ボカロ曲の動画が超お手軽にできちゃう3Dアプリ「キャラミんStudio」を使ってみた:誰でも簡単に使えるミュージックビデオ作成ソフト
「これは3DのGarageBandだ」。使ってみてそう確信した。
AHSが9月26日に発売する「キャラミんStudio」は、ボカロクリエイターの裾野を大きく広げそうだ。
音楽を制作するツールとして、ループシーケンサーというものがある。もともとはACIDというソフトが始まりで、現在最も普及しているものはAppleのGarageBand。あらかじめプロが作った楽器のフレーズを1小節、2小節、4小節とドラッグ&ドロップして、実際にその楽器のフレーズを弾かなくても組み合わせだけで音楽が出来てしまう、というものだ。いまはほとんどの音楽制作ツールにこの機能が入っている。
もしも自作曲のPV(プロモーションビデオ)をこのくらい簡単に作れたなら。歌手であるVOCALOIDキャラクターが歌い踊ってくれたら。
そんなソフトが出てしまった。
「キャラミんStudio」。公式には「誰でも簡単に使えるミュージック・ビデオ作成ソフト」とあるが、中でも「踊らせる」ことに特化している。3Dキャラクターに、手を振る、ターンする、足踏みをするなどのダンスモーションを与えて、それを自由に組み合わせることで、アイドルやダンサー、シンガーが踊っている動画を作ることができるのだ。「ボカロ曲を作ったけど動画が作れない。でも、自分でMMDでやるのは難しそうだし、動画師さんに頼むのも大変だ」といったボカロPは、このソフトに救われることだろう。
実は「キャラミん」には無料で配布されている、「キャラミんOMP」と呼ばれている製品がある。こちらはMP3楽曲を再生するときに、勝手に振り付けをしてくれるという再生向けプレーヤーソフトだ。ある程度遊べはするが、ダンスの振りは自由度が低いため、このソフトだけでPVを作るのは難しかった(やった例ももちろんある)。今回発売される「キャラミんStudio」はモーションと、カメラワークをプリセットから指定するだけで、自然な「歌って踊れるアイドル」が作れてしまう。
その「歌って踊れるアイドル」は声の主と同じでありたい。このアプリには、AHSのVOCALOIDキャラである結月ゆかりのほか、インターネットのメグッポイド「GUMI」まで搭載している。「ままま式」だ。初音ミクは? プリセットにはないが、キャラミんに出演してもらう方法がある。MMDモデルを読み込めばいいのだ。このアプリはMMDのモデルデータをインポートし、使うことができる。振り付けはこのアプリに設定されているものを使う必要があるし、ステージデータも独自のものなので、そのままでは使えないが、さまざまなキャラクターを自由に踊らせることが可能なのだ。
MP3ファイルを読み込み、キャラクターを選択すれば、勝手に振りつけてくれる。ビートを検出し、激しい曲調のところではそういうモーションをつけて、穏やかなところでは待機状態になったりする。これだけでもPVはできてしまうが、モーションを小節単位で指定したり、カメラワークを決めたり、さらに、口の動きを指定すればリップシンクもできる。
3DソフトのMikuMikuDance(MMD)およびその派生ソフトを使えば、自由に3Dアニメーションを作ることは可能だが、ダンスの振り付けについてまったく知識がなかったり、腕や手やカメラをどう動かしていいかは、かなり勉強しないといけない。その入口で脱落したり、ほかの人が作ったモーションを借りて動かしてみたものの、そこから進めない人も多いはずだ。かといって、そういう人向けのソフトが高いお金を出せば手に入るかというとそうではない。「MMDで挫折した人が、80万円のMayaを買えばできるようになるかというと、そうではない」と、AHSの尾形友秀社長は言う。おそらく3Dのダンス動画作成ツールでは最も簡単なソフト。そういうMMD挫折者の1人である自分に、3DPVができるかどうか、実際に試してみた。
振付が楽しすぎるのでアイドル研究してみようかと思うくらい
読み込ませてみたのは、結月ゆかりに歌ってもらった「大きな古時計」。ぼかりすのレビュー記事を書くときに作ったものだ。
自由に使えるキャラクターに結月ゆかりが含まれていたので、再利用することにした。MP3ファイルを読み込むと、自動的にビートを検出する機能だけでもなかなかすごいのだが、これは産総研の後藤真孝さんの論文を元に開発したものだという(後藤真孝,村岡洋一 「音楽音響信号に対するビートトラッキングシステム」)。
なるほどよくできてるはずだ。このビートを元にして、ダンスモーションが割り当てられる。ボーカルパートを考慮しているわけではなくて、曲の激しさなどで判断しているらしい。カメラワークも勝手によさげなものを配置するそうだ。
