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わたしは暴れん坊ガキでした――松本零士トークショー全掲載ニコニコ超会議(5/5 ページ)

ニコニコ超会議の超鉄道ブースで開催された松本零士氏のトークショーがあまりにも縦横無尽だったので全文掲載してみる。

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松本 わたしの時代はまだ、全体に緩やかな緩やかな。なにしろライオンと決闘したくて、鉄砲担いでケニアのサバンナをうろつき回ったんです。ライオンを挑発して、向かってきたら撃ってもよろしいと。そうでなければ撃ってはダメだと。そういうことで、ライオンを挑発したんです。でも、そういう人間はライオンも知っていて、くるっとお尻を向けて行っちゃうんです。突撃してくれないんです。なので残念ながら、ライオンとの決闘はできませんでした(笑)。少年の日からのアフリカ探検隊の夢、それからキリマンジャロに登ろうとして、ケニア領からタンザニア領に入ったためにタンザニア兵に取り囲まれて、双方ライフル向け合ってにらみ合いになって。そこの道が国境だと言われて「ああごめんなさい、ソーリー」と言って缶ジュースを上げたんですね。そしたらお互い鉄砲が下がりまして。で、向こうも「これ飲め」とビールビンをくれたんですよ。レンタカー借りて。四駆ですね。運転してますから。帰りわたしはケニアの草原を酔っ払い運転しました。でもケニアの大草原を酔っ払い運転しようが何しようが、あそこではね、取り締まりの警官はいませんから平気です。ゾウが掘った穴に落ちなければいいんです。ええ。でも穴にも落ちました実は。

向谷 大丈夫だったんですかそのときは。

松本 木にロープを結びつけて。後ろにウインチが付けてあるんですね。それではい上がりました。そういうことで、いろいろ面白い体験が、我々の世代が歴史上、そういうことができた最後の世代なんです。アマゾンでワニと決闘して、そのまま焼いて食っちゃいましたしね。ピラニアも刺身で食っていて。待てよ、と。淡水魚を生で食うとやばいんですね。寄生虫で。途中から塩焼きにしましたけど、一緒に来た友人たちみんなに食わしたんです。誰も何もなかったですけど。そういったことができた最後の最後の時代。いまは動物保護条約とかあって、絶対にそういうことをさせてくれない。国際情勢がもっと厳しくなって、いまはアフリカに行っても車から降ろさない。ライオンなんか車の上を歩いてますからね。それからマチュピチュに行って、てっぺんまで登りました。それからナスカの絵文字の上を十分に歩き回りました。そういうことができた最後の世代ですね。だからいい時代に生まれたなぁと。

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 一回だけ大ドジ踏んだんですよ。上野で「ミロのビーナス」が来たんですよ。本郷3丁目で下宿しているとき。行ったんですが、延々と何時間も並んで、ビーナスの前を通るのは15秒くらいしかない。わーっと押されて。いつか本場に行ってみるからいいや、なんてその時は考えて。20代になってからフランスに行けたんです。で美術館でミロのビーナスに出会えた。「ああこれだ」と。で、丸い大きな台の上に立ってるんです。足の指先に触っちゃったんですね。そしたらピーッと笛を吹かれて怒られてしまいまして。触っちゃいけないんです。だから日本人の中でミロのビーナスの足の指に触った、わずかな男ですよね、わたしは。

向谷 (笑)

松本 でもそれで怒られて。「お前は何をやってる」と言うので「学生です。漫画家です」と言ったらニコーっと笑ってね。それならいいや、と許してくれました。罰則は受けませんでした。カツーニスト、漫画家だと言うとね、みんな優しくなるんですよ。もっと見たいか? といろいろ教えてくれたりね。写真撮影はいかん、と言うところでも「俺はあっちを見てるからな」と言って向こうを向いちゃうんです。その間に撮れ、という。そういう風に漫画家というのは世界上唯一、確執のない、争いのない、平和なジャンルです。だから世界中と仲がいいです。1カ国ともケンカはありません。これからもそうしてやりたいと思ってます。

向谷 先生最後に、来年は画業60周年じゃないですか。何か計画されていることはあるんですか?

