ねとらぼ
2025/12/17 20:15(公開)

「もう自分の土地が分からない」「0円でいいのに……」 売れない分譲地“0円物件” 手放せない背景、拡大する有償引取サービスなどの実態に迫る【限界ニュータウン探訪記 ねとらぼ版】

 「0円物件」という言葉を目にしたことがある方は多いと思う。主に人口減や過疎化が進んでいる小都市や農村の、もはや安すぎて値段もつけられない不動産物件を、0円で引き取り手を募集するというものだ。

 0円物件を専門に扱うサイトはいくつかあり、物件の種類は土地であったり空き家であったり山林であったりさまざまだが、特に建物の場合、いくら田舎の古家とは言え「住宅」が0円というインパクトは強く、メディアでもしばしば取り上げられる。

 10万円、20万円という価格ではなかなか問い合わせが来ないような底値の物件でも、不思議なことに0円物件で登場すると複数の応募申し込みがあって、すぐに引き取り手が決まったりする。多くの方が想像する通り、その中にはもちろん「安物買いの何とか」と言わざるを得ない事例も多々あるとは思うが、それはいいとして、なぜ0円になると途端にレスポンスが跳ね上がるのか。

0円物件のイメージ画像(提供:吉川祐介)
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ライター:吉川祐介

2017年、八街市周辺の物件探しの過程で数多く目にした、高度成長期以降の投機型分譲地についてのブログ「URBANSPRAWL -限界ニュータウン探訪記-」を開設。その後、YouTubeチャンネルの解説と自著の出版を経て同テーマに関する発信を生業にしています。
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YouTube:@urbansprawl-zero


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上限規制改正でも売れない「0円物件」の特殊な流通実態

 2024年7月より仲介手数料の上限規制が改正され、現在はどんなに安値の物件であっても、仲介業者は買主から最大で税込33万円の仲介手数料を貰うことができる。

 改正前は、買主からは物件価格の5%の手数料しか徴収することができず、つまり10万円の物件を扱っても、買主からもらえる手数料はわずか5000円が上限だった。これが、仲介業者が低価格の物件を忌避し、その流通を妨げる一因であると考えられていた。

 こうした状況を是正するための上限規制改正だったのだが、今まで10万円でも売れなかった物件に33万円もの手数料が上乗せされようものなら、流通を促すどころか余計に売れなくなるのは自明の理である。そのため今では、一般の仲介物件と0円物件の棲み分けがより明確になり、いわゆる「負動産」は、従来の不動産仲介によらない独自の流通形態が発展している。

0円物件のイメージ画像(提供:吉川祐介)

 現在、0円物件専門サイトとして最も取引が活発で、かつメディアの露出も多いサイトのひとつである「みんなの0円物件」が開設されたのが2019年。それから6年が経過し、「どうやっても売れない不動産がある」という認識は、年々広まっているのではという感覚がある。

 僕が調査対象にしている「限界ニュータウン」は、元々地価の値上がりを期待して買われた「投資商品」としての性格が強かったため、今も売らずに持ち続けている人に対して「最初に買った時の値段が忘れられなくて損切りできない」というイメージは未だに根強い。

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「手放せるならいくらでもいい」のに手放せない実態と、急拡大する「有償引取サービス」

 しかし、実際に所有者の方々に何人もお会いしてみると、確かにそのイメージ通り、諦めの悪い人もいなかったわけではないが、むしろ、手放せるのであればもういくらでも構わない、しかし一般の不動産会社にお願いしても買い手が見つからないか、そもそも最初から取り扱いを断られてしまい、自分ではどうすればよいのかわからないまま、固定資産税を払って持ち続けている、という方のほうが多い印象だった。

 亡夫が購入した千葉県北東部の分譲地を相続したある高齢の女性は、運転免許がないので、公共交通網が途絶している自分の土地に行く手段も機会もないまま年月が経過し、もはや自分の土地がどこにあるのかすらわからない状況だった。

 誰かの手助けや助言がなければ、手持ちの物件を手放すこともできないという現実。そんな所有者が増えている現状を反映してか、ここ2~3年の間に、0円物件どころか、不要な物件を売るのではなく、逆に持ち主がお金を払って所有権を引き取ってもらう「有償引取サービス」が急拡大している。

