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未来のために攻撃へ転ずるべき――「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」CEDEC 2008基調講演

2日目の基調講演に登場したのは、カプコンの稲船敬二氏。サッカーを例に、グローバルな視点と攻めの姿勢こそがこれから求められることだと、クリエイターと経営者にモノ申す。求められるのは経営と向き合うこと?

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クリエイターは優しいけど頼りない人

早朝にもかかわらず立ち見まで出た稲船氏の基調講演。技術的なことではなく、発想の転換のきっかけになることについてしゃべりつくした

 9月9日から11日にかけて世田谷区にある昭和女子大学を会場に開催されている、日本最大級のゲーム開発者カンファレンス「CESA DEVELOPERS CONFERENCE 2008」(CEDEC 2008)の2日目、基調講演としてカプコン常務執行役員 開発統括本部長 兼 オンライン事業統括/ダレット代表取締役社長の稲船敬二氏が登壇した。

 稲船氏の基調講演は、「ビジネス」と「クリエイティブ」は相反するものではなく、両立させなければならないという攻めの持論を織り交ぜた「ゲームというビジネス、ビジネスというゲーム」と題して行われた。

 まず稲船氏は、ゲームを作ってきて常々考えてきたことだが、「ゲーム開発においてクリエイターが、いかにこだわりのあるものを作るかということを正義のように語っているが、果たして本当にそうなのか?」と疑問を投げかける。クリエイターもビジネスのことを考え、経営者側ももっとゲームについて理解するべきだと、両者の考え方が食い違っている現状こそが、大きく世界とゲーム市場と差が開きつつある原因のひとつではないかというのだ。カプコンもそこを重要視し、ビジネスのことを考えたゲーム開発を行っているのだそうだ。

 そもそもゲームとビジネスは、ある意味対義語で矛盾しているかもしれないと稲船氏。ビジネスを主体に考えたゲームはクリエイティビティを失いがちだし、クリエイティブを優先するとお金がいくらあっても足りないものだ。しかし、その“矛盾”こそがヒットのキーワードだと、矛盾を追及することの大事を説く。

 論理は単純――「安くてうまい店ははやる」だ。しかし、素材を安く入荷し人件費を抑えるとおいしいものを作るのは難しくなっていく。逆に高い素材で高い人件費を使えばある程度はおいしいものはできるかもしれない。そこが矛盾であり、ヒットのキーワードとして端的に表している。また、モテる男性は「優しくて頼りがいがある」と言われるが、“優しさ”と“頼りがい”は矛盾をはらんでいると、その両立の難しさを語る。だが、両立できたらモテるわけだ。ビジネスとゲームクリエイティブの両立は、できないことはないし、できないならばどうしたらいいのかを考えることを放棄してはならないと提案した。

 稲船氏が開発統括に就いた時期、カプコンは低迷しており、まさにその矛盾と対することになったと振り返る。経営陣からはリスクを回避してほしいと、新しいものは作らず続編やお金になりそうなものだけを作れと厳命されたが、苦しい時こそ新しいものにチャレンジするべきであり、不安がる経営陣を安心させ、新しいことを押し通すことこそ未来へつながるとカプコンは新タイトル開発へと舵をきった。

 クリエイターの中には経営のことなど分からないと甘えて逃げる人がいると、稲船氏はモテる男性の例を持ち出し、「クリエイターは優しいけど頼りない人。自分の中に閉じこもっているだけ」と両断する。自分の意見だけを振りかざし、理解してもらえないと独立する人もいるが、ビジネス面から逃げた者がヒットを生み出せるとは思えないと、かなり手厳しい意見だ。もちろん、ビジネスだけを考えていてもゲームは面白くならない。稲船氏的に経営者は「頼りがいはあるが、優しくない」となる。経営者は襟を正し、クリエイターを見下ろすような考えは捨てるべきと、経営者はクリエイターを理解し、クリエイターはビジネスを理解するべきだと提案する。

 例えば工期を2週間過ぎることが見えた段階で、ただ感情論で延期を論じるのではなく、クリエイターは経営と向き合い、2週間でどれくらい利益が上がるかを結びつけて説得できないと駄目だし、それに対して経営者も耳を傾けるべきなのだ。

iPhoneを購入したが、極めて難易度が高いモバイルだと稲船氏。しかし、ゲームとして覚えることを楽しめる柔軟性を持ち得たら、なんてお得なケータイではないかと気がついたそうだ。この難易度の高さを乗り越え征服することが、日本のゲーム業界に足りないものではないかとも

 カプコンは近年、海外で売れるタイトルに比重を置いている。当初、海外を視野に入れた展開を周囲は無理と決めつける人が多かったが、簡単に無理とあきらめていいのかと稲船氏は声高に語る。経営サイドは金もうけのことを、クリエイターはユーザーが求めていることを常に考えている段階で、大きな隔たりがあることは折り込み済みであれば、まずはクリエイター側から経営のことを考えてほしいと歩み寄りを求めた。経営に限らず、ゲーム作りに求められるのは、ただゲームが好きで詳しいだけでは自慢にもならず、いろんなことを知っていないと駄目と、分からないことを紐解いていく楽しさを思い出してほしいと語った。

 ここで稲船氏は、サッカーでもしブラジル相手に3点取られたとしたらどうしますか? と会場に問いかける。「ディフェンスに8人回して4点目を取らせるなと監督は絶対言わないでしょ? むしろ逆で、8人で攻撃しろというはずです。今の日本は点を取られているのに、一生懸命守れと言っているようなもの。とにかく守れ、出血を抑えろと経営陣は言っていますが、スポーツを考えれば分かるでしょ?」と鼻息が荒い。ではもし、ブラジルに3点リードしてたらどうか? 「3点を守ろうとディフェンスを厚くするのは愚策。僕ならばさらに攻撃を厚くし、4点目を取りに行く策に出ます。攻撃は最大の防御。調子のいい時こそ、攻めに出ないといけない」と、日本のゲーム業界は攻めの姿勢を見せるべきと締めくくった。

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