松本 自分の頭の中では何も計画してないんですが、実は自分が描いている物語は、999もハーロックもヤマトも、おいどんも何もかも、自分の中では1つの物語なんです。それを意識しながら描いていて。でもそれを全部そろえて描くとカーテンコールになりますよね。カーテンコールってのは「ああこいつくたばるな」と思われるんで、まだカーテンコールはやりたくないと。しかし何かは描きたいと思って、いま一生懸命、もう、筋書きはできあがってる。ただしまだ、カーテンコールじゃない。

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向谷 カーテンコールじゃない何かが、60周年に向かって……。

松本 そうです。それからいま、3Dの、これは残念ながらメガネをかけて見る映画ですが、キャプテンハーロックを作っています。年末あたりがだいたいできあがり。それからゴールデンウィークに、隅田川に「ホタルナ」という、ヒミコに続く遊覧船が走ります。蛍、ルナ、月の蛍という意味ですね。夕方から暗くなってくると、後ろ半分がぽやーっ、ぽやーっと光ります。それはものすごい防弾ガラスの中に物体が仕込んであって、静電気を通すと光るんです。中に乗ってる人は気がつきません。外から見てると光ります。それがもうすぐ、300人乗りです、今度は。これが走ります。そして真ん中に屋上の甲板を作って、上まで出られるようにしました。今度は。ただし全体ガラス張りでしょ。下からカメラ見てスカートの中を写したら捕まるんで、その角度を調節するのに苦労しました。でももうすぐ走ります。そしてスカイツリーが見える一番いい所で、ヒミコとホタルナがすれ違うように、ダイヤの組み替えを東京観光汽船の社長さんがしてくれました。これがもうすぐです。そういうことをやりながら楽しんでる。わたしは子供の頃から模型を作るのが大好きで。飛行機の模型から何から。ですから(超鉄道ブースの)隣にいま、はやぶさ、イトカワに行きましたよね。糸川先生にも直接お会いして、糸川先生が設計された高速度研究機というね、航空研究機の機械を、わたしが木を削ってソリッドモデルで作ったのを持って行って、そしてお見せしたんですよ。サインをもらおうと思って。そしたら「これよくできてるな、俺にくれるか」となったから、いやいやあげちゃったら何もならないんで。裏に糸川英夫、とサインをいただいたのを置いてあります。ですからはやぶさについても、糸川先生から始まる思い出があるわけです。はやぶさという名前も、実は戦争中の戦闘機隼、糸川先生も関与されてるはずです。設計の。そしてはやぶさを運んだH-IIBロケットやああいうものの心臓部の大事なものは、わたしの弟が作った。そういう、兄弟分業なんです。ホタルナもヒミコも設計は、最終的には弟が仕上げて、さらに設計部に回して完全版にして。部材の指定とか、そういうものは弟がやって。私もそういう所に行きたかったんです。機械工学。ところがあまりの貧乏でね。自分で稼がないとどうにもならないのであきらめて上京したわけです。だから大学ばっかりの下宿なんて、浪人もいましたけど、あのもの悲しさね。俺も行きたかったのに。でも弟がわたしの夢を果たしてくれた。兄弟合作でいろんなことができるわけ。弟2人おりますけど、それぞれその道の専門家になってくれました。ですからなんか分からないことがあるでしょ。数字上のややこしいこと。「おいこれはどうすればいいんだ」と言うと、ぱぱぱぱーんと答えが返ってくるわけ。そう描いときゃ間違いがないわけ。わたしは7人兄弟の真ん中ですけど、2人弟がいて。この弟2人が専門家なんで、誠に誠に具合がいいです。するとその逆もあるんで。このハッチの強度デザイン、設計をやってくれと言われて。超深海艇ですね。潜水艦のハッチの設計とデザインをやりまして。

向谷 潜水艦ですか!

