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街を深く掘り下げるバラエティ番組として、もはや金字塔を打ち立てている『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)。その第1回が放送されたのは1995年4月15日で、特集されたのは「代官山」でした。
奇しくも筆者の家から歩いて10分足らずで行ける街で、『アド街』の歴史が始まっていたとは知りませんでした。
しかし30年も経っていれば、当時とは違う姿に形を変えているかもしれません。
その“時の流れ”をこの目で確認したいのと共に、30年も前の放送をガイドブック代わりにするからこそ、また違った代官山を味わえるはず。
そこで、『アド街ック天国』の第1回を所蔵する放送ライブラリーで番組を見てから、記念すべき第1回目に取り上げられた街・代官山を歩いてみました。
ライター:辰井裕紀
ライター、番組リサーチャー。過去に『秘密のケンミンSHOW』などを担当し、著書「強くてうまい!ローカル飲食チェーン(PHP研究所)」を執筆するなどローカルネタにくわしいほか、調査型の記事が得意。
X:@pega3
『アド街』第1回放送の概要
第1回の放送内容を観てみると、以下のような番組であることがわかりました。
- ランキングはベスト10形式。さらにランキングはメインコーナーではなく、番組の前半にまとめて5分程度流れる情報フラッシュのようなコーナーだった
- 司会は愛川欽也さんと八塩圭子アナ
- 今の山田五郎さんのような「街を知る達人」的なポジションに泉麻人さんが座り、ちょっとぶっきらぼうなインテリ感を醸し出す
- 街の女性のファッションを紹介する「○○コレクション」は第1回から今に近い形式で存在し、「移り変わるのが早すぎ」とツッコまれていた
- 今やおなじみのレギュラー出演者、峰竜太さんも第1回から出演。ゲストのヒロミさんが大いに存在感を発揮
さらに細かなコーナーがいくつも並んでおり、まさにバラエティあふれるというか、収拾がつかないというか、今より余裕があった時代らしいおもちゃ箱のような構成でした。
ちなみに、そもそもなぜ『アド街』は代官山から始まったのでしょうか? それは、番組制作会社ハウフルスの現会長で、当時演出担当だった菅原正豊さんいわく「シャレた番組にしたかった」とのこと。
そんな番組の中で「一見して駅なのかよくわからない」などと言われていたのが代官山駅。その「駅だとよくわからない」形のまま健在でした。
なお、この代官山駅はアップダウンが急かつ複雑な地形の中にあり、行き方がわかりにくいため、実際に女性が歩いて道を教えるコーナーまで存在しました。
ちなみに第1回放送・代官山のランキングは次の通り。
- 1位:ヒルサイドテラス
- 2位:同潤会アパート(現存せず)
- 3位:小川軒
- 4位:サンローゼ代官山
- 5位:西郷山公園
- 6位:美容室
- 7位:猿楽塚
- 8位:ハリウッドランチマーケット
- 9位:JPゴルチェのビル(現存せず)※人名は番組内表記による
- 10位:ケーキ
なお、当時から「アド街ック高感度30人委員会」なる謎の集団がランキングを決めていたようですが、その正体は番組スタッフたちのようです。
これらのランキングに出た場所に加え、番組で紹介されたスポットの多くは現存していますが、30年のうちになくなったものも数多くありました。
「同潤会アパート」は消えたが跡が残る
30年前の『アド街』で2位だった「同潤会アパート」は、関東大震災からの復興を目的に生まれた財団法人同潤会により1927年に建てられた集合住宅。
筆者は恥ずかしながら表参道にあるものしか知りませんでしたが、東京や横浜に15カ所、総戸数2508戸が建てられたそうです。
その場所はいま複合施設「代官山アドレス」となっており、ショッピングモールや渋谷区代官山スポーツプラザ、そしてマンションなどが入っています。
そのマンション棟のトンネルには、在りし日の同潤会アパートの写真が残っています。
なお、同潤会アパートには「文化湯」という銭湯がありました。隣の代官山公園には、文化湯で当時使われていたタイル絵が保存されています。
30年で姿を消した代官山のスポット
『アド街』第1回で「そのアバンギャルドな外観は代官山のランドマークとなっています」と語られ、ランキング9位に入ったのが、フランスの伝説的ファッションデザイナー「JPゴルチェ(ジャン=ポール・ゴルチェ)」のビル。
1986年にオープンしてから存在感を放ってきたものの、2006年に閉店。外装は変わったもののビル自体は健在で、現在はファッションブランド「グレースコンチネンタル」の本店となっています。
なお第1回の放送にはヒロミさんが登場していますが、当時はとんねるずの木梨憲武さんとともに毎週ウインズ渋谷へ通っていたそうで、並木橋にあった「有昌」に通っていたことも話していました。
その有昌は2013年に一度閉店しましたが、2023年に「有昌Astage」として近所の代官山で復活し、今に至ります。
