米と戦わず英蘭と戦わば勝てたのか?──艦これ提督的ウォーゲーム要務令「大東亜戦争」編:ワレ真珠湾ニ奇襲セズ!(3/3 ページ)
敗戦から70年の日に大東亜戦争のIFに思いをはせる。海軍と陸軍が対立しなければ日本は勝つことができるか。その1つのヒントをボードウォーゲームに求めてみる。
内部権力闘争で身を滅ぼす日本
大東亜戦争では、これまでのボードウォーゲームではできなかったもう1つの大きな“IF”を試すことができる。それが、「陸軍と海軍の対立」だ。日本では、陸軍と海軍の権力争いが戦争指導にも大きく影響を及ぼしていて、ただでさえ乏しい資源や兵力の有効活用ができなかったといわれている。連合国側でも、海軍の戦略と陸軍の戦略は大きく方針が違っていて、その調整は政治的な判断と仲介で行っていた。海軍からすれば、レイテ作戦などのフィリピン攻略は無駄以外の何物でもなかったという。
ゲームでは、連合国側は、海軍が行動できる海域をランダムに強制することで「政治的な交渉で作戦当事者の意思とは関係なく決まってしまう」事情を再現しているし、日本側は、陸軍ユニットと海軍ユニットが行動できる回数をランダムに決めてしまい、「米軍の太平洋艦隊が一挙に押し寄せてきたから海軍が作戦行動を行いたいのに陸軍の作戦が割り込んできて艦隊が動けない」という状況を作り出している。
資源の輸送を巡る海上護衛戦も
ゲームは、トランプのように山札からカードを引いて手札に加え、手札にあるカードから実行したい作戦やイベントを選んで行うか、カードを資源にして捨て札にする(消費)ことで配置した駒を動かしながら進めていく。
引けるカードが多いとそれだけ作戦行動もたくさんできるようになるが、日本が引けるカードの枚数は、占領している資源産出拠点から日本本土に輸送できた資源の量によって決まる。そのため、日本が作戦を実施して敵の撃滅と拠点の占領で得点するには、資源産出拠点を占領して、そこから輸送船で日本本土に輸送しなければならない。当然、連合国側は潜水艦で輸送船を沈めようとする。ここで、史実の南方攻略と海上護衛戦が再現できる。
こうして、フルシナリオなら1941年7月から1945年12月まで大東亜戦闘を戦う。それぞれ、戦争が終わるまでに獲得した得点の多い側がゲームに勝つ。主力駒(ゲームでは“ラージユニット”と呼んでいる。ゲームでは支援駒的な“スモールユニット”も登場する)の撃滅(除去)や戦争の段階に合わせた勝利条件を満たすとサドンデス勝利(講和)となる(史実は1945年8月でサドンデス)。
それ以外では、日本は拠点を占領すると得点(ゲームでは日本の得点を戦意と呼ぶ)し、連合国は、主要拠点(フィリピン、ハワイ、シンガポール、インド、オーストラリア本土)の保持と、工業地帯やイベント(ポツダム宣言やマンハッタン計画などがある)の実行で得点(ゲームではVPと呼んでいる)する。開戦直後の緒戦で次々と敵の拠点を占領して高揚した日本国民の戦意を、連合国の反撃で撃破した主要部隊や艦船の撃破撃沈や重要拠点の奪回占領で得た得点が上回ったときに日本は負ける。
大東亜戦争が終わってから70年がたって、幸いにして日本は大きな戦争や紛争に参加することはないままにここまで過ごすことができた。でも、これがこの先ずっと自動的にこのままとは限らない。70年以上前に起きた戦争といま起きうる戦争は同じものではないけど、それでも、大東亜戦争の“仕組み”を知ることは、これから起こりうる戦争を起こさないために何をしたらいいのか考えるために必要だ。
これまでも繰り返し話してきたけれど、ボードウォーゲームは、文献や図版ほどに細かく知ることはできないけれど、戦争の“動き”を直感的に把握できる。この関係は、設計図や写真とプラモデルの関係に似ている、って、もう何度も聞いて聞き飽きたってか。
私の話は聞き飽きても、8月15日に合わせて登場した大東亜戦争は、日本人がデザインした戦略級としては久々の作品で、かつ、これまでの同じカテゴリーの作品にはなかった視点でIFを試すことができる。購入は、書泉グランドのボードゲームフロアやイエローサブマリンなどのゲーム専門ショップ、または、ゲームジャーナルWebページでできる。価格は税別で6800円だ。
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