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「遠隔地とキス」を発展させると「どこでもドア」になる? 触覚デバイスがもたらすコミュニケーションの未来像とはあの“梶本研究室”に行ってみた(前編)(3/3 ページ)

電気通信大学のある学生が「遠隔地の相手とキスができるデバイス」を作った。電話やビデオチャットでは伝わらない「触覚」を、もし遠距離の相手に伝えられるとしたら――。同デバイスを開発した、電気通信大学 梶本研究室に「触覚デバイス」の未来を聞いた。

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いつまでも注ぎ続けられる「魔法のとっくり」

 この研究では、とっくりからお酒を注ぐ時の「トクトク」という心地よさに着目。音と振動によって本当にお酒を注いでいるような感触を再現している。

 とっくりを手に持ち、お酒を注ぐように傾けると、中から「トクトク」という振動が伝わってくる。本物のとっくりでは、中身がなくなってしまえばそれでおしまいだが、こちらはいつまでも注ぎ続けられるというのも面白い。

 目をつむって触れば本物と見分けがつかないほどリアルな感触なのだが、実はこの振動は内部に仕込まれたスピーカーによるもの。スピーカーから本当に「トクトク」という音を流すことでこの触感を再現しているのだそうだ。

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開発当初は「無限とっくり」と呼ばれていたこともあったとか
とっく、とっくとお酒を注ぐ感触がリアル!

温度によるファントムセンセーション

 ファントムセンセーションというのは、皮膚のある2点を刺激したとき、その中間点を刺激されているように錯覚してしまう現象のこと。これを「温度刺激」でも再現できないだろうか――というのがこの研究だ。

 パネルの白い部分はヒーターになっており、ここに前碗部を置いてスイッチオン。しばらくしてヒーターが少しずつ温まってくると……なるほど、確かに本来は温かくないはずの中間点もじんわり暖かいような不思議な感覚。さらにこの状態で片方の温度を上げると、じんわり温かかった部分もそちら側へ寄っていくのが分かる。これだけでは「へえ、そういう現象もあるんだ」というレベルかもしれないが、次の応用例を見ていただくとファントムセンセーションの面白さが分かってもらえるはずだ。

2カ所ある白い部分がヒーター。スイッチを入れると、ここが徐々に温かくなっていく
こんな風に腕を置いて使用。ヒーターの部分だけでなく、その中間もなんとなく温かい

手のひらをボールが通過する!?

 先ほどは腕で実験したが、もしも手のひらと手の甲に刺激を与えたらどうなるだろうか? この実験では、手のひらと手の甲に振動デバイスを取り付けることで、手のひらの中を物体が通過していくような感覚を表現している。

 付属のPCモニタには手のひらと球体が表示されており、球体はマウスで上下に動かすことが可能。球体が手のひらを通過すると、その動きに合わせて振動デバイスがブルッと震えるという仕組みだ。先ほどの「片方の刺激が強いと、中間点もそちらへ移動する」という性質も利用しており、物体が手のひら側から手の甲側へと通過していく感覚も味わえる。

 本来「手の中」に触覚はないはずだが、試してみると確かに物体が手の中を通っていくような感覚がある。ファントムセンセーションの面白さが理解できるユニークな研究だ。

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手のひらと手の甲に振動デバイスを装着。先ほどのファントムセンセーションの応用だ
マウスで球体を動かすと、なるほど手のひらを球体が通り抜けていく感覚がある

押した感触が手のひらに伝わるタッチパネル

 タッチパネルの裏側に電気触覚ディスプレイを取り付けることで、押した感触が手のひら側にも伝わるようにしたタッチパネル。画面に表示されたボタンをタッチすると、その裏側にピリッとしびれるような感触が走り、どこが押されたかを手のひら側でも感知できるというものだ。

 あくまで電気的な「ピリッ」という刺激なので、“押された感覚”としてはやや不自然だが、タッチパネルに「感覚」を付加するアイデアは面白い。スマートフォン用アプリなどでは、音や振動でユーザーに感触を伝える工夫がなされているが、その発展形としても使えそうだ。

パネルをタッチすると、持っている手のひら側にも押された感触が伝わってくる
電極が手のひらにフィットするよう、ジェルシートのようなものが挟まれている

続きは後編で――

 以上を見て分かるとおり、展示されていた研究の多くは「触覚」がもたらす新しい感覚に着目したものとなっている。

 実際に展示のいくつかに触れて感じたのは、「やはり触覚は面白い」ということ。腕をアリが這い上がってくる感触にぞわりとしたり、単なるストローの動きにえもいわれぬ「気持ち悪さ」を感じたり――といった体験は、従来の視覚・聴覚中心のメディアでは絶対に経験できなかったものだ。視覚や聴覚に比べればまだまだ未開拓な分野だが、「触覚」が持つポテンシャルについては十分に感じていただけたのではないだろうか。

 長くなったのでこの続きは後編に。次回は梶本先生に、研究室の指導方針や触覚デバイスの未来、今後への課題などについてお話をうかがっていく。

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