燃えろ30代――「哀 戦士Z×R」
来日したローリング・ストーンズのコンサートにおけるオープニングアクトとして、リッチー・コッツエン氏が登場した。先日、「機動戦士ガンダム」シリーズのカバーアルバム「哀 戦士Z×R」を発表した彼のコンサート模様をお伝えしよう。
4月2日。
小雨が混じった横殴りの風にあおられながら巨大なイベント会場、「さいたまスーパーアリーナ」にやってきた。本日は世界中で知らない人はいないほどの超有名ロックバンド、ローリング・ストーンズのコンサートだ。ロックと呼ばれる音楽の黎明期より存在するビッグバンドと我々ゲームファンをつなぐ線は皆無に思われるがそうでもない。
昨年末によく見かけたXbox 360のCMで使われている軽快にして、どこか聞き覚えのある曲は何を隠そう彼らの楽曲「Jumping Jack Frash」だ。それ以外にも、Windows 95のCMをはじめ、さまざまな場所で曲が使われているので、ロック愛好家や音楽に一過言ある人間ではなくても何かしらのつながりがあることになる。
しかし、今回の取材の本命は彼らではない。彼らのオープニングアクトをつとめるリッチー・コッツェン氏が目当てなのだ。彼は元Mr.Bigのギタリストとしてロック小僧の間で有名なのだが、先日大きな話題を日本中に振りまいている。それは彼の新しいアルバムが日本先行で発売されたからだ。そのタイトルは「哀 戦士Z×R」
このタイトルを聞いてすぐに曲や映像が浮かんだ人は間違いなく30歳以上の年齢ではないだろうか。今は亡き井上大輔氏が歌ったことで有名な曲で、機動戦士ガンダムの劇場映画2作目「機動戦士ガンダムII 哀・戦士編」のタイトルでもある。
30過ぎてガンダムもないだろうと、若い世代に追い打ちをかけられている我々の世代かもしれないが、30過ぎても愛してしまうほどのパワーが、コッツェン氏ほどのアーティストを突き動かしたと言っても過言ではない。発売されたアルバムのライナーノーツでも語っているが、世界的なギタリストの彼は、その立場を完全に忘れてしまっているかの如くガンダムという作品を愛している。このアルバムには彼の愛情と、音楽家としての本気が詰まっている。
閑話休題
あいにくの天候だったものの、ローリングストーンズのパワーというものは強烈だ。国籍や人種すら混在している入り口周辺。そして、何よりも50代が多いと思われがちな年齢層の想定を完全に裏切っていた。なんとその裾野は10代後半にまでいたる。結構な数の若者がチケットを握りしめていた。ロックの伝説を目撃したいという意味合いもあるのかもしれないが、ここまでファン層が広いことはさすがの一言しかない。
そんな中、ステージにコッツェン氏が登場。なんと横に並び立っているのは超絶ベーシストのビリー・シーン氏ではないか。彼ほど有名なベーシストはほとんどいない。そして、その強烈すぎるまでの速弾きは現在のロックシーンにおいて強い影響を持っている。
その二人がステージに姿を現し、観客が固唾をのんで見守っていると演奏が始まる。その一曲目はなんと「哀戦士」!!
この豪華すぎるオープニングアクトの記念すべき最初の一曲は世界中のガンダムファンの心を猛烈に揺さぶるであろう、哀戦士から始まったのだ。
年齢層の広すぎる観客の中にも我々の同士はもちろんいただろうが、どちらかというと少ない。ローリングストーンズの最盛期を知る人々は40代以上であり、ロック小僧達は20代前半。これらの観客の反応はどうなのか気になるところ。
しかしながら、そんな心配は杞憂に終わる。コッツェンの哀戦士はすでにガンダムの楽曲ではない域に達している。原曲を知るものは誰もが“哀戦士”と認識するかもしれないが、この曲は完全に「本物のロックサウンド」で演奏され、魂が込められているのだ。ロック愛好家が多い会場での反応が悪いわけがない。ほとんどの観客は知らない曲だが、その勢いに飲まれ、身を乗り出し耳を傾けていた。
その後、彼らの曲が3曲ほど進み、コッツェン氏がガンダムのアルバムを出し、そのガンダムが生まれた日本で演奏することを感謝すると、盛大な拍手が生まれた。その拍手を受けてオープニングアクト最後の曲が流れる。そのタイトルは「Z・刻をこえて」だ。
印象的な楽曲がそろっている機動戦士Zガンダムの中でも随一の人気を誇るナンバーを、コッツェン氏がカバーしているのだ。ご存じの方ならわかるかもしれないが、原曲からしてアップテンポ。コッツェンと彼のギターが歌い出したときの観客の反応は熱狂に変わっていったことは、足を運んでいない方々にも想像つくのではないだろうか。個人的にはアルバム「哀 戦士」の中から「機動戦士ガンダム0083」シリーズの楽曲から唯一のカバーとなっている「The Winner」を演奏してもらいたかった。ギターソロが格好良い最高のアレンジなのだが、それは次回以降の楽しみにしておきたい。
何よりも喜ばしいのはガンダムの楽曲がどうと言うことではなく、完全にロックンロールという形の違うものに、我々の愛する世界観が融合・変化していることだ。その証明は本日の観客の反応が物語っている。ガンダムに興味が無かろうとロックに興味があればこのアルバムは間違いなく楽しめる。大げさな言い方かもしれないが、ガンダムという単語と世界はすでに我々が独占できるようなものではなく、さまざまなところに分派し変化している。どうせ30歳を過ぎても赤い彗星を追いかけてしまうのであれば、すべて体感したいと思わないか?
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