オヤジに訪れた三度目の“なつやすみ”は、懐かしくて、やさしくて、ちょっぴり切ない:「ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原」レビュー(3/3 ページ)
待ち焦がれていた、あの“なつやすみ”がやってきた。少年時代に過ごした夏休みを情感豊かに再現した「ぼくのなつやすみ」のシリーズ最新作が、実に5年ぶりに登場。PS3によって映像とサウンドの表現力が一段と高まり、遊びの幅も広がった今作をプレイすれば、子供の頃の思い出が鮮やかによみがえってくる。
リアリティを過度に追求せず、手描きの風合いを活かした映像が美しい
「ぼくのなつやすみ3」がプレイステーション 3で登場すると知ったとき、個人的にまず気にかかったのは「映像表現がどのように変わるか」ということ。次世代機でグラフィックが美しくなるのは当然としても、あまりにもリアリスティックに描かれた“ぼくなつ”というのも少し違うような気がするし、何より上田三根子さんが描く、素朴だけれど独特の味わいを持つキャラクターたちとかみ合うのかも気になる。
結論から言えば、取り越し苦労に過ぎなかったようだ。背景はこれまでと同様、手描きの柔らかな風合いでていねいに描かれ、そこにボクくんなどのキャラクターたちが馴染んでいて、何ら違和感がない。映像出力は最大720pで、1080i/1080pには対応していないものの、2倍のオーバーサンプリングで処理したものを1280×720ドットの映像に落とし込んで、エッジを目立たなくしている。
実際のゲーム映像をHDTV上で見ると、線がとてもなめらかに、キレイに出ていることが目に付く。写実的になりすぎず、これまでの“ぼくなつ”シリーズにも見られた暖かみのある描写はそのままにHD化されていることで、少年時代の心象風景とうまくマッチしているように感じた。この絶妙なバランス感覚が素晴らしい。
映像面の進化以上に次世代機らしさを実感できるのが、サウンド。特に環境音の表現力だ。今回の「ぼくのなつやすみ3」では、ドルビーデジタル5.1chとリニアPCM5.1ch/7.1ch出力に対応したが、そのサラウンド効果が素晴らしく、音だけで田舎の夏の情景が浮かんでくるほど。川を流れる水の音や、小鳥たちのさえずり、蝉の声など、ゲームの中では実にさまざまな音が鳴っていて、それが自分をぐるりと取り囲むように聞こえる。また、場所や時間帯でも聞こえる音と聞こえ方が違い、日中は夏の暑さを誇張するかのようにセミが鳴き、夜になるとコオロギなどの虫の音が聞こえてくる。子供の頃、祖父母が住む田舎で聞いたのと同じ音が聞こえて、ハッとさせられる。
「ナンモさ」……この一言に込められた優しさがしみる
夏休みが始まったばかりの頃は、「これからひと月もある。さあ何をして遊ぼうか!」と期待に胸を膨らませているが、その夏休みも残り少なくなるにつれて、そわそわしてきて、何となく寂しいような気持ちに駆られる。こんな感覚は、子供のときのそれと全く同じだ。
野山を駆け回り、さまざまな出来事を体験したボクくんの夏休みが終わる頃、父親が迎えに来てくれる。このときは泣けて泣けて、どうしようもなかった。前の2作でもラストにはぐっと来たが、今度ばかりはどうにも涙をこらえきれなかった。自分の少年時代の記憶と合致する部分が、今回とりわけ多くあったせいかもしれない。
この「ぼくのなつやすみ3」では、北海道が舞台になっていることもあって、セリフの端々に出てくる北海道弁の響きが耳にも心にも心地よかった。「なまら」(とても、すごくといった意)や「ゆるくない」(とても苦労する、厳しいといった意)などのほか、北海道の人が会話の語尾によく使う「〜かい」とか「〜っしょ」といった言葉がゲームのセリフ中に出てくる。
特に印象に残ったのは、「ナンモさ」。これは「何てことはない、たいしたことじゃないから気にしなくていい」といった意味合いで使われる北海道弁だが、ボクくんが「ありがとう」というと、吉本家や地元の人々はいつだって「ナンモさ」と返してくれる。これがゲームを終えた後もずっと心に残る。素敵な言葉だな、と思う。
また、詳述はしないが、今回の「ぼくのなつやすみ3」ではボクくんにまつわる初恋……と呼ぶのもはばかられるほどに淡い想いが描かれている。これも少年時代を思い起こさせるいいエピソードだった。今回、ボクくんの年齢設定をひとつ年上にしたのは、ひょっとするとこのエピソードのためかもしれない。
これまでに“ぼくなつ”シリーズを一度も体験したことがないなら、「ぼくのなつやすみ3」は文句なしにおすすめできる作品と思う。派手さも刺激性もない代わりに、じんわりと心にしみて栄養を補給してくれるような、なんとも不思議な魅力を持ったゲームだ。少なくとも1回目は、攻略だのコンプリートといったことを変に意識せずに、気の向くままに遊んだ方が楽しいし、ボクくんやほかの人々に対する思い入れも深まる。そして、実際に昭和50年頃に少年期を過ごした世代なら、それを追憶させる部分がたくさん出てきて、プレイしながらいろいろなことが思い出されるはず。わたしもこのゲームを遊んだあと、人恋しさを募らせて久しぶりに実家に電話をかけた……。
ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原 | |
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対応機種 | プレイステーション 3 |
発売日 | 発売中 |
価格(税込) | 5980円 |
CERO | A区分(全年齢対象) |
ゲームデザイン | 綾部和 |
キャラクターデザイン | 上田三根子 |
主題歌 | ひまわり娘 |
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