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「推しが武道館いってくれたら死ぬ」 たった1人の少女に“人生全て”をささげるドルヲタ女性・えりぴよさんの過激な愛あのキャラに花束を

大好きなアイドルのあなたは、生きてることがファンサだから。

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 「推し」とは、アイドルグループの中でもイチオシのメンバーのこと。グループによっては人気投票が行われることもあり、そうなると推しのためにドルヲタは全力を尽くすことになる。もちろん、自分の推しの人気が1位とは、限らない……。ちょっとさみしさを感じながらも、推しが可愛くて泣き、尊くて泣く。

 平尾アウリ「推しが武道館いってくれたら死ぬ」は、グループ内最下位人気の舞菜を応援するため、人生全てをささげるドルヲタ女性えりぴよさんの過激な愛を描いた作品。「大半」じゃないからね、「全て」。収入は全部舞菜につぎこんでいるため、買う服がない、だからジャージ。

高校のジャージに、適当にしばった髪の毛、両手にキングブレード。やったーカッコイイ……?(1巻81ページ)

 アイドルに無償の愛をささげるとはどういうことなのか。やっちまってるところも含めて、えりぴよさんの人生に迫ります。

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ローカルアイドルの悲喜こもごも

 まず、えりぴよさんが追いかけているアイドルグループ「ChamJam」について。岡山県で活動する、いわゆるローカル地下アイドル。全国区活動は今のところありません。CDも会場売りのみ。岡山の地下劇場でこつこつ頑張っています、が、ドルヲタ以外にはマイナーで無名。たまに大都会(えりぴよさんたちいわく、岡山市のこと)の動物園や商店街で活動するかんじ。

 しかし地道な努力で、熱心なファンは多いです。7人組の彼女たち。特にリーダーでアイドルの安定感あふれる「れお」は一番人気。ショートカットでしっかりものの「空音」も人気。

 えりぴよさんが推している舞菜はというと、なかなか人気が出ない。内気でシャイな性格が、かわいいんだけど……確かに積極性に欠けるところはある。

めっちゃかわい……鼻血! えりぴよさん興奮しすぎ!(1巻20ページ)

 もともと別にアイドルにそこまで入れ込んでいなかったえりぴよさん。「ChamJam」のライブをたまたま見たところ、一生懸命がんばっている子がいるじゃあないか。一目ぼれでした。

 以降、ドルヲタ仲間と「ChamJam」のおっかけを開始。あまりに極端な応援っぷりに(CD買い占め、常に最前列、彼女に積むために持ち物を売り払う、彼女のブログに数十件書き込む、そもそも女を捨てている、などなど)ファンの間でもひときわ目立つ、TO(トップオタ)になります。

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えりぴよさんの、無償の愛

 ドルヲタの生き方はさまざま。アイドルの活動をひたすら応援するスタイル。アイドルとの恋愛を夢見て追いかけるスタイル。誰推しと決めない箱推しスタイル、推しをコロコロ変えて楽しむスタイル。まだまだいろいろあります。

 えりぴよさんは1つ目。自分がどうあろうと、極端な話自分に舞菜が向いてくれなかろうと、彼女が幸せであればそれでいい、頑張っていてくれればそれでいい。

 舞菜はえりぴよさんに対してのみ「塩」だと周囲からはいわれています。塩対応とは、心のこもっていないそっけない反応のこと。対義語は神対応。

 本当のところ、舞菜は単に内気なだけで、えりぴよさんの応援を心から喜んでいます。けど、えりぴよさんへの緊張のあまり、近づいてきたら逃げてしまう、視線があったら逸してしまう。事情知らなかったら辛すぎだろうそれ。

 「舞菜は私がいなくても何も思わないだろうけど、私の人生には舞菜の1分1秒が必要なんです!!」(1巻23ページ)

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 「だってほら、舞菜は生きてることがわたしへのファンサだから」(2巻62ページ)

 いたって真面目です。ものすごい偶像崇拝ではありますが、ここまで言われると感動しちゃうよ。「好かれていなくてもいい」と割り切れるか。ぼくは無理かな。

「舞菜が武道館いってくれたら死んでもいい」。2回言った(1巻115ページ)

 「舞菜が武道館いってくれたら死んでもいい」と彼女は言います。物のたとえだとは思うけれども、彼女ならやりかねない。実際無関係な事故で死にかけている。

 一応彼女も、ある程度は欲があります。「わたしが一番舞菜のことを好きだって知ってる」というせりふ、そういう気持ちはふっとわきますよ、だって好きなんだもの。

 舞菜が別の女の子に親切にしていた時、さすがに自分にも笑いかけて欲しい、ってなる。いやいやそれ普通だから。あなたはよく耐えてるよ!!

