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3:『AKIRA』『攻殻機動隊』『パプリカ』の流れを汲む挑戦
本作が『攻殻機動隊』を思わせる理由は、ハードなSFとしての世界観、「タチコマ」に似たビークルが登場する他、「実存」にまつわる哲学的な思想にもある。例えば、押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』では、脳と脊髄の一部を除いて全身を義体化した女性型サイボーグである主人公の草薙素子が「自分は電脳と義体で構成された模擬人格ではないか」という疑問を口にする場面がある。
その草薙素子と同じような思考を『マーズ・エクスプレス』の相棒のアンドロイドは有しているとも言え、クライマックスから結末で提示される言葉は、さらに複雑な哲学的な思想を促すものとなっていた。キャッチコピーにある「人間が私たちを捨てたんじゃない。私たちが捨てる」という言葉を、どのような「文脈」で「誰が」提示するのかにも、ぜひ注目してほしいところだ。
また、今 敏監督の『パプリカ』は「他人の夢を共有できるデバイスが盗まれ、悪夢を見せて精神を崩壊させる事件が相次ぐ中で、警察と共に犯人を探そうとする」物語から、フィルム・ノワールのテイストを十二分に感じさせる作品である。その時点で『マーズ・エクスプレス』と似ているのだが、さらに『パプリカ』で語り草になる「狂った夢のビジョン」を連想させる画も待ち受けていたのだ。
他にも、危険な力を持った者の暴走や、鮮烈なバイオレンス描写は『AKIRA』を思わせるものでもある。実際にぺラン監督は「1988年公開の『AKIRA』から2006年公開の今敏監督『パプリカ』までで、日本では一つの時代が終わったという感覚があります」「最近の日本ではそうしたリアル志向の作品があまり作られなくなったと感じており、個人的にも少し寂しく思っていました」と告白しつつ、「私は世界の裏側から、微力ながらわずかでもその流れを汲むような作品を作り続けたいと考えています」と、日本SFアニメの系譜に挑戦し続ける意志を見せている。
さらには、『電脳コイル』『地球外少年少女』を手がけた磯光雄監督は『マーズ・エクスプレス』を見て「自分たちの後継者は海外にもいるのかもしれない」と告げて、ペラン監督は「それは私にとって大変な誇りです」と返答したのだとか。日本の作品の魅力が海外のクリエイターに「受け継がれる」ことは、日本のアニメ作り手やファンにとっても喜ばしいことだろう。
さらに、ペラン監督は「ロボットが『人類を皆殺しにしよう』という暴力による革命は、他の作品が既にやっていることだし、それはやりたくないと分かっていた」とも答えている。SFや日本のアニメの敬愛に溢れながらも、同じことの繰り返しやただの模倣にしない、自身の作家性を大切にする姿勢も、あの結末から伝わってきたのだ。
ともかく、ジャパニメーションへのラブレターとも言える『マーズ・エクスプレス』は、やはり日本人こそが見るべき作品だろう。前述したようにフィルム・ノワールというジャンルだからこそのとっつきづらさはあるものの、それもまた魅力として享受していただければ幸いだ。
(ヒナタカ)