ早に繰り出されるスピード感などにある。大胆に、かと思いきや精緻に。その手法は、視聴者にとって一種の「びっくり箱」のようであり、箱がものすごい勢いで閉じたり開いたり、全く別の箱が斜め上から降ってきたりと、兎にも角にも楽しい視聴体験を味わえるのだ。

 明らかに一癖も二癖もありそうな、極秘防衛機関「CODE」と司令官・ゼロ。暗躍の末に、ついに物語の中心に躍り出る謎の男・ノクス。高橋脚本らしさ満載の “伏せた線” は本作においても健在である。果たして、どのように解きほぐされるのだろうか。

 物語は、次々とミッションをクリアしながら、次第にそのコアに迫りつつある。万津莫は、夢の世界のエージェントとして人々を守り切れるのか。そして仮面ライダーは、国際的IPとして更なる飛躍を遂げられるのか。ワールドワイドな職業系ヒーロー・仮面ライダーゼッツ。醒めれば消滅する儚き夢を股に掛け、不可能を可能にするその雄姿を、目撃せよ。

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