松本 潜水艇ですね。それでわたしが「あれどうした?」って言うと「使ったよ」と返事が返ってきましてね。実際に潜ってる。そういうのを兄弟で、分業でやってるわけです。お互いに。

向谷 じゃあもう来年は新しいことも含めて、いろいろなものが出てきますし、これからもご兄弟でコラボレーションされる……。

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松本 兄弟でがんばる。弟は実はいま早稲田の大学院の教授で、生産システム工学というものを学生に教えている。そしてその次の世代の教育をしているわけです。

向谷 松本先生の話を聞いていると、10代の頃より10万倍発想が広がってるとお聞きしましたけど。ここに来ている人たちも、どうしてこうなるんだろうと思いますよね。コツはなんですかね。

松本 いや宇宙は広がってるから。皆さんもそうですよ。願望、夢、子供のときより大きくなってるでしょ。その果てが。叶おうが叶うまいが、こうならいいなという思いが、子供のころより知識が広がっていますから、子供の時より遙かに遙かに巨大になっているはずです。それはお互いの夢を大事にする、しなければならない。だから人の夢を笑うな、人の夢を笑う奴は地獄に落ちるぞ、わたしはそう思ってる。ですから皆さんの夢を大事にして、楽しくがんばってください。夢は叶う場合もあります。叶わない場合もあるけど、叶ったときはうれしいです。残念ながら宝くじだけはわたしは当たらないんですけどね(笑)。

向谷 それ夢ですかそれ?(笑)

松本 これも夢ですよ。ただ当たったためしがない(笑)

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向谷 分かりました。ずいぶんと長い時間、ありがとうございました。松本零士先生には、ちょっと今日は普段の、絵の話やそういった話よりも、なんでしょうね、「これだから松本零士先生だったんだ」ということが分かった気がしますし、夢の話ね。すごく心の中にささっと入ったんじゃないかと思っています。今日は本当にありがとうございました。

松本 わたしはガキのときから関門海峡で貨物船の腹くぐりをしたり、山に登り、木から落ち、それからインド、アフリカ、アマゾンを駆け回り、そういう、ガキのときから正直言うと悪ガキだったんですね。机に座って静かに漫画描いたり勉強してるガキとは違ったんです。暴れん坊だったんですよ。いっぱい骨折っております。アキレス腱もブチ切れたし。でもそれがマンガを描く上の大事な芯になった。だから暴れ回らなきゃダメなんですね。ですから、まだ遅くないです皆さんのお顔を拝見していると。存分に暴れ回りながら、そして自分の夢を果たしてください。暴れ回るということは、体力を維持するのと一緒に健康も維持してくれるし、夢も維持してくれるわけ。わたしは貨物船の腹くぐりをやってたんですよ。むちゃくちゃでしょ。関門海峡で。巌流島まで泳ぎに行こうと思ったんだけど、残念ながら潮流が激しすぎて、巌流島まではついに行けませんでした。これが生涯の、悔しいんですね。行っときゃよかったと。無理してもおぼれても行けばよかったなと。潮流に押し流されてダメでした。でも関門海峡で泳いでたというのがね。海底やら行って魚を取って食っていたんです。そういう悪ガキだったんです。暴れん坊ガキですな。ですから柔道や剣道やって骨が折れたり、打ちのめされたりですね。剣道は背が低いから損ですよ。上からぶったたかれて、後頭部に来るんです。竹刀が。頭の後ろがじーんときて気絶しそうになるんです。もうちょっと食い物があればわたしは、10センチか20センチ大きくなっていたと思うんですが。残念ながら162センチで止まってしまった。これは食い物のせいなんです。恨めしいです。なので皆さんはしっかり食べて、がんばってください。

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