いま海外のSNSでは、日本の小説を手にした投稿が次々と拡散されています。TikTokの#BookTokでは、日本文学を紹介する動画が数百万回再生されることも珍しくありません。

 たとえば英国の書店では、日本人作家の翻訳本コーナーが大きく展開され、「猫」「喫茶店」「コンビニ」といった日本らしいテーマの作品がベストセラーになる現象まで起きています。

 かつて海外で知られる日本文学といえば、村上春樹や川端康成、三島由紀夫など一部の文学作品が中心でした。しかし近年は、柚木麻子『BUTTER』、村田沙耶香『コンビニ人間』、川上弘美『三度目の恋』など、現代の日本小説も幅広い世代に読まれる時代になっています。

 なぜいま、日本の小説が海外で人気を集めているのでしょうか?

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TikTok発のブーム。英国で日本小説好きが拡大中

 特に大きなきっかけとなったのが、冒頭でも紹介したTikTokの読書コミュニティ#BookTokです。

 Instagramでも『コーヒーが冷めないうちに』『森崎書店の日々』『ヘヴン』など、海外ユーザーたちがお気に入りの日本小説を動画で紹介。「人生観が変わった」「静かなのに感情が刺さる」「読後に余韻が残る」と熱量高く語っています。

 英国では翻訳日本小説の売り上げが急増。ニールセン・ブックスキャンのオンライン調査によると、翻訳文学の中でも日本作品の存在感は年々高まっており、いまや翻訳タイトル数は他言語を上回る勢いです。

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 象徴的な出来事の一つが、柚木麻子『BUTTER』の大ヒットです。実在の事件をモチーフにしたこの作品は、英国で28万部以上を販売。現地メディアでも「2024年を代表する一冊」として取り上げられました。

 さらに、有川浩『旅猫リポート』や平出隆『猫の客』など、猫をテーマにした作品も人気を集めています。英国の書店では「日本文学=猫」というイメージすら定着しつつあります。

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なぜ海外読者は「日本の小説」に引かれるのか

 海外で日本の小説が支持される理由として、よく語られるのが「感情の描き方の違い」です。欧米文学では、善悪や結論が比較的はっきり描かれる作品が多い一方、日本小説は答えを言い切らない作品が多いといわれています。

 たとえば村上春樹作品では、孤独や喪失感、不安定な精神世界が静かに描かれます。村田沙耶香『コンビニ人間』では、「普通とは何か」という息苦しさがテーマになりました。川上未映子や柳美里の作品も、人間社会の違和感や生きづらさを鋭く切り取っています。

 一方で、『コーヒーが冷めないうちに』や青山美智子作品のように、日常の小さな優しさを描く“ヒーリング・フィクション(癒やしの小説)”も海外で強い人気を獲得しています。

 英国の出版関係者は、日本小説について「馴染みのある感情を、まったく違う角度から見せてくれる」と分析しています。どうやら海外読者は、日本の小説に異文化体験だけを求めているわけではなく、孤独や不安、人との距離感といった普遍的な感情を、日本の小説に特有の静かな語り口で味わうことに魅力を感じているようです。

 SNSでは、日本の小説についてこんな声が寄せられています。

「ドリアン助川の『あん』がすごく良かった!」
「柳美里の『JR上野駅公園口』は私の好きな作品よ」
「吉本ばななの『キッチン』が好き」
「『センセイの鞄』が最高~!」
「『旅猫リポート』は日本の小説が好きなら絶対読んでほしい!」
「日本の小説を読むと、とても清々しく穏やかな気持ちにさせてくれるわ」

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人気の背景にあるのは、“孤独”や“人間関係”?

 海外で評価されているのは、現代作家だけではありません。

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 夏目漱石『こころ』や太宰治『人間失格』、三島由紀夫『金閣寺』、川端康成『雪国』など、“文豪”と呼ばれる小説家の作品も読まれています。海外SNSにはこのようなコメントが見られました。

「三島由紀夫の本は全部読んだよ。彼こそ日本を代表する文豪だ」
「私は『羅生門』をおすすめするわ」
「大江健三郎の『個人的な体験』は何度も読んだよ。毎回、胸が張り裂けそうになるんだ」
「やっぱり『こころ』と『人間失格』がマイベストだよ」

 特に太宰治は、海外SNSでも熱狂的な人気があります。『人間失格』について「自分の感情を代弁されたようだった」と語る海外読者も少なくありません。その背景には「孤独」や「疎外感」といったテーマがあると考えられます。

 明治以降、日本は急速な近代化を経験しました。その変化の中で、多くの作家が“社会に馴染めない個人”と向き合ってきました。そうした中から生まれた作品は、現代のSNS社会を生きる若い世代に刺さる部分があるのかもしれません。「(日本文学は)心の奥を静かにえぐってくる」といった旨の感想も多く見られます。

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国境を越えて共感を集める「日本の小説」

 かつて海外で日本の小説といえば、一部の文学ファンだけのものという印象もありました。しかし現在は、TikTokやInstagramを通じて、幅広い世代が自然と日本の小説へふれる時代になっています。

 静かに描かれる日本のごくありふれた日常、それでも読後には不思議な余韻が残る――。海外の読者たちが日本の小説に引かれているのは、日本らしい文化はもちろん、何気ない日常の感情を丁寧に描く空気感そのものなのかもしれません。

 孤独や迷い、不器用な人間関係。誰もが抱える感情を、静かにすくい上げてくれる日本の物語が、いま国境を越えて共感を集めています。

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