せっかくゆかりさんが歌っているのだから、リップシンクをしてもらわないと。ひらがなで、歌詞を配置していくのだが、それほど手間ではない。というか、これ以外で手間のかかる部分はほとんどない。2、3分の曲であれば10分もあれば十分だ。ただ、ここはVOCALOIDの.vsqxファイルやUTAUのustファイルを読み込んで、自動的に割り振ってくれるとさらに楽なんだが。実はCeVIOのファイル読み込みはこっそり実装されているらしい……。
次に、ダンスモーションをカスタマイズしていく。ダンスモーションはプリセットされたものが200種類以上用意されている。待機パターンだけでも「待機_sexy」「待機_ロボット」「待機_縦ターン」「ゆらゆら」などいくつもある。ステップや手の振りなど、ファイル名からプレビューで振りを確認しながらドラッグ&ドロップで配置していく。異なるモーションの間の動きは自動的に補間してくれるので、特に考える必要はない。これはほんとに、GarageBandのようなループシーケンサーそのものだ。
歌詞の内容に合わせて振り付けを考えていくのが実に楽しい。「大きな」というところでは手を広げるモーション。「チクタク」ではチッチッという手の振りといった具合に当てはめていく。ステップもいろいろあるけど、本物のアイドルのように歌わせるために、振り付けの勉強をしようかなと思っちゃうくらいだ。70年代風とか80年代風とか、年代別アイドルのモーションをパックで出せばそこそこ売れるんじゃないだろうか。あと、版権の問題はあるだろうけど、マイケルのモーションとか。
カメラワークも、3Dソフトならば視点をどこに置いて、どう動かすといったことを細かく指定しなければならないのだが、キャラミんスタジオでは「右」「左「アップ」「クレーン正面」などから選んでいくだけ。実に楽ちんである。細かい設定もできるので、慣れたらここを工夫するのもありだろう。
使い始めてから1時間もしないでできたのがこの動画だ。静かな曲なので動きも少なく、あまり参考にはならないかもしれないが、これまでほとんど静止画しか使っていないPとしては、会心の出来なのだ。
今回は時間の関係で使わなかったが、初音ミクをはじめとする、MMDモデルは、キャラミんStudioで読み込み、使用することができる。ただし、モーションとの相性や、リップシンクのときの口の表情が揃っているかどうかにも依存するため、どれでも完璧というわけではないようだ。気になる人は、無料版のキャラミんOMPを使い、.pmd、.pmxファイルを読み込んで試してみるといいだろう。キャラミンOMPのダウンロードはこちらから。
中高生がお小遣いで買えるように
尾形社長は、このソフトを「クリエイターじゃないところに売っていきたい」と言う。メインターゲットは中高生だ。だから、価格も6980円に抑えた。ダウンロード版なら5480円だ。基本的なモーションは200種類以上入っているが、追加モーションも数百円単位で買えるようにする。キャラクターやステージもキャラミんストアで、アプリ内から購入できる。イカ娘のモデル、ステージや、けいおん!風ステージといったものもダウンロード購入可能だ。
MMDの世界では、モデルだけでなく、ステージ、モーションが自由に配布され、それを再利用する文化ができている。キャラミんStudioには、こうした素材を販売する仕組みが組み込まれている。3D素材の市場化という意味でも、非常に意義深い製品といえるだろう。
キャラミんStudioには、AHSが販売している音楽制作ソフト「Music Maker」の機能限定版である「Music Maker Silver」も同梱されている。音楽素材をドラッグ&ドロップして曲を作っていけるソフトだ。音楽を作って、動画を作るところまでできてしまう、オールインワンパッケージというわけだ。
2012年10月に、MOOSTAという名前で始まったキャラミん。その後、販売元や製品名の変更を経て、今回AHSと組むことになったわけだが、「モーションシーケンサー」という新しい発想で、クリエイターの新たな裾野を広げていくだろうか。尾形社長は来年には英語版も出したいと言う。
9月26日には、「初音ミクV3」、「CeVIO Music Studio」という、2つの注目される歌唱合成ソフトがリリースされるが、同じ日に発売されるキャラミんStudioはそのどちらと組み合わせてもいける、楽曲投稿の最後のステップである動画制作を超カンタンにしてくれるソフト。こちらも要注目だ。
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