ねとらぼ
2026/01/15 07:15(公開)

星になれなかった“失敗した銀河” ハッブルが史上初めて捉えた理論上の存在「クラウド・ナイン」とは

 夜空に輝く無数の星。その裏側で、ひっそりと存在してきた“光らない世界”があることをご存じでしょうか。

 NASAのハッブル宇宙望遠鏡が発見した「クラウド・ナイン(Cloud-9)」は、星を一つも持たない、極めて珍しい天体です。銀河になりかけながら、あと一歩届かなかった存在──。この“失敗した銀河”の発見は、宇宙の成り立ちを知るうえで、思いがけないヒントを与えてくれています。

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星を持たない“失敗した銀河”とは

 クラウド・ナインは、「失敗した銀河」と呼ばれる非常に特殊な天体です。通常の銀河には、数十億、数千億もの星が集まっていますが、この天体には観測可能な恒星がいっさい見当たりません。

 その正体は、ガスと暗黒物質からなる巨大な雲。地球から約1400万光年離れた場所、渦巻銀河メシエ94(M94)の近くで発見されました。

 見た目はぼんやりとした紫色の霞のよう。背景の銀河に溶け込むように存在しています。

 理論上、このような天体は長年「存在するはずだ」と予測されてきました。ただし、実際に観測で確認された例はなく、クラウド・ナインは史上初めて捉えられた“星を持たない銀河の原型”とされています。

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なぜ星が生まれなかったのか

 銀河が誕生するには、ガスが重力によって集まり、内部で星形成が始まる必要があります。ところがクラウド・ナインは、その決定的な一線にわずかに届きませんでした。

 観測によると、この雲に含まれる水素ガスは太陽およそ100万個分。一方で、それを包み込む暗黒物質の質量は、太陽およそ50億個分にも達すると推定されています。それでもガスは十分に冷えきらず、星が生まれる条件は整わなかったのです。

 背景にあるのが、宇宙全体に広がる紫外線の影響です。紫外線がガスを温め続けた結果、星形成そのものが抑えられてしまったと考えられています。

 言い換えれば、クラウド・ナインは「もう少し重ければ銀河になれた」「もう少し軽ければ消えていた」──そんな、きわめて微妙な均衡の上に存在する天体なのです。

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暗黒物質を直接見るための“窓”

 この発見が持つ最大の意義は、暗黒物質の存在をこれまで以上に明確に示した点にあります。暗黒物質は光を放たず、直接観測することができません。これまでは、星や銀河の動きから間接的にその存在を推測するしかありませんでした。

 しかし、クラウド・ナインには星の光がありません。だからこそ、暗黒物質がどのようにガスを支え、構造を保っているのかを、ほぼ純粋な形で調べられます。

 ハッブル宇宙望遠鏡の高感度観測により、「そこに本当に星が存在しない」ことが確認されました。その結果、この天体は単なる暗い矮小銀河ではなく、理論通りの“未完成な銀河”であると結論づけられています。研究者たちも、この発見が現在主流の宇宙モデルを強く支持すると評価しています。

宇宙は、光るものだけでできていない

 クラウド・ナインは、極めて稀な条件が重なって生き残った存在です。暗黒物質の成長が遅く、周囲からも孤立していたからこそ、星を持たない状態のまま現在まで残りました。同様の天体は、宇宙全体でもごくわずかだと考えられています。

 それでも、この発見が示すメッセージは明確です。私たちが目にしている星や銀河は、宇宙のほんの一部にすぎないということ。ハッブルが捉えた「星になれなかった銀河」は、輝かない世界の存在を静かに語りかけています。宇宙の物語は、光の裏側にも続いているのです。

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