なお、同じく第1回の『アド街』に出演した西村知美さんは、「代官山スタジオ」2階の喫茶店(カフェMiD)にある和風サンドイッチが好きと話していました。
30年後に行ってみると代官山スタジオ自体は健在ですが、カフェMiDは2016年に閉店し、なくなっています。
ノースウエスト航空のアパート→代官山T-SITEへ
さらに、『アド街』第1回の後半では、旧山手通りを往復して道路から両脇を撮影し、店や施設をフラッシュ形式で紹介する「○○ストリート」のコーナーも存在しました。
そこで「ノースウエスト航空のアパート」と語られていた場所が、今では「代官山T-SITE」という、蔦屋書店を中核とした“生活提案型商業施設”に生まれ変わりました。
貧乏ライターの筆者としては、何やら高いものを売りつけられそうな気分になるのであまり行っていなかったのですが、あらためて歩くと、大人の余裕と心地よさも感じさせる施設です。
ちなみにこの代官山T-SITEの片隅にはファミリーマートもあります。ハイソな場所を歩いて凝った肩の力を抜き、安いPBのカップうどんとコーン茶をイートインで食べながら休憩しました。
ちなみに『アド街』第1回のベスト10には、6位に「美容室」、10位に「ケーキ」がランクインしていました。
例えば1983年4月8日発行の『an・an』にも、「おいしいケーキでも食べてお店をのぞいてゆったりと時間を過ごす街」と書かれていて、ケーキ屋が代官山を象徴する存在でもあったようです。
ただし、9年間代官山の近所に住んでいても、今回あらためて代官山を歩いても、美容室やケーキ店はそれほど目立たないように思えました。
代官山の空の広さをつくる「ヒルサイドテラス」
ここからはまだ存在しているところに目を向けましょう。
代官山といえば、特徴的なのが空の広さです。低層階の建物が多く、圧迫感がありません。
このように低層階の建物が多く、東京とは思えないほどに空が広くなっています。それを形作っている中心的存在が、放送第1回の1位「ヒルサイドテラス」です。
ヒルサイドテラスは、第1期の設計が始まった1967年から、最終期のヒルサイドウエストが竣工する1998年まで約30年をかけて、周囲の変化となじむようにじっくり完成させたといわれる複合施設です。
当初、敷地は最高の高さが10m、容積率150%に制限された第一種低層住居専用地域であるため低層階の建物を建設しており、現在でも建物の高さは低めに抑えられています。
ぜいたくに土地を使い、空の広さと優雅さを両立しているヒルサイドテラスこそが、代官山の象徴であるといわれ、代官山がおしゃれな高級住宅街になるきっかけのひとつになったとされます。
第1回の放送でも「なんと言ってもヒルサイドテラスは代官山の象徴」と語られています。
テナントに入っている店も粒ぞろいで、第1回放送で「食通たちの食料庫」と語られていた「ヒルサイドパントリー」も健在です。ちょっとお高いですが、値段分の価値がある味わいで、不肖筆者の歴代ベスト5に入るおいしさでした。
番組では、愛川欽也さんがかつて住んでいた1971年築の「代官山タワー」も紹介されており、今も健在です。
「タワー」とは言いますが6階建てで、低層の多い代官山に合う横長のフォルム。あのアントニオ猪木さんや映画監督・黒澤明さんもお住まいだったようです。
「まだある」ものから見えたもの
その他、洋服の「ハリウッドランチマーケット」や高級洋食の「小川軒」の老舗両店に加え、『アド街』第1回のときはまだ新しかった商業ビル「サンローゼ代官山」などがまだまだ健在でした。
ちなみに近所に住む庶民として情報をひとつ。
基本的に高級なお店が並ぶ代官山ですが、100円ショップのセリア、セブン-イレブン、ウェルシアなどの気軽な店もぽつぽつと点在しています。
野外のイートインスペースが広いナチュラルローソンに加え、リーズナブルな街のそば屋が点在するのもうれしいところ。これらは代官山で貴重な安くごはんが食べられるお店です。
最後に、番組では30年前に5位だった「西郷山公園」へ。
その放送時と同じように、空は夕日を映し出しています。30年の時が経ってもきれいなままでした。
あらためて思うと、第1回の『アド街ック天国』は、全体的に新しくてホットなスポットを多く取り上げていたのが印象的でした。
古いものを取り上げがちな現代の日本と比較して、「かつてのテレビ番組はそうだったなぁ」と懐かしくなります。
しかし代官山を歩いて、東京を代表するおしゃれタウンは今も生きていると確認できました。
「日本は貧しくなった」とよく言われますが、ここでは高級なものを売るお店がたくさん成り立っており、「まだまだお金はある人にはある」と頼もしく思えた次第です。
菅原正豊さんいわく「シャレた番組」を目指すために第1回に選ばれた代官山は、今もシャレた街でした。
※写真はすべて著者撮影
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