 これは当初は、主に高額の管理費や修繕積立金の負担が続く一部のリゾートマンションの所有者を対象に行われていたビジネスで、しかも極めて不誠実な引取(例:「数年分の管理費負担分」として請求しておきながら、実際には管理費をいっさい支払わず、踏み倒す着服行為など)が横行していた曰くつきのものだったのだが、やがてその有償引取の対象はリゾートマンションだけでなく、値段のつかない「負動産」全般へと広がっていった。

0円物件のイメージ画像(提供:吉川祐介)

 賃貸経営目的などの収益物件を中心に掲載する投資物件サイトでは、1万円の売家など、一見するとどこで利益を出すのか分からないような価格帯の物件情報が常に掲載されているが、あの破格値の売家を扱う業者の中にも、有償引取サービスを手がける業者が少なからず含まれている。

 なお、2023年4月より開始された「相続土地国庫帰属制度」も、見方によっては、国が始めた「有償引取サービス」(制度の利用には一定額の手数料が必要)と言えなくもないが、これは引き取り対象の物件の審査が必要であり、また相続によって取得した物件のみを対象とした制度のため、自己使用や投資を目的に購入した物件については利用できない。ただ、不要な土地はお金を払わないと手放せない、という現実を、国が制度の新設を以て裏付けたことは大きな前進とも言える。

0円だから競争できない 「0円物件」に潜む格差

 そもそも「0円物件」というのも、あくまで「引き取る側」が0円で物件を取得できるという話であって、物件所有者は0円で手放しているわけではない。

 0円物件サイトや一部の個人売買サイトは、物件調査や申込者との交渉など、何から何まで自力で行えば手数料が発生することなく物件を手放すことができるのだが、そのために要する手間や交通費、書類代などの実費は自己負担になる。「0円」とは言いつつも、手間や時間もコストと考えれば、これは実質的には、所有者自身が「コストを負担して」不動産を手放しているということだ。

 つまり有償引取サービスとは、物件所有者が一定の金銭を支払い、業者側が所有権をいったん引き取ることで、本来その物件の処分にかかる手間暇が省略できるというサービスである。自力で不動産の売買を行う機会のない所有者が多数を占める中、こうしたサービスが登場するのは必然であったと言っていい。

 しかし、最終的な物件価格が0円であるということは、例えばいくら反響が鈍かったとしても、一般の物件のように価格を下げて競争することが出来ない。0円物件は等しくすべて買い手(引き取り手)が0円で取得できるものであるが、物件そのものは当然一つ一つ条件もコンディションも異なるものであって、本来であれば物件ごとに異なる価格が付けられて然るべきものだ。

 ところが、現実はそれらがすべて一律0円で市場に放出されてしまうのだから、当然条件の良い物件に人気が集中する。

 手間にかかるコストが持ち出しとはいえ、仮にすぐ引き取り手が決まるのであれば、それほど悲観する話でもない。だが一方で、0円でも引き取る気になれない、なかなか引き取り手が決まらないような物件は、価格を下げて勝負できない。

0円物件のイメージ画像(提供:吉川祐介)

 では、0円物件の世界でも勝てないとなったら、どんな手段が残されているのだろうか。

 最後の手段として残されているのが有償引取サービスだが、引取業者であっても処分が困難な物件は、高額の引取料を要するのは想像に難くない。

 そして実際、例えば年間数万円の管理費を要するうえ、平坦ではなくほとんど崖のような地形の別荘地の引取料金の見積もりを出してもらった場合、業者によっては250万円にも及ぶ高額の引取料を提示することもあり、その引取料の価格相場は無視できない水準になっている。

 田舎の不動産だから需要がないと一言で片付けられるほど単純な話ではない。高額の引取料を要する物件に共通するのは立地条件ではなく「数年程度所有するだけで維持管理費のほうが物件価格を上回る」というものである。悪条件が重なれば、市街地の物件でも「負動産」と化すリスクがある、そんな時代になってきた。

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