ねとらぼ
2025/12/31 18:00(公開)

【ジゴワットレポート PARTねとらぼ】なぜ藤林聖子は仮面ライダーの未来を “預言” できるのか? 作詞家の神技「聖子ミラクル」に迫る

 特撮ヒーロー界隈に、もはや伝説の域に達した噂話あり。

「藤林聖子さんは、預言者なのではないか?」

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ライター:結騎了

思考をキーボードに零す人。『リアルサウンド映画部』『週刊はてなブログ』『別冊映画秘宝 特撮秘宝』『平成大特撮』etc. Webメディア / 雑誌 / ムック本等に寄稿。
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ブログ:https://www.jigowatt121.com/


 安室奈美恵、三代目 J Soul Brothers、TWICE、ももいろクローバーZ、水樹奈々……。数々のアーティストの楽曲を手掛け、またアニメでは『ONE PIECE』や『ジョジョの奇妙な冒険』の楽曲の作詞でも知られる、作詞家の藤林聖子(ふじばやし・しょうこ)。仮面ライダーやスーパー戦隊の関連楽曲における起用率が尋常ではない、という事実も読者諸賢にはお馴染みであろう。

 1年間の放送スケジュールが組まれる特撮ヒーロー番組、その主題歌は当然、番組放送前に制作されている。しかしながら、見事に番組中盤~終盤の展開を言い当てている、とも取れる驚きのミラクルが、ファンの間では(恒例の)語り草になっている。

 この記事では、仮面ライダーシリーズを例に “聖子ミラクル” の実例に迫りつつ、ヒーロー楽曲における作詞の真髄に迫りたい……!

(以下、『プロジェクトX』ではなく『トリビアの泉』のテンションでお楽しみください。なお、『仮面ライダー剣』『仮面ライダーウィザード』『仮面ライダーガッチャード』『仮面ライダー555(ファイズ)』のネタバレを含みます)

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検証1 仮面ライダー剣・主題歌『Round ZERO〜BLADE BRAVE』

「仮面ライダー avex SOUND WEB」より引用

 東映ヒーロー特撮のファンにはお馴染みだが、1年間のストーリー展開が最初の時点でかっちり決められている…… ワケではない、という事実がある。制作しながら、放送しながら、臨機応変に物語を繰り広げていくのが同社のスタイルである。もちろん中には例外もあり、近年では制作スケジュールが大幅に見直されたとのことで、この独特の臨場感が味わいづらくなったのは少し寂しいところ。

 そんな「ライブ感」で熾烈に駆け抜けた作品のひとつに、『仮面ライダー剣』(2004年)がある。主題歌は相川七瀬による『Round ZERO〜BLADE BRAVE』。作詞は言うまでもなく藤林聖子だが、この楽曲の歌詞に注目してほしい。

「たった1人きり キミの存在が いつか世界のすべてを変えるだろう」
「めくるめく運命 壊れそうな時代に 切り札はキミの中」

 な、なんだって!? こ、こ、これはまさに……! 『剣』終盤のジョーカーがバトルファイトに勝ち残ってしまったがゆえに世界の崩壊が始まったクライマックスでアンデッドとの融合係数が高い主人公・剣崎一真が自身のアンデッド化をあえて進行させることでもう1人のジョーカーに変貌しバトルファイトを未決着に終わらせた世界を救う決断のことを指しているのかい~~~!?

 たった1人きり(自身をジョーカー化させるほど融合係数の高い仮面ライダーは)キミの存在が(剣崎一真のみ)いつか世界のすべてを変えるだろう(崩壊を辿る世界を救うだろう)めくるめく運命(敵と味方が入り乱れ紆余曲折の末に)壊れそうな時代に(ダークローチが全てを蝕みかけた時に)切り札は君の中(自身の身体そのものをジョーカーとした剣崎の体内にはアンデッドの証である緑の血が流れている)なのかい~~~!?

 ……いやいや、そんなね、まあ。奇跡は一度ならありますよ。まだ慌てる時間じゃない。

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検証2 仮面ライダーウィザード・主題歌『Life is SHOW TIME』

「仮面ライダー avex SOUND WEB」より引用

 『仮面ライダーウィザード』(2012年)の主題歌で、ゴールデンボンバーのボーカルである鬼龍院翔のソロデビューシングルである。同作は魔法使いを題材としており、人の心にある弱さや哀しさを救うヒーローが描かれていく。

 第31話「涙」では、強敵に自身の魔力の根源であるドラゴンを倒されてしまった主人公・操真晴人の、喪失と覚悟の末に流した数滴の涙が、まさかの新たな指輪(同作におけるキーアイテム)に変化。魔力も復活し、最強の姿・インフィニティースタイルへ変身を遂げる。

 いやまさかそんな。こんな大切なエピソードが事前に予期されていたなんてことは……

「昨日今日あした未来 全ての涙を 宝石に変えてやるぜ」

 な、なんだって!?

