ねとらぼ

高い鼻のルーツ「治道」と「猿田彦」

 ところで、天狗の鼻はなぜ高くなったのだろうか。自慢したいことがあって得意げになることを「鼻が高い」と言う。また「鼻にかける」は自惚れや思い上がりのニュアンスがある。高い鼻は権力構造で上の立場の者が持つイメージがあるけれども、修験道に励んだ者がみんな鼻が高かったわけではないはずだ。

 仮面研究の中で、高鼻のルーツとしてよく挙げられているのが、伎楽面の「治道(ちどう)」と、九州の民俗面や神楽の天狗役によく用いられる面「猿田彦(さるたひこ)」だ。

伎楽面「治道」(画像:PIXTA

 日本には飛鳥時代、中国南部の呉から仏教とともに「伎楽(ぎがく)」という仮面舞楽が伝わった。頭を後頭部まですっぽり覆う面をかぶって笛や鼓にあわせて無言で舞う芸で、日本では仏寺の供養や朝廷の宴の席で行われた。宮廷の中だけではなく、「行道(ぎょうどう)」と呼ばれる、無言の仮面たちが道を歩きながら面白おかしいやり取りを見せるパレードのような催しも行ったらしい。

 その伎楽面の中でも、「治道」は高く伸びた長鼻を持っている面で、行道の際には先頭を歩き、獅子とともに道の邪気を払い清める、その名の通り“道を治める”役割にあった。

 そもそも伎楽は古代インド・チベットで発生したとされており、同じく高い鼻をもった伎楽面の「胡徳楽(ことくらく)」は、ペルシア人が酔っ払った様子だとされている。治道の長鼻が何を意味するかはわからないが、こちらも異人の高い鼻の表象なのだろうか。

鹿児島県霧島市・鹿児島神宮の祭「隼人浜下り」の「猿田彦」

 「猿田彦」は、『日本書紀』に登場する「国つ神(地上に住む神々。天上=高天原に住むのが「天つ神」)」だ。天上の「天つ国」から神々が日本の地に降り立つ際(天孫降臨)、途中の道で神々を迎えて案内役をかって出た、古来から日本列島にいる土着の神、先住の神の一柱とされる。日本書紀には「その鼻の長さ七咫(ななあた。約126cm)、背の長さ七尺(約212.1cm)あまり」で「眼は八咫鏡(やたのかがみ)の如くして、赤酸醤(あかかがち。果実のホオズキのこと)のように輝いている」と書かれている。治道と同じように、先導する鼻の長い存在、というイメージがここにある。

 日本書紀の時期に猿田彦の仮面の記録は存在せず、現れるのは室町時代ごろから。面は赤い顔、高い鼻、鋭い目が特徴で、中世の修験者や芸能集団が普及させたと考えられている。 「猿田彦」の名を冠した同様の面は日本ほぼ全域に残っているほか、神楽の演目「猿田彦」では天狗の面が用いられるところがあるなど、猿田彦と天狗の関係はとても深い。

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