「迷っている暇はない」 スク・エニ飛び出し世界を目指す、たった1人のゲーム会社(1/2 ページ)
スク・エニを辞め、1人で起業してソーシャルゲームに打って出たプロデューサーがいる。ゲーム業界が形を変えつつある中、「自分自身が変化そのものになりたい」と考えたという。
ソーシャルゲーム人気が爆発している。mixiやGREE、モバゲータウンなどで、数百万人単位のユーザーを集めるゲームも珍しくない。iPhoneやAndroidも、新たなゲームプラットフォームとして注目を浴びている。
そういったプラットフォームでゲーム開発の主役に躍り出ているのは、ネットベンチャーや携帯コンテンツメーカーなど。ゲーム開発経験の浅い企業の躍進も目立っている。
「業界が転換点に来ている」――ゲームプロデューサーの加藤拓さん(32)はこの4月、8年半務めたスクウェア・エニックスを辞め、ソーシャルゲームメーカー「ミラクルポジティブ」を起業した。
「スクウェア・エニックスもいい会社で、面白かった」が、ゲームを取り巻く環境が急速に変化する中、「迷っている暇はない」と、ソーシャルゲームの海に飛び込んだ。
初心者を狙いのゲームが大半のソーシャルゲーム業界で、あえて“ゲーム玄人”にターゲットを絞ったオンラインRPGを「GREEモバイル」向けに公開。急成長は追わず、じっくりと育てていく構えだ。
目標は世界。「ソーシャルゲームの世界展開で始めて成功した日本メーカーになりたい」と意気込む。
業界が転換点に来ている
加藤さんはゲームメーカー・魔法でキャリアをスタート。プレイステーション 2ゲームのプランナーなどを手掛けた後、携帯コンテンツのサイバードを経てスクウェア・エニックスに入り、携帯RPG「みんなdeクエスト」、モバゲータウン用RPG「エルアーク」のプロデュースなどを担当してきた。
スクウェア・エニックスでモバイルゲームを作りながら、業界の変化を肌で感じていたという。「iPhoneやAndroid、ソーシャルゲームプラットフォームの誕生で、大きなメーカーでなくても、世界に向かってゲームを配信できる。これまでにはなかった状況になっている」
大手メーカーが開発してきたゲーム専用機向けのゲームは一般的に、高度な技術やグラフィックスが要求され、数千万円〜億単位の開発費が必要。開発したゲームを販売するには、問屋や小売店に売り込むなどして流通させ、プロモーションで広く告知する――など、新規参入のハードルは高い。
一方で、iPhone/Androidアプリ、ソーシャルゲームは、個人や小さなチームでも、数百万円程度の開発費で作れる。プラットフォーム上で公開するだけで流通させられ、人気のゲームは口コミで急速に広がる。海外展開しているプラットフォームで公開すれば、世界展開も容易だ。
自分自身が、変化そのものになりたい
「自分自身が、変化そのものになりたい」
時代の変化をとらえ、こう考えた加藤さんは、スクウェア・エニックスを4月末に退職。5月末、新会社「ミラクルポジティブ」を登記し、ゲーム開発に取りかかった。
実際の開発に携わったのは、スクウェア・エニックス時代から付き合いのあった、従業員3人のゲームメーカー・リンドブルムだ。携帯RPG「みんなdeクエスト」や「エルアーク」の開発元でもある。
開発はリンドブルムに任せ、加藤さんは資金集めやデザイナー探し、ユーザーサポート企業との契約などを引き受ける。内製が多いソーシャルゲームの作り方としては珍しいが、スクウェア・エニックス時代のプロデュース手法を踏襲した。
リンドブルムの最初の作品、GREE向けオンラインRPG「勝手にクエスト」が完成したのは6月末。開発期間はわずか2カ月弱だ。「オンラインRPGとしては最短に近いスピードでは」
ライト層向けは「レッドオーシャン」 “ゲームらしい”RPGを
勝手にクエストは、初心者を狙った流行のソーシャルゲームとはかなり違った作りだ。ターゲットはコアなRPGファンのみで、「RPGをやったことがない人は、そもそもプレイしないだろうと思っている」。
初心者向けのソーシャルゲームは「みんなが狙うレッドオーシャン」と考え、あえてターゲットを絞った。スクウェア・エニックス時代の経験とリンドブルムの開発力を生かし、ソーシャルゲームでは物足りないゲームファンの心を揺さぶろうとしている。
コンセプトは「なつかしくて、あたらしい」。ゲーム画面ではドット絵のキャラクターが動き回る一昔前のRPGのような雰囲気だ。イベントシーンではクスっと笑えるせりふもあり、戦闘シーンでは武器を振りかざして敵を攻撃したり必殺技を繰り出したりなどRPGらしい動きも。静止画と簡単なFlashアニメを組み合わせたほかのソーシャルゲームとは一線を画す。
キャラクターのパラメーターを細かく変更したり、敵の強さに合わせて装備をそろえたり、アイテムを合成して新しいものを作ったりなど、初心者には取っつきにくい難しさもあり、「ソーシャルゲームは苦手だが、本格RPGやオンラインRPGをやりたいという人にプレイしてほしい」と加藤さんは話す。
「ジャンプ放送局」のようなゲームに
プレイスタイルも、ほかのソーシャルゲームやRPGとは趣が異なる。熱中して“廃人”を生んでしまうようなゲームではなく、ゆるく、長く続けられるゲームを目指した。
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