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コミュニケーションがとにかく苦手な舞菜

 舞菜がえりぴよさんを避けているのは理由があります。えりぴよさんのことが好きだからです。LOVEの方です。

 アイドルが一人に肩入れしすぎたら、だめだよね。あくまでもアイドルとファンの関係じゃないといけないのは、ファン側が一番よく分かっている。

えりぴよさんが他の女の子といる時、舞菜は嫉妬する(1巻147ページ)

 舞菜には、えりぴよさんしかファンがいませんでした。なぜかって、……なんでだろう? 一要因は「えりぴよさんが全部CD買っちゃうから」なんですが。

 彼女「アイドルとしてのアピール」がものっすごく下手くそ。ステージ上でのトークはもちろん、話しかけてくるえりぴよさんに全然対応できません。うれしい、って言った瞬間自分の気持ちがせきを切ってしまいそうで、えりぴよさんに迷惑を掛けそうで。

 えりぴよさんはその気持ちを知りません。舞菜は自分に塩だ、とは感じていますが推し続ける。なぜなら「舞菜は売れるために頑張っているから、これでいいのだ」と思っているから。ここが決定的にかみ合わない。

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すれ違う、舞菜とえりぴよさん

「気功か!?」じゃないよ何言ってるの(2巻158ページ)

 舞菜とえりぴよさんの気持ちのすれ違いシーンは、大体コミカルに描かれます。舞菜がえりぴよさんと外で出会った時、どうすればいいか迷って精いっぱいポーズを取ります。ところがえりぴよさん、彼女が気功を送っていると勘違い。トンチキな反応をします。

 笑っていいシーンだと思う。でもこれ切ないですよ。要はえりぴよさん、愛されることに慣れてなさすぎる。

 ファンとアイドルでいるべきだと感じているえりぴよさん。近づきたいけど近づけない舞菜。壁はものすごく厚い。

プライベートで会った時、何もできない2人(1巻159ページ)

 電車でたまたま会ってしまった2人。えりぴよさんはうれしい。舞菜だって実はめちゃくちゃうれしい。でも言えない。自主的に舞菜の前から、えりぴよさんは去ります。舞菜はいろいろな思いがありつつ、やっと言葉を絞り出します。「いつも……ありがとうございます、握手……しにきてくれて」

 たかが握手、と思う人もいるかもしれない。けれど推しが自分のために時間を裂いてくれる、そこでしかお互い接触が持てない、アイドルとファンという暗黙の了解の関係内で幸せを感じられる、と考えるとものすごく特別なのです。

 なまじローカルアイドルで距離が近いだけに、特に舞菜側は苦しみ続けます。そもそも自分アイドルだったから、お互いひかれ合ったんだもの。そこは切り離して考えられない。

世界の中心じゃなく舞菜の前だけで、愛をさけぶえりぴよさん

 言葉にしないと、伝わらない。けがをし、お金がなく、握手会で1枚、5秒しか会話ができなくなったえりぴよさん。舞菜と共有する貴重な5秒を全力で活用します。

これは、伝わるよ、伝わったよ、伝わって!(2巻148ページ)

 「舞菜ちゃんの顔が好き、ダンスの柔らかいところが好き、一生懸命頑張ってるところが好き。わたしは舞菜ちゃんをずっと応援したいし応援できることが幸せ。舞菜ちゃんが存在してくれることが幸せ。同じ世界に生きてることが幸せで、大好き舞菜ちゃん大好きだよ!」

 最大限の愛の告白、ただしファンとしての。これえりぴよさんじゃなかったらヤバイファンだと思う。でもうまく距離感が取れない舞菜にとっては、ほとんどプロポーズ。モヤモヤとか嫉妬とか言えない苦しみとか、全部吹っ飛んじゃうよ。えりぴよさん最高にかっこいいよ。

公式ページより。こんな幸せそうな2人は今のところ、ないです

 公式ページではえりぴよさんと舞菜がハートを作って、恐らくチェキを撮っていると思われる絵が掲載されています。でも、実はこんなシーンないです。2人がチェキを撮ろうとした時、えりぴよさんは気を使いすぎて写真の端っこに行ってしまったくらい。

 2人が幸せになるにはどうすればいいんだろう? 舞菜が武道館に行けばいい? でもそれじゃ舞菜の秘めた思いは全然報われない。えりぴよさんあなたは本当に「武道館にいってくれたら死ぬ」だけでいいの? 答えが現時点では全然分かりません。

 ああ、アイドルは、ドルヲタは修羅の道よ。

(C)平尾アウリ/徳間書店

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