「日本はもうゲーム先進国ではない」――岡本吉起氏が語る“世界に通用するゲームプロデュース”:CEDEC 2008特別インタビュー(2/3 ページ)
日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CEDEC 2008」で講演を行うゲームリパブリック社長の岡本吉起氏に、講演内容として「いま、必要とされるゲームプロデュース」を選んだ理由や、ゲームリパブリック立ち上げから5年間が経っての今を振り返ってもらった。
「ゲーム先進国」の座を奪われつつある日本
―― もうひとつのポイントになりそうなのが、“世界に通用するゲームプロデュース”という部分だと思います。
岡本 うん、そこはもう大前提。日本市場がシュリンクしている中で、“世界に通用する”ってことは必須条件なんです。そもそも世界に通用する人間、ゲームを育てていく気がないんなら、プロデューサーなんかいらないですよ。
―― 海外での「グランド・セフト・オート4(GTA4)」の販売本数なんかを見ても、ここ2〜3年で完全に日本と世界の温度差が浮き彫りになってきた感があります。
岡本 浮き彫りになってきたどころか、もう遅すぎるくらいですよ。ファミコンの頃には、日本のゲームが全世界の70%を占めてた。それが今では、せいぜい15%とか20%とかじゃないですか。今は海外の方がゲーム先進国なんです。彼らはGTA4みたいなタイトルを、5年も10年かけて作ってきてる。それに今から追いつこうと思っても、その間に彼らはもっと進歩していくわけですよ。でも、だからといって諦めちゃったら、もう一生追いつけなくなる。
―― 日本のゲームと海外のゲームの決定的な差ってどこにあると思いますか。
岡本 もう、明らかに方向性が違いますね。日本人が作るゲームって、不満が少ないゲームなんですけど、言い換えれば自由度が低い。海外のは本当にすごいですよ。トイレで水を流すとか、手を洗うとかいったことが当たり前のようにできる。どうでもいいだろ! って思うんですけど、そういった部分にもしっかりとプログラマーがついている。
―― トイレで水を流す専門のプログラマーが(笑)。
岡本 でもこれって、ゲームと映画の違いを明確に表してる気がするんです。よく日本のゲームを指して“映画的”って言いますけど、それってつまり一本道ってことですよね。でも西洋人は、映画とはまったく違うものをゲームに求めた。
―― 演出面だけ見たら、GTA4もかなり映画的なゲームですけど、日本のそれとはベクトルがまったく違いますよね。日本のゲームは、観客視点での映画的ですけど、GTA4は自分が映画の主人公そのものになった視点で遊べる。
岡本 これをもし今の日本の会社が作ろうとしたら、「どうぶつの森」のチームくらいしか、本当の意味でその感覚を持っているところはないと思うんです。後は「シーマン」。僕は斎藤由多加さんのことをシーマンって呼んでるんですけど(笑)。
―― シーマンの生みの親だからですか?
岡本 シーマンの声は斎藤由多加さん本人がやってるんですよ。シーマンって「おはよう」とか「起きてるかー」とか話しかけると、いろいろリアクションをしてくれるじゃないですか。あれって、大体こっちが言うことを想定していて、それぞれに対してリアクションを返してるだけなんですけど、ただシーマンの場合、その対応の幅がとにかく広い。これって海外のゲーム作りに通じるところがありますよ。
―― こんな言葉にまで反応するの! みたいなところが面白かったですよね。
岡本 その分、作業量もものすごい。あれをもし声優さんでやってたら大変なことになっちゃいますね。あれは彼自身の声だからこそできたんですよ。
―― なるほど。
岡本 というか、同じマンションに住んでたんですよ。面白かったですよ、夜中の2時過ぎに「岡本さーん、腹減った! チャーハン作って!」って電話してきたり。それで「オレ明日4時半起きだから勘弁してよ」って言った瞬間、もう玄関のチャイムが「ピンポーン」って。ドアの前かよ! みたいな(笑)。ほかにもね……。
(この後、延々15分ほど斉藤さんの話題で盛り上がる)
―― あの、そろそろ元の話題に……。
岡本 ああ、そうだった(笑)。とにかく今の日本ではまだ一本道のゲームが主流ですけど、それはいずれゲームじゃないとか、前世代のゲームとかきっと言われるようになるはずです。
―― やがては国内でも、一本道のゲームから自由度の高いゲームへとシフトしていくと。
岡本 シフトしていかないと生き残れないでしょ。
―― それはメーカーだけでなく、ユーザーもということですか。
岡本 実は僕が一番問題だと思ってるのは、ユーザーが世界に通用するゲームをプレイしていないことなんです。将来クリエイターになる人たちが、世界に通用するゲームを知らずに育ってしまうことが怖い。だから僕はカプコン時代に、「グランド・セフト・オート3(GTA3)」を何とか日本でも発売しようと努力したわけです。
―― GTA3は未来のクリエイターへの教科書だったと?
岡本 教科書というか、道標ですね。後は“市場を育てる”という意味もあった。世界が面白いと言ってるものを、日本人だけが理解できないのは悲しくないですか。何よりユーザーが世界のゲームを受け入れてくれないと、メーカー自身がそっちに移行できない。イモを作っていた時代からコメを作る時代に変わるんだったら、早いうちに手を打っていかないといけないんですよ。
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