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敗北感から「シャーロック・ホームズ」全60作品を自力翻訳 全文無料公開した管理人は何者なのか?(2/4 ページ)

定期的に話題になるあのサイト。

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老人臭さが嫌で、若々しいホームズにしたかった

――壮絶ですね……。ではそうして出来上がった、「対訳版」のサイトを元に、後から「コンプリート・シャーロック・ホームズ」を作られたわけですね。

寺本 「コンプリート・シャーロック・ホームズ」は2008年の10月ごろの公開だったと思います。対訳版公開直後は精根尽き果てて、しばらくサイトを放置していましたが、ここまでできているなら日本語の文だけをプログラムでマージして、手動で調整すれば、日本語訳として読めるかもしれないと考えました。専用のスクリプトを作成し、2つのサイトを同時に構築/編集できる環境を整えた後、日本語訳サイトとして完成したのが「コンプリート・シャーロック・ホームズ」です。作業にかかった期間はだいたい10カ月ですね。

 こちらは楽しみながらやれました。何しろ日本語はもう打ち込んであるので、コピペと調整だけで日本語の文に変わり、辞書もいらない。それまでと比べると非常に楽です。速度的には、月8本くらいでしょうか。主な作業としてはソースとなるテキストファイルの形式設計、上下左右のインデックスを自動生成するスクリプト、ポップアップテキストの処理などでした。2012年ごろ、時代がガラケーからスマホに完全に代わってしまったため、スマートフォン向けのページをjQuery Mobileを使って簡単に作成しました。現在はスマートフォンからのアクセスが8割以上です。通勤時間帯のアクセスも多いので、おそらく電車の中で読んでいる人がいるんだろうなと想像しています。

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――翻訳された中身についても伺います。無料公開されているものとは思えないクオリティーなのですが、翻訳にあたって特に意識された点は何だったのでしょうか。

寺本 正直に言うと、日本語を入力するのに必死で、自慢できるような工夫はありません。ただ1つ、従来の日本語訳されたホームズの老人臭さが嫌で、若々しいホームズにしたいとだけは考えていました。当時ロバート・ダウニー・Jrが演じた映画「シャーロック・ホームズ」は未公開でしたが、原文には、まさにあんなエキセントリックで傲慢、人をばかにする、ひねくれた、社会不適合者のホームズが生々しく記述されているのです。ところが、よく見る文庫本の翻訳などでは毒気を抜かれて、年配の安楽椅子探偵みたいになっていることが多いのが不満でした。

 苦労した点でいうと、「皮肉」と「あてこすり」が多いのが難しかったですね。まともに訳すると逆の意味になってしまいますから。たとえでいうと「僕は君ほど頭がよくないから」というセリフでも、言葉通りに捉えていい場合もあるし「イヤミ」で言う場合もある。この「皮肉」「イヤミ」「あてこすり」が、シャーロック・ホームズのセリフには非常に多く、正しく皮肉と見抜けばものすごく傲慢なのに、文字通りに訳してしまうと非常に謙虚なホームズになる。ここが面倒です。この辺は現在更新しているブログ「トコトン英語」で解説していますので、よろしければ読んでみてください。

――ブログもやられていたんですね。あとで読むのが楽しみです。もともと英語はどちらで学ばれたんですか? またホームズとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。

寺本 英語は専門学校に4年通い、その後仕事で英文を読むことがよくありました。「シャーロック・ホームズ」との出会いは小学校3年生のときです。最初はたしか新潮文庫で読み(総ルビだったので問題なく読めました)、高校生以降は原文で読んでいました。その後は上記のサイトに出会うまで空白がありましたね。

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――ところで、寺本さんは「ストランド版 シャーロック・ホームズ」という本も出版されてますよね。こちらはサイトがきっかけで出されたものですか?

寺本 「ストランド版」をご存じとは、ホームズ並みの調査力ですね。こちらについてはかなりマニアックな話になるので、その点はご容赦いただきたいのですが……。

寺本さんが手掛けた「ストランド版 シャーロック・ホームズの冒険」(画像はAmazon.co.jpより

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