泥まみれのおじさん、叫ぶ マドンナと中年俳優の苦い思い出「バイプレイヤーズ」第10話:ねとらぼレビュー
ドロでもかぶって反省しなさい。
テレビ東京のドラマ24「バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~」。第10話は「バイプレイヤーとマドンナ」。
マドンナ。「みなが憧れるような美しい女性」のような、ちょっと偶像めいた、含みのある言葉です。今回出てくるマドンナは、夏川結衣さん。
今までのおさらい
名脇役俳優として活躍する6人。本人が本人を演じる形式のドラマです。遠藤憲一さん、大杉漣さん、田口トモロヲさん、寺島進さん、松重豊さん、光石研さん。何度か決裂しましたが、10年前に撮った自主制作映画「バイプレイヤーズ」のフィルムを探し出し、完成させるためにシェアハウス生活中。
そのフィルムが見つかったという。持っていたのは、共演していた夏川結衣さん。なんでまた。
プレイボーイ光石研
かつて「バイプレイヤーズ」で共演していたマドンナ・夏川さんと、光石さん。ところが当時、光石さんが、夏川さんをストーキングしていたらしい。執拗なアプローチが問題になり、ただでさえ監督問題(前回参照)などでギスギスしていたメンバーがバラバラになる決定打になってしまいました。
遠藤「あの頃の光石さんほとんどストーカーだったもんね」
光石「向こうが嫌がってるの気が付かなくて」「ぼくが彼女に夢中になりすぎてダウンして。ラブシーンの撮影をドタキャン。あれで結衣ちゃんが降板。バイプレイヤーズの撮影は中止になりました」
女性大好きなスーパープレイボーイ(という設定)の光石さん。でもストーカーはまずいよ。シェアハウスの面々+ジャスミンは光石さんに、テレビの謝罪バラエティで、公的に夏川さんに謝れとはっぱをかけます。
こういう番組、謝る方も謝られる方も出たくない! あまつさえ応援団として、光石さんを励ます係の貧乏くじを、松重さんと遠藤さんが引くハメに。なんかこの「相方」の2人、損な役多くないですか?
ドロなんてかぶらなくていい
しかし後半、ストーキングの真相が明らかに。夏川さんが光石さんに惚れ込んでしまったため、光石さんが自分がストーカーになったというように、ドロをかぶったというのが今回の真実。光石さんは10年間、バイプレイヤーズの仲間をだまし抜いていた。
すごい、俳優だ。
松重「自分からドロかぶったってことですか」
遠藤「光石さんらしいっちゃらしいけどね」
光石「違うよ、そんなかっこいいもんじゃないよ」
遠藤「かっこいいなんて思ってないよ」
悪役になったフリは、逃げである。遠藤さんの言うとおり「かっこいいなんて思ってないよ」。ドロをかぶった演技なんてせずに、ドロくさいくらい正直な方がいい。
光石「ぼくは何があってもあそこに行くべきだった。たとえ自分が、本気でのめり込むことになったとしても、ぼくなりの覚悟を持って、結衣ちゃんと向き合うべきだった」
光石さんが演技せず、本心を泥まみれで叫ぶシーン。最高にかっこわるくて、かっこよかった。
話の流れとしては、3話「バイプレイヤーとスキャンダル」で、光石さんが不倫してしまった回と対比になっています。スキャンダルは対外的なトラブル。一方今回は内輪でのトラブルです。
もっともみんな大人です、過去のことは自分たちにも責任があると飲み込んで、光石さん一人のせいにしていない。ただ、光石さんは1話からずっと、ことあるごとに恋愛体質を厳しく指摘されています。「すぐ惚れちゃうんだから」と。そういえば1話で、ジャスミン見てニヤニヤする光石さんを叱っていたの、遠藤さんでしたね。
君はいつまでもマドンナ
今回のMVPは夏川さんでしょう。
「マドンナ」は、気高い。芯が通っている。みんなが憧れる。「紅の豚」のマダムジーナの立ち位置みたいなの。
夏川さんは、光石さんがドロをかぶり続けているのを見て、一度も受け入れようとしませんでした。かと言って形だけ自分が謝るでもない。お互い論点がそこじゃないの分かってるから、終始、凛としています。
夏川さん、光石さんを殴る。「変わっていない」ことを見せる芝居的側面がある行動で、光石さんは感情を噛み締め直せた。
最後の最後に、夏川さんは人前で見せなかった自分の感情を、光石さんにだけ、見せます。シェアハウスのみんなは、ここは知らなくていい。
叫ぶ男。見守る女。年齢を重ねているから、とても深みがある。けれども、実質は若者の行動と今回のドラマ、あんまり変わらないと思う。
男3人でサッカーをしている場面が本当にいい。どんなプロフェッショナルになっても、楽しいことを探し続ける「男の子」。「バイプレイヤーズ」が一番描きたいのはこういうところだと思う。
(たまごまご)
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