マンガやアニメを振興する「MANGA議連」とは? 日本漫画家協会理事の赤松健先生に聞いてきた
超党派の議員連合「MANGA議連」はどのようなアニメ・マンガ振興政策を目指すのか。設立総会に出席した赤松健先生に聞きました。
11月中旬、麻生太郎財務大臣を最高顧問とする超党派の議員連合「マンガ・アニメ・ゲームに関する議員連盟」(通称「MANGA議連」)の設立総会が開催されました。その後衆議院が解散、総選挙となったため、実際の議連としての活動は選挙後となります。
MANGA議連の目的はマンガ、アニメ、ゲームの振興、アーカイブ施設による蓄積、就労環境の改善、海賊版対策など多岐にわたり、業界側からは特にアーカイブ施設とアニメーターの就労環境改善について情報や要望を議連に提供・提案していきます。
日本漫画家協会理事として設立総会に出席した赤松健先生に、MANGA議連についてうかがってきました。
―― 赤松先生が関わるようになったきっかけは?
赤松 議連の結成にあたって、関係者の方から協力を打診されました。同時にこれまで表現規制反対派として活躍してきた山田太郎参議院議員にも参加していただくなど、マンガ、アニメ、ゲームなどのコンテンツに理解のある議員さんにも呼びかけて参加していただきました。
―― 解散総選挙は想定外でしたね。
赤松 選挙が終わると議員が入れ替わることもあると思いますが、選挙終了後にコンテンツに理解のある方が集まってコンテンツ推進議連として動き始めます。
クリエイター減税
業界側からMANGA議連に出ている要望の1つが、アニメーターの就労環境改善です。憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、困窮する国民を保護するために生活保護法が制定されています。例えば都内で一人暮らしの場合の生活保護費は13万円前後(自治体やその他の条件で額は変わる)で、この額を大幅に下回る収入の動画アニメーターがいることを知らない議員も多かったのです。
赤松 アニメ業界からは庵野秀明監督からアニメーターの現状を議員に説明していただきました。動画一枚描いて約230円、月収で7万5000円、年収でも100万円程度にしかならないことも。枚数が描けて上手い人はいいけれども現場が疲弊してこのままでは日本のアニメの危機となる。議員さんは一様に驚いていましたね。この仕事が韓国や他の国にとられてしまってもいいのかと。
赤松 そこでクリエイター(アニメ)減税で還付するなどの優遇策を提案しています。
―― 振興策としては補助金などの資金投入と、減税の大きく2つありますが、減税を提案した理由とは?
赤松 海外向けに日本の商品を販売しているTokyo Otaku Modeに、官民ファンドのクールジャパンファンドから15億円の資金が投入されましたが、ある議員から一部の商品(編注:露出の多い美少女フィギュア)について異議が上がり、この商品を取り下げました。お金を出すと口も出してくるのは避けられないため、減税を提案しているのです。
―― 減税策であれば、実績のある人だけがその恩恵にあずかることができ、そしてもっとも重要な点ですが、作品の内容にかかわらず恩恵を受けることができるわけですね。
「リベンジ」となるアーカイブ施設
業界から出ているもう1つの要望が、アーカイブ施設。漫画の原稿やアニメ、ゲームの制作資料など、本人や関係者が亡くなったり会社が存続できなくなった場合に、貴重な資料が散逸するのを防ぐためこれらを収蔵、展示および研究するアーカイブ施設が求められています。関西では京都精華大学が運営する京都国際マンガミュージアム、首都圏では明治大学が御茶ノ水に建設を計画している東京国際マンガ図書館(仮称)があり、特に後者は複数のアーカイブ施設との連携により、マンガ、アニメ、ゲームおよび関連資料の収集保存を進めています。
―― もうひとつの提案であるアーカイブ施設については、リベンジという話が出ていますね。
赤松 麻生政権時代に、アーカイブ施設としてアニメの殿堂をつくろうとしましたが、(政権交代後に)「国費でマンガ喫茶などけしからん」と潰されてしまいました。国費を投入した場合にこういった問題があるため、現在は京都精華大学と明治大学がアーカイブ施設を計画しており、これをMANGA議連でバックアップしていく。最高顧問の麻生財務大臣もかつての施策の「リベンジ」議連として賛同していただきました。
赤松 明治大学で(東京国際マンガ図書館を)推進している森川嘉一郎准教授とも交流があり、東北の復興や東京オリンピックの影響で建設費が膨れるのを懸念しているようですが、(前回うまくいかなかった計画に比べ)今回は民間と共同の施設なのでうまくいくと思います。
―― さきほどのTokyo Otaku Modeに横槍が入ったエピソードなど、マンガやアニメ、その派生物に対する表現規制がよく話題となりますが。
赤松 (青少年健全育成基本法にも関わる)馳浩議員から「この議連で表現規制は行わない」との発言も取り付けました。また知財に詳しい(児ポ法改正案で漫画を規制対象外に導いた)福田峰之議員などにも加わっていただきました。
―― 今回ゲーム業界からは誰も出席しなかったそうですが。
赤松 折り悪くゲーム業界の2つの団体が合併することになり(編注:コンピュータエンターテインメント協会(CESA)とソーシャルゲーム協会(JASGA)の合併)、誰を代表に出すかの調整がつかなかったのかもしれません。
こぼれ話:赤松先生のAppleコレクション
赤松先生には連載漫画執筆のお忙しい中取材に応じていただき、インタビュー終了後にはAppleコレクションを見せていただきました。「Windows 1.04が動くんですよ」とか「今、フロッピーを裏返しましたね」などと盛り上がり、1時間ほどパソコンマニア談義になってしまいました。
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