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クイズ王はなぜ「ですが問題」を最後まで聞かずに答えられるのか? 勝負を決める「先読み」思考法(1/2 ページ)

理屈は分かってもマネできない。

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 こんにちは、東大生クイズ王、略して東大王の伊沢です。

 先頭打者宣伝ですが、6月28日にテレビ朝日系で放送される「くりぃむ VS 林修!超クイズサバイバー」という番組に出演しております。クイズ王チーム10人が、芸能人チーム総勢50人と早押し勝負をするという内容になっており、僕もクイズ王チームの一員としてバチバチやっとるわけです。

 クイズ王が何者か、については以前の連載記事で説明しましたが、では具体的にクイズ王というのはどういうスキルを持った人間なのでしょうか?

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 クイズ王というからには、普通の人にはない能力が備わっているはずです。よもや、権威だけでそんなにクイズが強くない、というはずはないでしょう。

 クイズ王がそうでない人と決定的に異なる要素は、豊富な知識以上に、その圧倒的な「早押し力」です。

 たとえ最後まで聞けば確実に答えが分かる問題でも、「ここまで聞けば分かる」というギリギリの場所でしっかりとボタンを押す、その技術こそがクイズ王の実力といえるでしょう(具体的にはぜひ番組を!)。

 そして、その技術が最も際立つのがいわゆる「ですが問題」

 「日本一高い山は富士山――ですが、世界一高い山は何でしょう?」というような、文章が2段階になっている問題です。バラエティ番組でのひっかけ問題やCMでの商品宣伝にも使われています。

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 そんな色物ポジションの「ですが問題」も、クイズ王が登場する番組では、最もクイズ王の強さを引き立たせる問題になります。クイズ番組で、「ですが」が読まれる前に押して正解するクイズ王を見たことがある人も多いのではないでしょうか。

 でも、そもそもなぜクイズ王たちは「ですが」の後が分かるのでしょうか。ある種ヤラセにすら見えてしまうようなスピード感は、ただ単に知識があってもできるものではありません、だって問題文聞いてないんだから。

 ということで、これを読んでくださる皆さんにはこっそり、「なぜクイズ王はですが問題をあんなに早く押せるのか」ということについて解説したいと思います。

「ですが問題」の全て

 ここでは、僕が過去に正解した「ですが問題」を例にとって説明しましょう。

 僕は2011年の「第31回高校生クイズ」全国大会準々決勝で、

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  • Q.「小説『三四郎』の作者は/」

 というところでボタンを押して、正解にたどり着きました。

 この問題の続きは、こうなっています。

 「小説『三四郎』の作者は夏目漱石ですが、小説『姿三四郎』の作者は誰?」

 答えは「富田常雄」です。答えを聞いてもイマイチぴんとこないですよね……。

 『姿三四郎』は柔道家を主人公とした小説で、黒澤明監督により映画化もされています。が、僕がボタンを押す前には姿三四郎関連の情報は一切出てきていません。答えを判断するのに使える情報は『三四郎』と「作者」の二つだけです。

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 果たして、この少ない情報からどうやって答えを導き出すのでしょうか!?

 と、散々自分をアゲたところで、種明かしに参りましょう。

 まず注目すべきは「作者は」のところ。おそらくこの後には「作者は夏目漱石ですが」と続くのが自然です。となると、「ですが」の後も作者を聞く問いのはず。ここで最終的に作者以外を聞くのであれば汚い問題文になりますし、「ですが問題」にする意味もありません。テレビでもそのような問題が出たら視聴者からのブーイング必至でしょう。

 この問題が何らかの作品の作者を答えさせるものだと分かりました。次に注目すべきは『三四郎』の部分です。『三四郎』を、お笑いで言うところの「フリ」に使っているのだから次に来る作品も三四郎がらみなはず。

 可能性の1つとして考えられるのは、「『三四郎』くらい有名な、同時期の作品」です。選択肢はたくさんありますから、この場合は早く押しても正解するのは至難の技です。

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 もう1つの可能性は、「『三四郎』に似ている名前の作品」を持って来ること。万が一『五六郎』なんて名前の作品があればそちらが出題される可能性もありますが、有名さを考慮するにこのパターンなら『姿三四郎』が妥当そうです。

 ここまで考えて、前者(同時期の作品)と後者(似た名前の作品)を比較しましょう。前者は答えになりそうな選択肢が多すぎる上、「何でそれを持ってきたの?」という違和感も生じます。問題文としては妥当でも、納得感の強い一問にはならないでしょう。それに対し後者は名前が似ていて、同じ文学作品で……という完成度の高さ、わざわざ「ですが問題」として問う妥当性などの面で優れています。

 ということで、ここで出題されうるのは後者・『姿三四郎』の作者である富田常雄だ、となるわけです。一件落着。

 もちろん、富田常雄のことを知っていないとこの押しはできません。しかも、ここまで書いたような思考プロセスを、問題文の構造を把握してボタンを押してから答えるまでの数秒でたどらなければいけません。知識に加え、そのような思考プロセスの鍛錬を行っているのが、画面の中で生意気にも鎮座しているクイズ王なわけです。

 しかし、思考のヒントは上記のプロセスにほぼ全て含まれています。以下の4つのことを踏まえていれば、あなたでも「ですが問題」を楽しめるはずです。

  • 「ですが」の後ろ側は、「ですが」の前後に成り立つ対比関係によって推測可能である
  • 対比の前後で変化する言葉(上記の例なら『三四郎』)を見極めることがキモ。それは固有名詞などであることが多い
  • 対比の前後に共通する、「どんなもの(作品名なのか、作者なのか)」が問われているかを認識することも必要
  • 全ての問題文は、クレームが来ないためにも美しく、ツッコミどころなく作られているので、それを信頼して推測していく

 単純化してしまえば、「ですが問題」のキモは「美しい対比構造」なのです。

 故に、クイズ王はこの対比構造を意識することで正解を予測しているわけです。タネが分かれば意外と簡単でしょ。もちろん、対比を意識してから正解を出すまでのトレーニングはたくさん積んでいるので、意識すればすぐできる、というわけではありませんが。

 よりテクニカルなことをいえば、「問題文の読み方」でも「ですが問題」を見分けることができるのですが、これはあくまで「競技クイズ」と呼ばれるテレビ以外のクイズ大会での慣例のようなものに依拠しているのでここでは省きます。たった50文字の問題文にも、さまざまな秘密が隠れているのです。

 では、さらに一歩掘り下げていきましょう。

 そもそも、クイズ王の早押しはこの「美しい対比構造」に依拠しているわけです。逆にいえば、美しい対比構造がない問題では正解にたどり着くことができないわけですね。とはいえ、テレビのクイズ番組に出題される問題は、クレームなどが来ないように基本「美しい」形をしています。

 では、クレームが来ないような「美しさ」って、結局何なのでしょうか? ここからはそれを、具体的な問題文でお見せしましょう。

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