検証3 仮面ライダーガッチャード・主題歌『CHEMY×STORY』

「仮面ライダー avex SOUND WEB」より引用

 2022年に発売された『仮面ライダー 50th Anniversary SONG BEST BOX』では、収録曲の半分以上となる167曲を手掛けられていた藤林聖子さん。いや、まあ、ね。それだけ数をこなせば、確率として展開が当たることもあるかもしれませんよね。

 じゃあ今度は、最近の作品を見てみましょうか。『仮面ライダーガッチャード』(2023年)の最終回では、不変の黄金世界を願う宿敵・グリオンに対し、変化と可能性の象徴である主人公・一ノ瀬宝太郎が、自身の錬金術を発動。その規格外でビッグな発想は、地球を飛び出し宇宙空間にもうひとつの地球を錬成。グリオンをもうひとつの地球まで吹き飛ばし、そこで最終決戦が繰り広げられる。これは、人類との共存を模索する人工生命体・ケミーの一時の安住の地として、彼の想いが込められた惑星でもあった。

 いや、まさかね。こんな未曾有で驚きのアンサーが、BACK-ON × FLOWによる主題歌『CHEMY×STORY』ですでに予期されていたなんてことは……

「想いのパワーはMystery 大気圏超えてUniverse」

 な、なんだって!?!?

検証4 仮面ライダーファイズ・主題歌『Justiφ’s』

「仮面ライダー avex SOUND WEB」より引用

 ではここで一旦落ち着き、今度は趣向を変えて。展開の整合だけを見るのではなく、物語の精神性やテーマに焦点を当てつつ、ISSAが歌う『仮面ライダー555(ファイズ)』(2003年)の主題歌『Justiφ’s』を見てみましょう。

「広がる宇宙の中 Can you feel? 小さな地球の話をしよう」

 なんといっても、まずこの歌い出し。『ファイズ』は、生態系の進化とされるオルフェノクと人間の関係を描いた作品で、人類単位の非常に大きなスケールのお話ですが、切り取られるのは極めて「個」。時に泥臭い、湿度を帯びたミクロな人間ドラマこそが、本作の魅力である。前提や設定としてのスケール、からの、いち個人の話。作品のフォーカスを見事に体現した歌詞と言わざるを得ない。

「また 護ることと戦うこと Dilemmaは終わらない… 走りつづけても」
「また 信じること疑うこと Dilemmaはキリがない… さまよい続ける」

 白黒はっきりつけられない、分かりやすいラスボスを倒して終わりではない。向き合い続け、生き続けること。『ファイズ』は初回から最終話にいたるまで、この日常の連続性ともいう、現在進行形の生き様を語っている。答えはもしかしたら無いかもしれない、でも、だからこそ……。ジレンマとずっと相対し続ける、メビウスの輪のような人生観そのものが、ぴったりと歌詞に込められているのだ。

「僕らにはまだきっと やるべきことがあるのなら…」

 この「きっと」の3文字に、この上なく『ファイズ』が流れている。そうは思わないだろうか。

本人が語る“聖子ミラクル”の種明かし

 さて、こうして数々の検証を経てみたが、実のところ、因果が逆転するかのような背景が推察される。

 というのも、 “聖子ミラクル” にはある種の種明かしがあると、ゲスト出演されたラジオ番組でご本人が語られていたのだ。

(2022年『アフター6ジャンクション』「人気作詞家・藤林聖子さんに聞く!特撮主題歌……いやさ!“ヒーローソング”の作り方 特集!」参照。Podcastでも聴けます)

 曰く、もちろん番組の放送が始まる前、作詞の発注を受けた際、ご本人からプロデューサー陣へのヒアリングが行われる。作品のテーマはなにか、主人公はどんな性格や口調か、1年をかけてなにを描きたいのか。それらを訊き出し、読み取り、咀嚼し、歌詞に起こす過程で、作品のコアともいうべき精神性が歌詞そのものに宿っていく。

 あまりに深く、そして的確に芯を喰うからこそ、それが結果的に物語の展開を言い当てたような格好になる。あるいは、制作陣が作りながらなにかに迷ったとき、主題歌の歌詞に立ち返る、ひとつのスターティングポジションとして機能した例もあったそうだ。

 つまるところ、藤林聖子の本質は「作品のコアを読み取り言語化する能力」、そのあまりの精密さにあるのではないか。ゆえにその歌詞は、時に作品を引き戻したり導いたりする、強力な「アンカー」や「北極星」と化すのである。

 だからこそ、彼女はファンから預言者とささやかれるのだ。あらかじめ未来を言い当てる「予言」ではなく、神(すなわち作品の創造主たる制作陣)の言葉を預かり、それを人々に伝える「預言」。

 どうかこれからも、作品を視聴し、愛し、時に翻弄される我々に、神の意志を届けていただきたい。

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