ねとらぼ
2026/01/16 06:45(公開)

星の最期が宇宙に描いた“網膜” ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた、あまりに美しい網膜星雲「IC 4406」

 夜空に浮かぶ星々は、永遠に輝き続けているように見えます。ですが、実際にはすべての星に寿命があります。

 今回公開された、ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた「網膜星雲(IC 4406)」の画像は、太陽に似た星がその一生を終えた直後に生まれた、美しくも儚い宇宙の姿です。複雑に絡み合う光と影は、まるで人の目の網膜のよう。この不思議な星雲は、星の死がいかに壮大な“作品”を残すのかを、静かに物語っています。

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星の死が生んだ「惑星状星雲」

 IC 4406は「惑星状星雲」と呼ばれる天体です。これは惑星とは無関係で、太陽ほどの質量を持つ恒星が寿命の終わりに外層のガスを宇宙へ放出してできる雲を指します。

 位置は南天のおおかみ座の方向。地球からの距離はおよそ2000〜5000光年と見積もられています。

 中心には、かつての恒星の名残である高温で小さな核が残っており、将来は白色矮星になります。この中心星が放つ強烈な紫外線によって、周囲のガスが電離し(原子が光を放つ状態になり)、青や緑、赤といった色で輝いているのです。

 つまりIC 4406は、星が静かに最期を迎えた“直後の瞬間”を捉えた天体だと言えるでしょう。

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なぜ「網膜星雲」と呼ばれるのか?

 IC 4406の最大の特徴は、その見た目にあります。ハッブルの画像では、星雲の内部に暗い筋が格子状に走り、全体がまるで人間の網膜のように見えます。このことから「レチナ星雲(網膜星雲)」という呼称がつけられました。

 この暗い筋の正体は、周囲よりもはるかに密度の高いガスと塵の帯です。その幅は約160天文単位。地球と太陽の距離の160倍という、想像を超えるスケールになります。

 実はIC 4406本来の形は、ドーナツやラグビーボールのような立体構造です。私たちはそれを横から見ているため、四角形に近い独特な姿として観測されています。もし真上から眺めることができたなら、その姿は有名なリング星雲に似ているということです。

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いま、この星雲で起きていること

 現在のIC 4406は、ガスと塵の殻が中心からゆっくりと膨張し続けている段階にあります。内側では高温のガスが輝き、外側にはより冷たい中性ガスが広がっています。この膨張は数万年かけて進み、やがて星雲は薄れていくと考えられています。

 数百万年後には、この美しい構造はほとんど見えなくなり、宇宙空間に溶け込んでしまうでしょう。最後に残るのは、静かに冷えていく白色矮星のみです。

 ハッブル宇宙望遠鏡の観測は、こうした一瞬とも言える天体の姿を、驚くほど鮮明に記録しました。色の違いは酸素、水素、窒素といった元素の分布を示しており、星がどの方向に物質を放出したのかを知る重要な手がかりにもなっています。

光の終わりが語る、宇宙の物語

 IC 4406は、爆発的な最期を迎える超新星とは違い、静かに、しかし確実に宇宙へ痕跡を残していく星の姿を示しています。私たちの太陽も、約40億年後には同じ運命をたどると考えられています。そのとき、太陽もまた、どこかの宇宙で淡く輝く星雲を生み出すのかもしれません。

 網膜星雲は、派手さとは違う形で、宇宙の美しさを教えてくれます。星の死は終わりではなく、新たな風景を生む“はじまり”なのだと──ハッブルの1枚は、宇宙の物語が今も続いていることを私たちに伝えているようです。

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